表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結版】史上最弱のコボルトテイマーが異世界を征服するらしいっす〜最弱スキルの犬たちは、最強の軍勢になりました〜  作者: ボルトコボルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/157

141 軍神無き戦場の現実! 泥に塗れる口だけ将軍と、崩壊を待つ愚者の牙城

「な、なんだこれは……! どうしてこんな、どうしてこんな事になっただあああああああ!」


 地響きのような怒号と悲鳴が、硝煙の立ち込めるコーズケット王国の平原に響き渡る。


 無敗を誇ったはずのエチラル王国・辺境農民騎士団が、属国コーズケットの防衛軍と合流してカイル王国の精鋭騎馬隊を迎え撃ったものの――結果は無惨きわまる惨敗。そして、見るも無残な敗走であった。


「ヴァイシュラ様ッ! ヴァイシュラ様はどこだあああ!」


 的確な指示を出す司令塔がいない戦場が、これほどまでに混沌とし、呆気なく蹂躙されるものなのか。農民騎士たちは己の血を流しながら、かつての絶対的な指導者の名を叫び続けた。カイル王国の騎馬隊は容赦なく彼らを蹴散らし、コーズケットの美しい街々は次々と占領されていく。


 コーズケット王国の、とある防衛都市まで命からがら撤退し、泥をすすりながらようやく一息ついたエチラル王国軍の前に、突如としてきらびやかな軍旗が翻った。


「お、おい! エチラル本国からの増援軍が来たぞおおお!」


「ヴァイシュラ様だ! ヴァイシュラ様がやっと助けに来てくれたんだべぇ!」


「ヴァイシュラ様あああああああ!」


 歓喜に沸く農民騎士たちを尻目に、エチラル辺境騎士団の団長と副団長は、一刻も早く次の作戦を仰ぐべく、新しく設営された増援軍の総司令部へと文字通りすっ飛んで行った。


「ヴァイシュラ様あああああ!」


「ヴァイシュラ様、来るのが遅っ――」


 しかし、豪華な陣幕を押し開けた二人が目にしたのは、見慣れた凛々しい銀髪の麗人ではなかった。そこにふんぞり返っていたのは、香水臭く、実戦の泥など一滴も浴びていない、仕立ての良い甲冑に身を包んだ肥満体の男――新将軍ヴァージルであった。


「喧しい! なんだ貴様らは。来た早々ギャーギャーと、無礼極まるぞ! 辺境の野良犬どもが。それよりも貴様ら、カイル王国如きの田舎兵に無様に慘敗したらしいな?」


 団長は呆然と立ち尽くし、その顔を激しい不審感で歪めた。

「……あんた、誰だ? ヴァイシュラ様はどうしただ?」


「ヴァイシュラだと? フン、あの小癪なクソ女なら、我が王都から完全に追い出してやったわ! 今の軍の最高責任者は、この我が新将軍ヴァージル様だ!」


「はあぁ!? ヴァイシュラ様を……追い出したって言っただか……!?」


「そうだ。偉大なる公爵様が新たな国王になられたのだ。そんな中央の常識すら知らんのか? これだから情報に疎い田舎者は困る」


「今回の出陣は……ヴァイシュラ様の命令ではなかったのか。通りで作戦書がマト外れで、おかしな戦いだと思っただ……!」


「はあ? 貴様ら、己の無能による敗戦を、女一人がいない所為にする気か? どこまで情けない奴らだ」


「――何とでも言え。ヴァイシュラ様のいないエチラルのために流す血は、おいら達には一滴もねぇ。……おい、みんなを連れて帰るぞ」


 団長が冷たく言い放つと、ヴァージルは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「貴様らあああ! 我が将軍の指示も無く、勝手に帰れると思っているのか! しかも高貴な貴族であり将軍である我が身に対して無礼の数々、ただで済むと思うなよ!」


「ほう、今まで戦争で名前も聞いた事も無いような青二才が……! しかも『貴族』だと? おら達が戦場で死に物狂いで命を懸けて戦っていた間、お前らはどうせ安全な王都でぬくぬくと報告を聞いていただけだろうが! そんなお前らに、一体何が出来る! やってみろよ、ああ゛!?」


 ドンッ! と凄まじい地響きのような足踏みと共に、修羅の如き怒気を放つ団長の迫力に、ヴァージルや周囲の貴族騎士たちは「ひっ……!」と短く悲鳴を上げて派手によろめいた。


