145 次なる一歩は婚姻同盟! モフモフ至上主義の義妹と、二匹の新星コボルト
ここは、ミノス王国王城の一角にある国王レンの執務室。
本国アレス王国と同様に、レン、ヘレナ、そして新たに加わったリリスの執務机が並び、機能的な応接セットや護衛であるロジーナの簡易的な席が整然と配置されている。
今日の護衛は、側仕えも兼ねるロジーナのほかに、レンの直属護衛であるアハト(ワイマラナー)とドライツェン(ジャーマンシェパードドッグ)、そしてリリスの護衛であるツヴェルフ(セントバーナード)が静かに控えていた。
「レン様、オミラン王国攻略の準備がすべて整いましたわ」
静寂を破り、軍師サンディがキリッとした表情で執務室に入ってきてレンに告げた。
「おう、サンディ。いよいよか。具体的にはどのように攻略を進めるのかな?」
「はい。以前も少しお話ししましたが、現在オミラン王国は国内が北と南に分かれて激しく争っております。我が国は『北オミラン』と強固な手を結び、まずは南オミランを確実に攻略していく手筈となります」
「なるほど。でも、北オミランとの同盟はそこまで順調に進んでいるのかい?」
「ええ、抜かりはありませんわ」
「ただの口約束や書面だけの同盟で、本当に信用できるのかな?」
レンが慎重に尋ねると、サンディはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「ただの同盟ではありません。互いの血を繋ぐ『婚姻同盟』にございます」
「婚姻? 一体、誰と誰が結婚するんだ?」
「オミラン王国嫡男の王子と、レン様の『義妹』にございます」
「いもうと!? 僕の……!? 待ってくれ、僕にそんな妹なんていたっけ? どこにいるのさ。僕は全く知らないぞ。本当に信用を置いて大丈夫な相手なのか?」
素っ頓狂な声を上げるレンに、サンディは呆れたように溜息をついた。
「レン様はよーく知っておりますよ。リリス様の妹君であらせられる、ルル様です。熱狂的な『モフモフ信者』であるルル様が相手であれば、こちらを裏切ることは絶対に有り得ませんわ」
「え、でも……僕とリリスはまだ結婚してないぞ?」
「ならば、リリス様と直ぐにでも正式な結婚式を挙げてください。そしてこのミノス王国も名実ともにレン様の国にしてしまうのです。すべてはそこからスタートします。ミノス王国の重臣や民たちも、その日を心待ちにしておりますよ」
レンは引きつった顔で、隣の席のリリスをチラリと見た。
「ふふっ、私はいつでも準備万端で大丈夫ですわ、旦那様」
リリスは妖艶な微笑みを浮かべ、熱い眼差しでレンをじっと見詰めた。その大人の色香に、レンは完全にドギマギして顔を真っ赤にする。
「リリスもこれまで本当によく国のために動いてくれているものね。本人も『第二夫人で構わない』と言ってくれているのだし、レン、ここは男らしくサッサと済ませてしまいましょう!」
正妻であるヘレナが、実にあっさりとレンの背中をドカンと押した。
という強力な内助の功(?)もあり、レンとリリスの結婚式が国を挙げて盛大に行われたのだが……まぁ、そこらへんの甘いエピソードはここではひとまず省略するとして――。
◇◇
結婚式も無事に終わり、いつもと変わらぬ空気へと戻ったレンの執務室。
「ガフゥ〜……ガフッ」(ふぁ〜あ、今日も今日とて平和で暇だワン……)
大きな欠伸をして床にゴロリと横たわるアハト。
「わんわん!(こらアハト! 主の御前だぞ、またそうやってすぐ弛む! シャキッとするワン!)」
すかさずお説教を始める真面目なドライツェン。
「ははは。アハト、そんなに暇ならちょっと裏山へ狩りにでも行ってきても良いぞ? ここにはドライツェンもツヴェルフもいるし、それにロジーナも……一応、いるよね?」
「ちゃんとここにいるわよーだ!」
ひょっこり顔を出したロジーナが、チワワのコボルト・チワと一緒に、淹れたての香ばしい紅茶をレンの机に給仕する。
「ガフガフ♪」(やったぁ! 流石マスター話がわかるワン! 一っ走り行ってくるワン!)
「わん……(全く、お前という奴は……ワン)」
尻尾をちぎれんばかりに振るアハトと、呆れて耳を垂らすドライツェン。
そんな微笑ましいやり取りの最中、コンコンと扉が叩かれ、リリスの妹であるルルが緊張した面持ちで入ってきた。
「レン様、新しく義理の兄上となった貴方に、どうしても一生のお願いがございます」
「ん、ルルちゃん。改まってどうしたんだ?」
「ルルは、アレス王国の未来のためにオミラン王国へお嫁に行くことは、百も承知で了承いたします。……ですが! ですが、大好きなモフモフのコボルトたちと完全に離れ離れになることだけは、我が魂が到底耐えられません!」
「あー、それはそうだよねー。異国の地でモフモフがゼロなんて、死んじゃうよねー」
ロジーナが我が事のように激しくルルに賛同する。
「なるほど、そういうことか。それなら、オミランへ連れて行きたいコボルトがいるのかい? 数匹程度で、何よりその子たち自身が『ルルと一緒に行きたい』と了承してくれるなら、連れて行っても全然構わないよ。向こうでの君の護衛も必要だしね」
「ああ、お優しい義兄上、感謝いたします! 実は……すでに裏でしっかりと交渉を重ねて、本人たちからも快い了承を貰っているのです! ……さあ、お出で!」
ルルがパッと振り返り、扉の外に向かって声を掛けると――
「わんわん!」(マスター♪ ご挨拶に伺いましたワン!)
「わんわん!」(はーい! よろしくおねがいしますワン!)
トトトッと小気味よい足音を響かせて、2匹の新たなコボルトが元気よく執務室に入ってきた。
一匹はシルキーな美しい長毛を揺らす『ヨークシャーテリアのコボルト』。
そしてもう一匹は、華やかで豊かな被毛をまとった『シェットランドシープドッグ(シェルティ)のコボルト』だ。
「おお! これはまた可愛い子が来たね。ヨークシャーテリアのコボルトは小柄だから護衛になるかは分からんが……シェットランドシープドッグのコボルトなら、元々牧羊犬の血筋だし、俊敏でしっかり護衛もこなせそうだね」
レンが感心して顎を撫でるが、ルルは力強く首を振った。
「義兄上、実戦での護衛能力など、このルルにとっては些事、どうでも良いのです! 何よりも『可愛い』が最優先! 『モフモフは正義』なのですから!」
「そ、そうか……(やっぱりヘレナたちの周りの女性は、みんなモフモフ基準なんだな……)」
「ふふ、これで何の後憂もなく、オミランの王子様の元へ堂々とお嫁に行けますわ!」
ルルは両手で完璧なブイサインを掲げ、満面の笑みを咲かせるのだった。




