151 闇に埋もれし因縁! ロジーナ対プルトン、黒き忍術が交差する死闘の果て
領主の館の前で、百匹の精鋭コボルトたちがレンを囲んで展開する。
「ガフガフ!」(マスター、護衛はお任せくださいワン!)
「わんわん!」(敵の増援は俺たちが粉砕するワン!)
直属のアハトとドライツェンがレンの両脇を固め、レンがその頭を優しく撫でると、二匹は嬉しそうに鼻を鳴らした。ボルゾイのノインも、サンディを守るようにその隣へ移動し、凛々しい立ち姿を見せる。
館の内部からは、フェルダーやコボルトたちが忍者たちと激しく刃を交える硬質な金属音が響き渡っていた。
「忍術の『印』を結ばれる前に叩くのです! 術の準備段階こそ、やつらの最大の隙ですよ!」
サンディの冷静な指示が飛ぶ。彼女の読み通り、コボルトたちは速攻で館から飛び出してくる忍びたちを圧倒していた。
だが、物陰に潜んでいた一人の忍びが、音もなく印を結んだ。
「……闇縛り」
黒い影がコボルトの一匹を捕らえ、身動きを封じる。
「あれ……? この術、どこかで見覚えがあるな」
レンが小さく呟いた。
「わんわん!(闇には光を当てるのが一番ワン!)」
ブラッドハウンドのコボルト・フィルツェンが、九頭竜の白首から鍛造されたマチェットを鋭く振るう。光を宿した刃が闇を切り裂き、術者ごと切り払った。
「わんわん!(助かった、ありがとうワン!)」
「わんわん!(油断するな、まだまだ潜んでいるぞワン!)」
二匹は短い言葉を交わすと、連携して館の深部へ駆け込んでいく。
レンは先ほどのアハトの言葉を思い返していた。
「……ロジーナか」
「ウォン(そうですワン)」
ノインも低く唸り、レンに同意を示す。九頭竜との死闘の最中、窮地で放たれたあの黒い忍術と、今まさに目の前で展開されている術は、紛れもなく同じ系譜のものだった。
「ロジーナ、君は一体……。過去に何かあったんだろうな。だが、彼女が自分から語るまでは詮索しないでおこう。ね、サンディ」
レンが考え込んでいたサンディに同意を求めると、彼女は一瞬バツが悪そうに肩をすくめた。
「え? あ、ああ……そうですね。分かりました、今は触れないでおきましょう」
残念そうな表情を隠しきれないサンディ。その探究心は人一倍のようだ。
その頃。
「クソッ……ここまでか。一旦逃げて、国王にこの襲撃を知らせなければ!」
館の裏手に広がる鬱蒼とした林の中、一人の痩身の老人が冷や汗を流して駆け抜けていた。侯爵『闇のプルトン』。全身を漆黒の装束に包んだ彼は、秘密の通路を抜けて夜の闇に紛れようとしていた。
だが――
「待ちな。プルトン、あんたなら絶対にここを通ると思ってたよ。逃がさないよ」
夜闇を背に、ロジーナが静かに立ち塞がった。
「貴様……ロジーナか! なぜここにいる! そこを退けェッ!」
「なぜって、私はアレスの者だからね。それに、あんたを倒すのが今の仕事だ」
「ふ、ははははは! 分家の小娘が、本家の領主に適うとでも思っているのか? 片腹痛いわ!」
「……やってみたら?」
ロジーナは口元に不敵な笑みを浮かべた。
プルトンが凄まじい速度で印を結ぶと、同時にロジーナも指先を交差させる。
「「闇槍!」」
二人の口から同時に放たれた黒い闇の槍が空中で激突し、凄まじい衝撃波とともに相殺、霧散した。
「ちっ……分家の小娘のくせに、小賢しい真似を!」
「小娘は余計よ。それに、あんたの技術は全部、昔から知ってるんだから」
両者は互いの手の内を知り尽くしたかのように、次々と闇の忍術を応酬する。しかし、相殺され続ける技に、決着の兆しは見えない。
その時、戦いの音と匂いを嗅ぎつけた精鋭たちが、林の奥から姿を現した。
「ワンワン!(誰だ! 主を狙う者かワン!)」
「ガウガウ!(親玉か! 囲むぞワン!)」
「ワォン!(お、ロジーナだワン!)」
「バウバウ!(戦ってる、加勢するワン!)」
ツヴァイ、ドライ、フィア、フンフ。属性を宿した武器を手にした四匹のナンバーズが、一斉に包囲網を築く。
彼らはそれぞれの属性を秘めたマチェットを抜き放ち、闇に紛れるプルトンを逃さぬよう、静かに、しかし確実に牙を剥いて立ち塞がった。




