149 忍び寄る金と影の罠! 冒険者ギルドを黙らせ、五十の忍び家を崩す軍師の毒
「それで、その南オミランの攻略は具体的にどう進めるつもりなんだい?」
レンの問いに対し、軍師サンディは薄く冷ややかな笑みを浮かべて答えた。
「レン様、驚かないでくださいね。南オミランは……『忍者の国』なのです」
「は? ……忍者!? マジかよ」
レンは思わず隣に座るウォルター王子を振り返った。「本当なのか?」と無言で尋ねる。
「ええ、本当ですよ。我々にとって南オミランは、昔から『忍びの里の集合体』のような国ですから」
ウォルター王子の真剣な表情を見て、レンは改めてサンディに向き直る。
「陛下、私の言葉を信じていただけないのですか?」
「サンディ、ごめんごめん! いや、まさかこの世界で忍者っていうワードが出てくるとは思わなくてさ。あまりの驚きにね」
「言い訳にもなっていませんけれど……まあ良いです。話を戻しましょう。忍者といっても、本質は『傭兵』と変わりません。金銭という報酬のために戦い、護衛を行い、あるいは敵を排除する。ただ、傭兵団と決定的に違うのは、その活動が情報収集や暗殺といった『影の分野』に特化している点です。そして何より、各一族が独自に継承するユニークな『忍術』を操るところが厄介であり、同時に魅力的なのです」
「忍術……か。興味がないと言えば嘘になるけど、今はそれどころじゃないな」
「南オミランには五十三の貴族家があります。貴族といっても、要は五十三の忍者一族です。それぞれの家が代々伝わる得手不得手を持っています」
サンディは地図を広げ、指先でいくつもの拠点を指し示す。
「その五十三家のうち二十一家は、南オミランを統治する国王が厚い信頼を置く家です。さらにその中でも六家は『侯爵家』として重用され、国の実務を担っています」
「なるほど、そこが攻略の難所になりそうだな」
「ええ。ですが、忍者といっても所詮は傭兵。彼らを動かすのは王道よりも『黄金』です。我らアレス王国が大口のスポンサーとして莫大な資金を投じ、彼らを雇い入れました」
「え、そんなにあっさり雇えるものなの?」
「ええ、単純な話ですよ。仕事を与えれば動く。それだけです」
「具体的に、どんな仕事をさせているんだい?」
「各国の諜報、そして……冒険者ギルドへの工作などですね」
「……え、冒険者ギルド?」
「レン様、アレス王国から冒険者ギルドを追い出して以来、ミノス王国や周辺国のギルドがやけに大人しくなっていると思いませんか?」
言われてみれば、確かにその通りだった。レンの存在を疎ましく思っていたギルド関係者が、最近は驚くほど静かにしている。
「何も言ってこないし、刺客も送ってこない……不思議だったんだ」
「ええ、忍者を使いました。彼らに指示したのは情報操作や、あるいは『特定人物の暗殺』など、実に多岐にわたる汚れ仕事です。その結果、ミノス王国やオミラン王国の冒険者ギルドから、レン様に対する賞金首手配書は完全に撤回させました」
(……暗殺って、サンディ、サラッと言うけどめちゃくちゃ怖いことしてないか?)
「通りでギルド関係の騒ぎがピタリと止んだわけだ。全て裏で手が回っていたんだね」
「ええ。結果として五十三家のうち三十二家は、アレス王国が大口スポンサーである以上、ほぼ我々の意のままに動きます。お金はかかりますがね」
「国王が信頼する二十一家以外は、実質こちらの味方になったってことか」
「はい。攻略の準備は万端です」
「……で、いよいよ攻略を開始するのか?」
「いいえ、まだです。どこの国でも内部で不満を持つ者はいますし、信頼されているはずの二十一家だって、決して一枚岩ではありません」
「まさか、そこを突くのか?」
「はい。国王の信頼が薄い家、あるいは信頼されていても金銭面や一族の維持に問題がある家をアレスに引き込む。同時に、信頼されている家の評判を落とす噂を流し、あるいは罠に嵌めて孤立させる――。この二段構えで攻めます」
「サンディ、そんな大掛かりな工作が、短期間で出来るのかい?」
「私の力だけでは無理です。ですが、ヘレナ王妃の情報収集力と、元々この手の仕事に特化した忍者たちの力を使えば容易いことです。忍者は中々使えますよ。今後のアレスの目的のためには、彼らの力は不可欠と判断しました」
「なるほど……。南オミランだけじゃないだろう?」
「ええ。南の『イガルダ王国』もまた忍者の国です。今回はイガルダの忍者たちもまとめて雇い入れ、仕事を与えています」
サンディの冷徹な采配により、南オミランの防衛網は内側から腐食させられていた。
「その結果、二十一家のうち十一家は、すでに我々の影響下に引き込むことが出来ました。残る侯爵六家と、頑固な四家については……」
サンディは冷たい瞳で地図上の王都を指差した。
「懐柔は困難と判断しました。ですので、これよりは武力による実力行使へと移ります」




