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【完結版】史上最弱のコボルトテイマーが異世界を征服するらしいっす〜最弱スキルの犬たちは、最強の軍勢になりました〜  作者: ボルトコボルト


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140 軍神無き王国の「我が世の春」! 無能な新王の傲慢と、騙された辺境農民騎士団

 時間を少しだけ巻き戻す――。


 これは、ヴァイシュラが遥か彼方のアレス王国で「大将軍」に就任する、ほんの少し前の出来事。エチラル王国の王城にある、かつてヴァイシュラが使っていた国王執務室でのことである。


「ぐっ、ひっ、ひ……。やはり、王たる者が座る椅子はこうでなくてはな!」


 ヴァイシュラが王位を投げ打って行方不明になった直後、棚ぼたで新国王の座に就いた叔父の公爵は、これ以上ないほど満面のニヤニヤ面を浮かべていた。彼は最高級の革と金糸で誂えられた執務椅子の座り心地を、お尻をそわそわと動かしながら存分に満喫している。


(あのヴァイシュラの小娘め、前は小汚くてショボい木製の椅子と机で、カリカリとくだらん書類仕事ばかりしていおったらしいが……。これだから女は器が小さいのだ。王の威厳には、これくらいの贅沢と高級感が必要不可欠よ!)


 頭の悪い思考を巡らせながら、新王は豪華な窓の外をボンヤリと眺めた。平日の真っ昼間だというのに、彼の頭の中にあるのはただ一つ。


(さて、今日の夜はどこの高級酒場に飲みに行くかなぁ? どの極上女を侍らせてやろうか)

 そんな、お気楽極まる娯楽のことだけだった。


(なにせ、今の余には湯水のように使える金が有るのだ! ヴァイシュラが消えてからというもの、余の権力に擦り寄る無能な貴族どもから、裏金と賄賂がたんまりと入って来るからなぁ。ぐへへへ!)


 一国の最高権力者たる国王なのだから、本来は国の正規ルートの収入の方が遥かに多いはずなのだが、この新王は根がとてつもなくセコく、そして救いようのない小心者であったため、目先の賄賂にこれ以上ない「我が世の春」を感じていたのだ。


 そこへ、バタバタと無作法に扉が開き、側近の文官が血相を変えて飛び込んできた。

「へ、陛下! 大変でございます!」


「なんだ、騒々しい。静かにせんか」

新王は露骨に眉をひそめた。


(チッ、折角のんびり、賄賂の計算をして良い気分に浸っていたというのに、水を差しおって)


「か、カイル王国軍が、我が国の属国である『コーズケット』に突如として攻めて来たと、先ほど早馬から報告が入りました!」


「不快な……。またあの田舎者どもがちょっかいを出してきたのか。だったら、とっとと中央の軍を派遣して、コーズケットの地から叩き出してやれ。全く、我がエチラル王国との圧倒的な国力の差を知らんのか、あのカイルの馬鹿どもは」


「はっ! では、ヴァイシュラ様の代わりに就任いたしました、新将軍へすぐに出陣の命令を下します!」


「ああ、そうしろ。だが、中央の腑抜けた貴族兵どもを集めるには、どうせダラダラと時間がかかるだろう? その間、カイル軍の足止めとして、まずはあの目障りな辺境伯の私兵どもを先行させて戦わせておけ」


「ははっ! さすが陛下、実に見事なトカゲの尻尾切り。そのように手配いたします!」


 ところ変わって、中央から酷く冷遇されている辺境伯の執務室。


「――閣下。王都の中央政府より指令が届きました。『エチラル本国軍が出陣するまでの間、我が辺境軍を直ちにコーズケット王国へ派遣し、カイル王国軍を抑え込め』とのことですが……どうされますか?」


 副官が苦渋の表情で尋ねると、辺境伯は盛大に机を叩いて憤慨した。


「どうするもこうもあるまい! 国王の命令だ、断れば謀反人にされる、行くしかないだろう! 本当に本国の中央貴族どもは困ったものだ。コーズケットのボンクラどもめ、自分たちの防衛すらまともに解決できんのかあああ!」


