139 軍神の黒き「流星刀」と、羨望に包まれし大工犬たちの王都再会
数日間の旅路の末、レンたちは次なる新天地、ミノス王国の壮麗な王城へと無事到着した。
「レン様、お久しぶりですわ」
「わんわん!」(マスター♪ お待ちしておりましたワン!)
出迎えたのは、可憐なミノス王国の王女リリスと、彼女の頼れるパートナーであるセントバーナードのコボルト・ツヴェルフだ。
「久しぶり、リリス! 元気そうだね」
「私は元気ですけれど……、それにしても随分とこちらへ来るのが遅くなりましたね?」
「ああ、道中のエマの辺境で、九頭竜の大蛇が出現してね。その退治をしていたら遅くなっちゃったんだよ」
(まあ、途中でヴァイシュラの大将軍就任式なんかをやっていたのも理由だけどね)
「あらあら。そんな危険な魔物、配下の強者たちに任せれば良いのに。レン様はまた、ご自身が戦えないのを知りながら現場へ赴いたのですか?」
「そうなのよ、リリス様。全く、いつも無茶ばかりで困ったものだわ」
ヘレナが我が意を得たりとばかりにリリスの言葉に同意する。
「む、二人して嫌な言い方だな。だが、現場に行ったからこそ良いことはあったんだ。あの『軍神』ヴァイシュラを我が国の大将軍に迎えることが出来たからね」
「リリス様、アレス王国大将軍のヴァイシュラです。以後、お見知り置きを」
レンが後ろを振り返って促すと、ヴァイシュラが凛とした佇まいで一歩前に出て、リリスへと優雅に挨拶を交わした。
「まぁ、貴女が……! リリスですわ。お噂はかねがね伺っております。軍神ヴァイシュラ、まさかあのエチラル王国の女王がアレスの大将軍に就任するだなんて、思いもしませんでしたわ」
「激動の末、偶然が重なった結果にございます」
「それにしても旦那様。貴方の周りには、どうしてこうも美しい女性が次から次へと集まってくるのかしら? 本当に目を離せませんわね」
「いや〜、やっぱり俺の『仁徳』かなぁ? あはは!」
(心の中で「旦那様って、まだ婚約中なんだけどね」と突っ込むレンである)
「いいえ。全てはモフモフのお陰ですわ、陛下」
すかさず軍師サンディが冷静に突っ込みを入れた。
(え! いや、まあ、そう言われれば全面否定はできないけど……そこは俺の魅力ってことにしておいてよ……)
内心で全く納得がいっていないレン。
「その通りですわ、同志サンディ。全ては聖なるコボルトのお導きによるもの」
ロジーナがサンディに同意し、二人はお互いの拳と拳をフレンチトーストのように軽く「こつん」とぶつけ合った。
「モフモフは世界で最も敬愛すべき存在ですものね」
リリスが目を輝かせる。
「そうよ、同志リリス。わかっているわね」
「まぁ、ヴァイシュラ様、貴女もすでにこちらの『同志』になられていたのね!」
(はぁ、全くコイツら、すぐそっちの派閥で団結するんだから……)
目の前で一瞬にして意地悪くも楽しげに意気投合するリリス、ロジーナ、サンディ、そしてヴァイシュラの姿を見て、レンは深いお気楽なため息をつくのであった。
「ところで、レン様。もし九頭竜の極上の素材があるのなら、ここミノスでは素晴らしい武器が作れますわよ」
「うん、そうみたいだね。王都市街へ来る前にジュリアとアンナに聞いたよ。ミノス王国には、歴史的にも腕の良い高名な鍛冶師が多いらしいじゃないか」
「ええ、そうですわ。稀代の伝説的鍛冶師『セイシュー』の愛弟子であり、世にいう【セイシュー十傑】の一人、名工『キンジュー』がこのミノス王国に工房を構えておりますの」
「ほう、あのセイシュー十傑ですか。それは武人として、一度ぜひお会いしておきたいですね」
ヴァイシュラが興味深そうに話に割り込んできた。
「そう言えば、ヴァイシュラ様が今お持ちの刀も、セイシューが遺した至極の作刀の一つでしたわね?」
リリスが彼女の腰に目をやると、ヴァイシュラは満更でもない誇らしげな顔になり、愛おしそうに腰に差した刀の柄にそっと手を添えた。
「ふふふ、その通りです。これはセイシューが晩年に作刀した唯一無二の銘刀……遥か天より降り注いだ隕石に含まれる未知の希少金属を使用して鍛え上げられたと言われる、伝説の『流星刀』にございます」
「えっ、そんな凄まじく珍しい刀なの!?」
「すご〜い! 見せて見せて、ヴァイシュラ!」
レンとロジーナの武器マニア気質が刺激され、二人はヴァイシュラの腰元へ興味津々で身を乗り出した。
「じゃじゃ〜ん」
普段の凛々しい大将軍らしからぬ、少しお茶目で悪戯っぽい口調と共に、ヴァイシュラは静かに腰の刀を引き抜いた。
「「おお……!」」
抜かれた刃は、妖しくも美しい漆黒の輝きを放つ『黒刀』であった。接近戦での乱戦や、鞘から迅速に抜き放つために、あえて反りが浅く、長さも少し短めに仕立てられた、極めて実戦的で無駄のない刀身だ。
「……でも、このかなり短めの刀で、よくもまあ、あの山ほど巨大な九頭竜の首を一刀両断出来たな」
レンは感心しつつ、ふと疑問に思った。
(客観的に見ても、その流星刀の長さは、九頭竜の首の太さの3分の1も無いんじゃないか?)
「ふふ、それこそが我が磨き上げた『技術』というものです」
ヴァイシュラは自慢げにふんぞり返り、いたずらっぽく笑った。
主たちが武器の話題で盛り上がっているその後ろでは、コボルトたちによる心温まる「再会と自慢」の時間が繰り広げられていた。
「わんわん、わんわん!」(ツヴェルフ、久しぶりだワン! コイツ、先日の戦いでマスターから直々に『フィルツェン』って素晴らしい名前を貰ったんだワン!)
ジャーマンシェパードドッグのドライツェンが、誇らしげにブラッドハウンドのフィルツェンをツヴェルフに紹介する。
ツヴェルフとドライツェンは、共にアレス王国の大工コボルト出身であり、昔から非常に仲が良いのだ。
「わんわん!」(おお! フィルツェンか、命懸けでマスターを守ったって聞いたワン。本当に良かったなワン!)
「ガフガフ」(おいツヴェルフ、驚くのはそれだけじゃないワン)
「ウォンウォン」(なんとドライツェンは、ノインに代わって新しくマスターの直属護衛に大抜擢されたんだワン!)
ワイマラナーのアハトとボルゾイのノインが、ニヤニヤしながらツヴェルフに最新の人事を教える。
「わ、わわん……!?(な、なんだってワン……!? う、羨ましすぎるワン……! 私だって本当はマスターのすぐ側で護衛をしたいワン……!)」
ツヴェルフが耳をペタンと垂らし、本気で羨ましそうな声を上げる。
「わ〜わん♪(まあねぇ〜、こればかりは日頃の行いと、この圧倒的な知性と戦闘力の賜物だワン♪)」
ドライツェンは、まるで前髪をシャッと掻き上げるかのようなポーズをキメてみせた。(※実際には掻き上げる髪の毛など一本もないので、あくまで仕草だけである)。
そんなモフモフたちの微笑ましいやり取りを背後に感じながら、レンたちのミノス王国での新たな冒険と、名工キンジューを巡る物語が幕を開けるのだった。




