153 血塗られた継承! 影を離れた内通者と、崩壊へ向かう五つの星々
「侯爵を討ち取ったぞおおおおお!」
領主の館に戻ったロジーナの手には、あの恐るべき忍術を操った侯爵プルトンの首がしっかりと抱えられていた。
「ワンワン!(殺ったどー! ワン!)」
「ガウガウ!(俺たちは最後の一撃は見てるだけだワン!)」
「ワォンワォン!(すべてはヴァイシュラ様のおかげワン!)」
「バウバウ!(助けられたワン、恐ろしい手腕だワン!)」
後続してきたツヴァイ、ドライ、フィア、フンフの四匹が、興奮冷めやらぬ様子で駆け寄ってくる。プルトンの首を目の当たりにした館内の忍者たちは、その瞬間、一気に戦意を喪失した。彼らは抵抗する気力を失い、その場に四つん這いになって項垂れた。
その時だ。
「抵抗は止めろ! これより、この領地は俺が治める! そして南オミランとの縁を切り、アレス王国に従うこととする!」
どこからともなく、毅然とした男の声が響いた。影の中から姿を現したのは、先ほどまでレンたちを案内していたザグレウスだった。
「あ、貴方は……!」
「ザグレウス卿……!?」
「ああ……本当に、無事だったのですね……!」
項垂れていた忍者たちが、信じられないものを見る目でザグレウスを見上げる。
「ロジーナ、どうだ。もう一度ここに戻って来ないか? お前ほどの腕があれば、我々と共にこの地で生きることもできる」
ザグレウスの誘いに、ロジーナは鼻で笑った。
「ふん。忍者の生き方なんて、もう懲り懲りなのよ。アレスの王の護衛をしてる今の方が、よっぽど気楽で向いているわ。それに……あっちには『モフモフ』もたくさんいるしね」
「ふん、まあ良いだろう。お前の道だ」
「それよりザグレウス。戦いはまだ始まったばかりよ。闇の一族の総力を挙げて、レン様の覇業を支えなさい」
「ああ、約束だからな。勿論支援するよ。親父であるプルトンをあんな呆気なく仕留められる勢力に、逆らう気など毛頭ない」
(あ、コイツ……やっぱりプルトンの息子だったのか)
レンは内心で呆れながら、二人の会話を静かに聞き流していた。この世界において、親子の情よりも強き者の威光が優先されるのは、もはや常識らしい。
南オミランの重鎮である侯爵家が一つ、それも最強と謳われたプルトン家が陥落した事実は、戦況に計り知れない衝撃を与えた。
この勝利を皮切りに、アレス王国が影で引き込んだ南オミラン各地の貴族たちが続々と兵を挙げ、近隣の領地へと攻め入った。そこへ北オミラン軍が巨大なうねりとなって合流し、南オミラン王国を飲み込んでいく。
南オミラン領土の三分の一は、もはや風前の灯火となっていた。
その頃、南オミラン王国の王都にある円卓の会議室。国王ヘクサゴンの顔色は蒼白だった。
「陛下! クリタルもガモーも、北オミランとアレスの軍勢により陥落しましたあああ!」
「ぐぬぬ……裏切り者どもめ……ッ! 全軍に命じろ、一刻の猶予もならん! 全領地の兵をかき集め、一斉に出陣させるのだああああ!」
国王の怒号が響く中、五つの影が静かに立ち上がった。
「陛下、既に我が軍はいつでも出陣可能です」
精悍な鳥人の侯爵・天空のウラヌス。
「我が軍も、裏切り者に鉄槌を下す準備は整っております」
痩身の魚人侯爵・水魔メルクリウス。
「準備は万端ですが……」
知的なエルフ、侯爵・森人ユピテルが眉をひそめる。
「裏切り者と北オミランの情報は入っています。ですが、あのプルトン侯爵を討ち取った『アレスの軍勢』の詳細がどこにも掴めない。プルトンの領地を落とせるほどの軍勢が、どこをどう通ったのか……それが気がかりです」
「……うむ。引き続き情報を探れ、ユピテル」
「何を言っておる! 見えている敵を叩く、それで良いのだ! さすればアレスも姿を現すだろう」
赤髪の侯爵・火竜マルスが豪快に笑う。
「そうだの。この槌で粉々にしてやればいい」
ドワーフの侯爵・土精サトゥルヌスが短く応じた。
ここに、六大侯爵のうち生き残った五人が勢揃いした。
国王軍、五つの侯爵軍、そして王都周辺の忠臣たちが集めた残存戦力。南オミランの威信を懸けた総出撃が、今、始まろうとしていた。