 横では、無口な副団長がすでに剣の柄に手をかけ、いつでも首を跳ね飛ばせるという無言の圧力をビリビリと発している。


「帰るぞ!」

 団長が吐き捨てるように言うと、二人はヴァージルを完全に無視して陣幕を激しく踏み付け、出て行った。


「ヴァ、ヴァージル様……! 何と無礼極まる、身の程知らずの反逆者でしょうか。ぐ、軍法裁判にかけて即刻処刑にいたしましょう!」


 腰を抜かしていた側近が震える声で進言すると、ヴァージルは青ざめた顔を怒りで引きつらせながら喚き散らした。


「う、うむ! ゆ、許せん……! 直ちに軍法裁判の訴求書を王都に送れ! 見せしめに死刑にしてくれるわ!」


 しかし、現場の兵たちの心を完全にへし折ったエチラル・コーズケット合同軍が、勝てるはずもなかった。その後もカイル王国の猛攻の前に敗戦に敗戦を重ね、コーズケット王国の領土の3分の1は、あっという間にカイル王国によって蹂躙され、占領されることとなったのである。


 一方、破竹の進撃を続けるカイル王国の陣営では、国王と宰相が極上のワインを片手に大爆笑していた。


「あはははは! 素晴らしい! あの『軍神』ヴァイシュラが国を去ったという噂は本当だったか!」


「何でも風の噂によれば、遥か南のアレス王国とやらで、ヴァイシュラの大将軍就任が盛大に発表されたようでございます。エチラルの愚か者どもは、自国の至宝を自ら叩き出したのですな」


「くくく、最高の喜劇だな! 遮る壁のなくなったコーズケットの地など、ただの肉塊よ。手当たり次第に切り取り、我が領土とせよ! あはははは!」


 さらに、この情勢を冷徹に見つめていたコーズケット王国の南の隣国、『サガミド王国』の玉座でも、新たな野心が燃え上がっていた。


「ヴァイシュラの居ないエチラル王国なんぞ、もはや牙を抜かれた老犬、恐るるに足らんわ! 漁夫の利だ、我が国も直ちに侵攻を開始し、コーズケットの領土を毟り取るのだあああああ!」


 サガミド王国国王の貪欲な命令により、サガミド王国もまた、泥舟と化したエチラル王国をあざ笑うかのようにコーズケット王国への侵攻を開始した。世に言う「泥沼の二正面作戦」の幕開けである。


 その頃、本国エチラル王国には、アレス王国からの「ヴァイシュラ大将軍就任」の報が届き、文字通りの激震が走っていた。


 これまでヴァイシュラの圧倒的な武威とカリスマ性によって、恐怖し、従属していた各地の豪族や有力貴族たちが、一斉に反旗を翻し始めたのだ。


 当然、戦場から冷遇されて戻った辺境伯も同様であった。なぜなら、生還した農民騎士団長が領地中に「王都の無能どもがヴァイシュラ様を追放した」という真実を洗いざらいぶちまけたことで、エチラル王国の農業と経済の基盤を支えていた『半農の兵たち』が、完全に本国への敵意を剥き出しにしたからだ。


「ヴァイシュラ様を裏切った豚どものために、なぜ俺たちが税を納め、兵を出さねばならんのだ!」


 辺境伯としても、このまま王都の命令に従って騎士団長を処罰などすれば、領内の農兵たちが一斉蜂起することは火を見るより明らかだった。


 彼らはヴァイシュラと共に戦い抜いた、修羅場くぐりの強者たち。そこらの貴族が金で集めた正規兵などより遥かに実戦経験が豊富であり、内乱になれば負けるのは目に見えていた。結果、地方は完全に王都のコントロールを離れ、空中分解を始めた。


 混迷を極める、エチラル王国国王の執務室。


「何故だ……! 何故こんなことになったあああああ! 何故どいつもこいつも、この儂の、国王たる儂の命令に従わんのだぁぁ!」


 我が世の春を謳歌していたはずの新王は、今や見る影もなく、ボサボサの頭を抱えて悲鳴を上げていた。連日届くのは、敗戦、謀反、財政破綻の報告ばかり。そこへ、空気の読めない文官がおずおずと書類を差し出す。


「へ、陛下……戦地のヴァージル将軍から、例の辺境騎士団の軍法違反による処刑の訴求が再度届いておりますが……いかがいたしましょう?」


「そんな微々たる事、今の儂にどうでも良かろうがッ! それどころでは無いのだ! 領地が、儂の金が、国が消えかかっとるのだぞ! 処刑だか何だか知らんが、そんなものはヴァージルに現場で勝手に執行させておけ! 現場の処理すらまともに出来んのか、あの口だけ将軍はああああああ!」


 悲壮な王の絶叫が虚しく響き渡る。


 ――そして程なくして。


 あれほど大口を叩いていたヴァージル将軍の軍も、カイル軍の圧倒的な武力の前に完膚なきまでに叩きのめされ、武器も甲冑も、将軍としてのプライドも全て放り出し、這々の体でエチラル王国へと逃げ帰ってきた。


 無能な王に、現場で勝手に責任をなすりつけられた、戦犯ヴァージル将軍の運命は如何に?


 ……そして、自ら崩壊の引き金を引いたエチラル王国の末路は?


 アレス王国の物語という本編の輝かしい歴史において、これ以上この愚者たちの閑話に割けるページは存在しないため――その悲惨な結末は、読者の皆様の「推して知るべし」といったところである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