「しかし閣下……我が国には、もうあの『軍神』ヴァイシュラ様がいらっしゃらないのですよ? 彼女の戦術眼抜きで、我々だけでカイル王国が誇る最強の『突撃騎馬兵』を抑え込めるかどうか……」


「……フン、分かっている。だから、本気で我が軍の精鋭を出す必要などない。あの王都の情勢も、ヴァイシュラ様が行方不明になったことも何一つ知らない、あの北部の『田舎者騎士団』でも派遣してやればいい。普段から中央への礼儀も知らん生意気な奴らだ、丁度いい間引きの機会だろ」


 という最悪な擦り付け合いの結果、何も知らされずにカイル王国軍の防衛線へと派遣された、純朴な「田舎者騎士団」の面々はというと――。


「団長ぉ〜、おいら達だけでこんな最前線に出陣なんて、また王都の偉い人たちに貧乏籤を引かされたんじゃないんすかぁ?」


 若い団員が、錆びかけた長槍を肩に担ぎながらのんびりと愚痴をこぼす。


「馬鹿言え。なーにが貧乏籤だ。おいら達には、あの無敵のヴァイシュラ様がバックにいっから大丈夫だべ。もし本当に危険な状況になったら、いつものようにヴァイシュラ様がどこからともなく神速で出張ってきて、敵をバッタバッタと片付けてくれるさぁ!」


 団長と呼ばれた大柄な男が、豪快に笑いながら胸を叩いた。


「いやぁ、でも……なんか今回ばかりは、胸騒ぎというか、嫌な予感がするんすよねぇ……」

 首を傾げる若い団員。


 当然だが、ヴァイシュラはすでにエチラル王国を完全に見限り、アレス王国でモフモフたちに囲まれて幸せに暮らしている。したがって、この男の不吉な予感は百パーセント的中していた。


「心配しすぎだっぺ! サクッとカイルの奴らを追い払って、国からたんまり報酬を貰って村に帰っぺよ!」


 彼らは「騎士団」という大層な名前を冠してはいるものの、元々は最果ての辺境の地。専属で騎士業だけで飯を食えている者など一人もおらず、普段はみんな鍬や鎌を握って農作業をしている、いわゆる『半農半士』の素朴な騎士団だった。


 当然、王都のドロドロとした政変や、ヴァイシュラが引退したという中央の重大な出来事には、恐ろしいほど疎い。しかし、農業国であるエチラル王国の軍事力を底辺で支えているのは、実はこの様な農業主体のタフな騎士たちが殆どだった。


 だが、彼らには一つだけ、他国の兵に勝る強みがあった。


 彼らは日々の農業で極限まで鍛え上げられた強靭な足腰を持っており、かつてヴァイシュラと共に何度も死線を潜り抜けてきたことで、それなりの「精強さ」だけは持っていたのだ。


 そして何より、彼らは共に戦ってきたヴァイシュラに対して「絶対の信頼」を置いていた。何故ならば――彼女の言った通りに戦って、負けたことがただの一度も無かったからだ。


 過去に何度か危ない局面はあったものの、ヴァイシュラの指示通りに右へ左へ動いた結果、いつも最後には笑えるほどの勝利と、村を潤す報酬を手にしていた。


 しかも最近は、ヴァイシュラの卓越した教導のおかげで騎士たちの腕前そのものも上がっており、ピンチになること自体が少なくなっていた。その結果、彼らの中には「ヴァイシュラがいれば絶対に大丈夫」という、致命的な油断が生じていたのである。


「おうよ! カイルの突撃馬どもをちょっと驚かせて、サクッと小遣い稼ぎといくべ!」


 エチラル王国がすでに「終わりの始まり」を迎えていることなど露知らず、彼らはあまりにも気楽な思いで、地獄の待つ最前線へと出陣していくのであった。

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