018 旅立ちの朝のクリーン大作戦! そして、孤独を拒む受付嬢の電撃参戦
テイマーズギルドの宿直室でレンがベッドから起き上がると、同じ部屋の床で固まって眠っていたコボルトたちも、気配を察して一斉に身を起こした。
「おう、みんなお早う」
「ワフワフ!」(マスター、お早うワン!)
すぐ近くで丸くなっていた秋田犬風のアインスが、嬉しそうに尻尾を振って応える。
「さて、今日は午前中にカミラさんとアンナさんのところに挨拶に行って、それからいよいよ辺境の開拓村に出発だ」
「ワフワフ!」(了解だワン! どこまでもついて行くワン!)
レンは昨夜、宿のベッドを汚さないよう普段着のまま寝ていたため、そのまま部屋を出ようとした。すると、シベリアンハスキー風のフンフがトコトコと歩み寄り、レンに向けて前脚を突き出した。
刹那、柔らかな光の粒子がレンを包み込む。生活魔法の『クリーン』だ。
「バウバウ!」(マスターの服、綺麗にしたワン!)
「お、フンフ、有難うな」
お礼を言うと、後ろでは他のコボルトたちもお互いに前脚を向け合い、器用に『クリーン』を掛け合って毛並みをふかふかに整え始めている。
「あれ? フンフはカミラさんにスクロールを買ってもらってたけど、みんなもいつの間にかクリーンが使えたんだっけ?」
「ワフワフ!」(アンナに貰ったワン!)
「ワンワン!」(ダリアに貰ったワン!)
「ワォーン!」(エリーに貰ったワン!)
「ガウガウ!」(フェルダーに貰ったワン!)
アインス、ツヴァイ、フィア、そしてドーベルマン風のドライが、それぞれ旅の間に自分の担当教官(師匠)からスクロールを譲り受けて習得していたことを、誇らしげに教えてくれた。
「へぇ、あの強面なフェルダーさんまでか……。クールそうに見えて、陰でドライをめちゃくちゃ可愛がってたんだな。あはは、みんなに感謝だな」
(というか、『朝焼けの光』の皆はコボルトたちのことを本当に気に入ってくれてたんだなぁ)
大人たちの温かいお節介に、レンの胸がほっこりと満たされる。
◇◇
レンたちが二階の部屋を出て、一階の出入口へ向かってロビーを歩いていると――。
「お早う! レンくん、早起きだね!」
奥のプライベートルームから、すでにばっちり身支度を整えたヘレナが笑顔で歩いてきた。
「お早うヘレナさん。昨夜は急だったのに泊めてくれて有難う。またそのうちこの街に来ることがあるかもしれないから、その時は宜しくね」
レンは軽く手を振ってすれ違おうとしたが、直後、ヘレナにガシッと力強く腕を掴まれて引き止められた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! 『そのうち』ってどういう事!? レンくん、まさかここに住まないの!?」
「え? ああ、言わなかったっけ。俺の家になるのはここじゃなくて辺境の開拓村だから。元々一泊だけの予定だよ」
(あれー、昨日愚痴を聞かされながら、そのつもりで話したと思ってたんだけどなぁ……)
「開拓村ぇ!? 嘘でしょ、あの数日前にゴブリンの群れに襲撃されて壊滅したって村!? まだ周辺一帯は危険らしいよ!? 駄目よ、そんなところ行っちゃ! ここに、この広いギルドに一緒にいなさいよ!」
「うん、襲撃の件は冒険者ギルドの解体のとっつぁんから聞いた。だからこそ現状の状況を確認しに行かないと駄目なんだ。知り合いの腕利き冒険者に護衛を頼んでいるから、道中は大丈夫だよ」
「待ちなさいよ! だったら……だったら、私も行くわ! もうあの誰も来ない場所で、ネズミ相手に一人で過ごす孤独な生活は懲り懲りなのよ!」
「え!?」
あまりにも斜め上な提案に、レンは思わず声を裏返した。
「なによ! 私じゃ足手まといで不服!?」
「いや、不服じゃないけど……本当に良いの? このギルドの受付の仕事はどうするのさ」
「良いも何も、丸1年も誰も訪れないギルドよ!? 私がここにいる意味なんてないわ! よし決めた、ここのギルドは一時閉鎖して、私も開拓村に引っ越すわ!」
おじいちゃん伯爵の年金運営という後ろ盾があるからこそできる、あまりにも豪快すぎる職務放棄である。
「まあ、ヘレナさんがそう言うなら良いけど……村は壊滅状態らしいし、すぐにはまともに住めないかもしれないよ?」
「良いわよ! テント生活でも野宿でも何でもしてあげるわ!」
「……分かった。それじゃあ、俺はこれからカミラさんとアンナさんの家に挨拶に寄ってから行くから、今から『2時間後』に冒険者ギルドの前で待ち合わせにしよう」
「に、2時間!? 2時間しかないの!?」
「うん、お昼前には出発するってフェルダーさんたちと約束してるからね。もし時間に間に合わないなら、後から追ってくればいいさ」
「あああああ、もう分かったわよ! 引っ越しの準備、大急ぎでしなきゃあああああ!!」
ヘレナは頭を抱えて悲鳴を上げると、もの凄い勢いで自分の部屋へと猛ダッシュで引き返していった。
嵐のように騒がしい受付嬢の後ろ姿を見送りながら、レンは「一人旅のはずが、どんどん大所帯になっていくな……」と、呆れつつもどこか賑やかになる未来に笑みをこぼすのだった。




