016 衝撃の事実! 壊滅した開拓村と、もふもふ愛ゆえの再結成
コボルトたちがジュージューと音を立てる鉄板を囲み、謎肉と謎ホルモンの焼き肉を全力で楽しんでいると、ギルドの外からゲイル、ダリア、エリーの三人がすっきりとした顔で戻ってきた。
「あら、なんか凄く美味しそうな匂いがすると思ったら、ツヴァイたちが焼き肉をしてたのね」
「いい匂い! 私たちもそろそろ夕食にしましょうよ」
戻ってきた女性陣が顔を綻ばせるのを見て、フェルダーが尋ねた。
「お帰り。……で、あの『漆黒の翼』だっけか? あの糞冒険者どもはどうした?」
「ああ、あの馬鹿共? 当分の間は誰も傷つけられないし冒険者もできないように、きっちり根性を叩き直してあげたわ」
ダリアがふふんと拳を握り、エリーも満足げに頷く。どうやら「教育」は徹底的に行われたようだ。
「ま、そのくらいで十分か。――とっつぁん、素材の計算が終わったら、とっつぁんも一緒に夕食を食べに行こうぜ」
「おう、誘いは嬉しいんだがな、フェルダー。今日はいつもより解体の依頼が多くてな。この足を引っ張りながらだと、ちいとばっかし時間がかかるかもな」
「そういうことなら、俺も手伝うよ。それと……」
フェルダーはコボルトたちに目を向けた。彼らがちょうど樽の端肉を綺麗に平らげ、満足そうに口の周りを舐めているのを確認する。
「ドライたち! 飯を喰ったなら、とっつぁんの解体を手伝え!」
「ガウ!」(了解だワン!)
フェルダーがまだ手の付けられていない魔物の前で手際よくナイフを構えると、コボルトたちも一斉にそれぞれのマチェットや解体ナイフを握り締め、迷いのない手つきで魔物の皮に刃を入れ始めた。
「おいおいおい、フェルダー! コボルトに解体をやらせるなんて正気かよ!?」
とっつぁんが目を剥いて驚き声を上げる。
「へへ、心配すんなって。道中で俺が直々に仕込んだんだ。いわば、とっつぁんの『孫弟子』ってわけだ。そこいらの半端な新米冒険者より、よっぽど手際がマシだぞ」
「……って、本当だ! 嘘だろ、ここらの冒険者より関節の外し方や皮の剥ぎ方が遥かに上手いじゃねえか!」
「ガウー!」(当然だワン! リーダーのしごきは厳しかったワン!)
ドーベルマン風のコボルト・ドライが、得意げに細い鼻からフンスと熱い鼻息を荒くする。
とはいえ、流石に長年ギルドの裏方を支えてきたとっつぁんの神業には一歩及ばない。とっつぁんは驚きつつも、「そこはもっと刃を寝かせるんだ」「筋膜に沿って引け」と職人気質にアドバイスを始め、それに応じるコボルトたちの解体技術は、さらにリアルタイムで向上していくのだった。
◇◇
コボルトたちの驚異的な手際もあり、山積みの素材の解体はあっという間に片付いた。
一汗かいたフェルダーが、レンに向き直って尋ねる。
「レン、もう今日は時間も晩い。一緒にギルドの食堂で食事をして、今夜はこの街に泊まって、明日の朝一で辺境の開拓村に行ったらどうだ?」
「そうですね。無理して夜道を歩くのも危険ですし、そうします」
「そうなると、まずは泊まる所だなぁ。とっつぁん、コイツら(魔物)も一緒に泊まれるような宿に心当たりはねえか?」
「え? ああ。従魔が泊まれる専用の宿や施設なら、ここじゃなくて『テイマーズギルド』に行けばいい。安くて良い施設を斡旋してくれるぞ。……それよりフェルダー、さっきから聞いてりゃ、その坊主は辺境の開拓村に何をしに行くんだ?」
(テイマーズギルド! ほほう、そんな便利な専門ギルドがあるのか。良いことを聞いたぞ)
レンが内心で感心していると、とっつぁんの視線が自分へと向いた。
「ミッキー侯爵に、その村の統治(村長)を任されたのですよ。これからそこを開拓して俺の家にしようと思って」
「……統治ねぇ。坊主、何も聞いてねえのか? ――あの辺境の開拓村なら、もう無くなったぞ」
「「「えええええええ!!!???」」」
レンだけでなく、それを聞いていたダリアとエリーも同時に絶叫した。
「な、何があったんですか!?」
「3日前だ。ゴブリンのかなり大きな群れに襲撃されてな、村は完全に壊滅したらしい」
「マジっすか……」
フェルダーが顔をしかめ、ゲイルも無言で眉根を寄せる。
「ああ。その後、ギルドの冒険者と街の衛兵が向かってゴブリンの主力は掃討したが、まだ周囲の森に逃げたはぐれゴブリンが残ってるかも知れないから、今はめちゃくちゃ危ねえぞ。村を襲った奴らが全てだとは限らねえしな。現在進行形で冒険者ギルドが調査・警戒中の案件だ」
最悪の報せだった。統治するはずの村が、到着する前に消滅していたのだから。
しかし、レンの目は死んでいなかった。
「……でも、ミッキー侯爵から領地として認められた俺の家(予定地)はそこになりますし、少なくとも現状がどうなっているのか、この目で確かめて把握はしたいです」
毅然と言い放つレン。その姿を、ダリアとエリーが本当に心配そうな目で見つめ合っている。
「――あああああ! 分かった分かった、もう! 俺たちが護衛でその村まで一緒に行ってやるよ!」
フェルダーが頭をガシガシと掻きむしりながら、観念したように声を上げた。
「「やった〜〜〜!!」」
フェルダーの言葉を聞いた瞬間、ダリアはツヴァイに、エリーはフィアに満面の笑みで飛びつき、そのもふもふの首に抱き着いた。
「ワン?(何だかよく分からないけど嬉しいワン?)」
「ワォ?(また一緒に旅ができるワン?)」
「おいおい、お前らなぁ……。全く心配性で過保護なんだから」
苦笑するフェルダーに、女性陣は真顔で反論する。
「当たり前でしょ! ツヴァイもフィアも、まだゴブリンの群れ(残党)と本格的に戦うには早すぎるわよ!」
「そうよ! 『可愛い子には楽をさせろ』って言うでしょ!」
「それを言うなら『旅をさせろ』だよ! 完全に意味が変わってんじゃねえか!」
フェルダーのツッコミが解体所に響き渡る。
「あの……皆さん、本当にありがとうございます。もちろん、村までの護衛料はきっちりお支払いします」
「あはは、気にするなレン! 貰う物は当然ガッツリ貰うけどな!」
フェルダーが白い歯を見せて笑う。
その後、一行は冒険者ギルドに併設された食堂で夕食をとることにした。
しかし、そこで待っていたのは、噂を聞きつけて「一目もふもふを見たい!」と大挙して押し寄せてきた膨大な数の冒険者女子たちだった。
「きゃー! このハスキーみたいな子がフンフちゃん!?」「こっちのドーベルマンの子、格好いい!」「触らせてー!」と四方八方から手が伸び、食堂はてんてこ舞いの大騒ぎに発展。
壊滅した村への不安を抱きつつも、レンは押し寄せる女子たちのパワーと、彼女たちに揉まれて嬉しそうに(あるいは困惑して)鳴くコボルトたちの姿に、どこか救われるような思いで賑やかな夜を過ごすのだった。




