152 最終奥義の代償と軍神の一閃! 闇に響く高笑いを切り裂く、鉄の規律と慈悲なき一太刀
林の中でプルトンを囲む四匹のコボルトたちは、その機動力を活かし、完璧な連携で老練なる侯爵の逃げ道をことごとく塞いでいた。
「クソッ……ただの魔物ではないな。この統率力は一体どうなっている!」
焦燥を隠せないプルトンが次の一手を繰り出そうと指を動かすが、それを許さない。
「ガウガウ!(逃がさないワン!)」
ドーベルマンのコボルト・ドライが、九頭竜の黒首から精製された『闇のマチェット』を唸らせる。ゴブリンジェネラルの魔剣をも凌駕するその黒き刃は、忍術の起点となるプルトンの指先を正確に狙い、術の構築を寸断した。
「ふん、闇の扱いであれば、本家の私の方が上よ!」
プルトンは印を強引に解除し、手を横に振る。発生した「闇の風」が刃を霧散させた。しかし、彼が次の印を結ぶ隙は、既に存在しなかった。
「ガウガウ!(喰らえワン!)」
シベリアンハスキーのコボルト・フンフが、プルトンの死角から九頭竜の黄首から作った『雷の槍』を突き出す。
「おっと、あぶねえ!」
身体を捻って躱すプルトン。だが、彼が逃げ道を探して視線を彷徨わせたその先には、既に弓を構えた影があった。
「ワンワン!(フィア、右だワン!)」
ツヴァイの指示に、フラットコーテッドレトリバーのコボルト・フィアが即座に呼応する。
「ワォン!(任せてワン!)」
解き放たれた雷撃が、プルトンが着地しようとした地面を焼き、逃げ道を消失させる。
「中々やるな……倒すことよりも、私の逃げ道を物理的に消すことに特化しているのか」
プルトンが舌打ちし、再び囲みを見渡す。そこには隙一つない包囲網が完成していた。
「もう逃げられないわよ、プルトン」
ロジーナが冷徹な瞳で睨みつける。
プルトンは一度顔を伏せたが、すぐに狂気的な高笑いを上げた。
「クックック……あはははは! 小娘ええええええ! 必殺技は最後まで取っておくものだ。……印は整った。冥土の土産に、闇の一族に伝わる最終奥義を見せてやろう!」
――バンッ!
「闇の葬送!!」
プルトンの両手が重なり、不気味な音が林間に響く。
「な、何だ? いつ、いつの間に……!」
(躱し続けながら、わずかずつ印を結んでいたのか。見たこともない秘伝の印だ……)
「あはははははは! 地獄へ行けえええええ!」
ズズズズ……と、ロジーナとコボルトたちの足元が、泥のような深い闇に染まり始める。
「しまったああああ! みんな、逃げて!!」
ロジーナが叫ぶが、闇に足首まで引きずり込まれ、一歩も動けない。絶体絶命の瞬間――。
――スパッ!!
乾いた音と共に、高笑いを上げたプルトンの首が、まるでボールのように林の地面を転がった。
「……油断大敵ですよ。殺れる時に殺る。その基本、忘れたのですか?」
闇を切り裂くような声の主は、遥か遠方から流星刀を振り抜いたままのヴァイシュラだった。
「ガウガウ!(あんなに遠くから……ワン!)」
「バウバウ!(凄まじい太刀筋だワン!)」
「ワンワン!(助かった、ありがとうワン!)」
死地から解放されたコボルトたちが、震える足で互いを支え合う。
「ア、アリガトウ……」
ロジーナはヴァイシュラに気のない礼を言いながら、無意識にプルトンが最期に結んでいた印を真似ようと指を動かしていた。
(この印が、最終奥義の……)
「同志ロジーナ、その印は止めなさい!! それは周辺の敵を殺すと同時に、術者の生命力も根刮ぎにする自爆印です!」
「えっ!?……あ、確かに。ま、魔力が霧散するように……!」
ヴァイシュラの警告に、ロジーナは慌てて印を解き、めまいがするようにふらついた。
「同志ロジーナ、プルトンの首をレン様に持って行きなさい。貴方がその逃げ道を察知し、首を繋ぎ止めていたからこそ、この作戦は完遂したのです。……さあ、早く戦いを終わらせましょう」
ヴァイシュラはロジーナにそう短く告げると、背を向け、悠然と戦火が広がる館へと戻っていった。その背中には、一切の迷いなき大将軍の威厳が漂っていた。




