017 閑散としたテイマーズギルド! 孤独な受付嬢ヘレナのノンストップな独白
賑やかな冒険者ギルドの食堂をあとにしたレンは、夜の帳が下りた街を歩き、五匹のコボルトたちを連れてテイマーズギルドの建屋へとやってきた。
テイマーズギルドは、大型の魔物を伴っての出入りを想定しているのか、入り口の扉や通路がやたらと広く大きく作られた立派な建物だった。しかし、一歩中に入ってみると――驚くほど閑散としていた。というより、人の気配が全くない。広いロビーの奥にある窓口に、ポツンと一人の女の子が座っているだけだった。
「あ……」
重厚な扉が開いた音に反応して女の子が顔を上げ、レンとバッチリ目が合う。そのままレンの後ろから、アインスたち五匹のもふもふ軍団がゾロゾロと静かにギルド内へと入ってきた。
「あ、どうも。こんばんは」
「あ! もしかして、テイマーの方ですよね!? コボルトを連れているし、やっぱりテイマーなんだわ!」
(あ〜、冒険者ギルドの一般人には新種の犬だと思われていたけれど、やっぱり見る人が見れば一発でコボルトって分かるんだな……)
「そうですよ。テイマーです」
「わ〜い! やっと、やっとテイマーの人が来てくれたわ! 神様ありがとう! さあさあ、どうぞこちらにどうぞ!」
女の子は弾かれたように受付のカウンターから飛び出してくると、レンの元へ猛ダッシュ。感動に震える手でレンの両手をがっしりと握り締め、カウンターの奥にある応接用のふかふかなソファへと半ば強引に連行していった。
その後を、五匹のコボルトたちがクンクンとギルド内の匂いを嗅ぎながら、のんびりとついていく。
「あの……こちらに従魔が泊まれる専用の施設があると聞いて来たんですが、今夜は泊まれますか?」
レンはソファに腰掛け、あまりの熱烈な歓迎ぶりに少し圧倒されながら、すまなそうに女の子に切り出した。アインスが定位置とばかりにレンのすぐ隣にどさりと寝そべり、他の四匹はレンの後ろや足元にそれぞれ丸くなって座る。
「勿論、バッチリ泊まれますよ〜! テイマーズギルドに所属さえしてくれたら、何泊でも格安で泊まれま〜す! ちょっと待っててくださいね、すぐにお茶を入れてきますから!」
女の子は満面の笑みでそう言い残してパタパタと席を外し、すぐに温かい湯呑をお盆に乗せて戻ってきた。
「あの、先ほど『ギルドに所属したら』とおっしゃいましたけど、俺、さっき冒険者ギルドにも所属したばかりなんです。テイマーズギルドにも重複して所属することって出来るのですか?」
「ぜ〜んぜん、全く、何処にもこれっぽっちも問題ありませんよ~! はい、どうぞ」
女の子はお茶をレンの前に差し出すと、レンが座る向かいのソファへと勢いよく腰掛けた。
「……それにしても、本当に人がいないですね……」
レンが静まり返った広いロビーを恐る恐る見回しながら、口にした。
「そうなの! そう、そう、そうなのよ! そもそもテイマーっていうスキル自体、世間一般的に考えて元々の発現数が多くない訳じゃない? それなのに、こんな辺境の街にテイマー専門のギルドなんて作ったって、普通は人が集まるわけないのよね。
ああ、ちなみにこのギルドを作ったのは私の祖父なんだけどね? 昔から魔物の研究を狂ったようにやっていて、現役時代に偶然『レッサーワイバーン』をテイムすることに成功しちゃったのよ。ほら、いくらレッサー(下級)と言えどワイバーンはドラゴンの一種じゃない? 亜種とはいえドラゴンを従えた功績が国に認められて、おじいちゃんは伯爵に叙爵されたの。領地を持たない法衣貴族ね。だから国から毎月たっぷり年金が貰えるのよ。その潤沢な年金をそっくりそのまま運営費に回して、『テイマーの社会的地位の向上と、相互扶助』を目的にこのギルドを立ち上げたんだけど――」
「あのー、すみません。お名前をお聞きしても良いでしょうか?」
あまりにも長い間、会話に飢えていたのだろう。堰を切ったようにマシンガントークを始めた女の子に対し、レンはこのままでは一生話が終わらないと察し、会話を中断させるために慌てて言葉を挟んだ。
「あ、ごめんなさい! 名前もまだ教えてなかったわね、私はヘレナよ。それよりも聞いてちょうだいよレンくん! 1年ですよ、1年! 誰も訪れない、ネズミ一匹通りゃしないギルドの受付を、私は丸1年間もたった一人で守り続けているのよ!? 肝心の言い出しっぺであるおじいちゃんは『フィールドワークに行ってくる!』って言ったきり、ギルマスのくせに全く戻ってこないし。出会いも何もありゃしない、このまま私は寂しく老いていくだけの人生をこの受付で送るのかと思ったらもう……!」
「はぁ……。それは、大変でしたね……」
結局、壮大な身の上話からただの泥沼のような愚痴へと変わったヘレナのノンストップなトークを止めることは出来ず、レンは温かいお茶をすすりながら、彼女の1年分の思いの丈を延々と聞き続ける羽目になるのだった。
そんなマスターの苦労を余所に、旅の疲れと焼き肉の満腹感に包まれたコボルトたちは、ヘレナの愚痴を心地よい子守唄代わりにしながら、レンの足元で「スースー……」と幸せそうな寝息を立ててすっかり熟睡しているのであった。




