131 エマの地を駆けるモフモフ救助隊! 頼れる嗅覚と、猛る前衛たちの突撃
突如として現れた未知の魔獣・大蛇を狩るため、レンたちはエマの地を猛烈な勢いで駆け抜けていた。
地響きを立てて疾走するのは、レン、ヘレナ、ロジーナ、フェルダー、ダリア、エリー、ゲイル、そして新たに加わったサンディの8人が駆る騎竜の群れ。
そしてその力強い足取りに一切遅れることなく、大地を爆走する6匹の精鋭コボルトたち――ツヴァイ(ゴールデンレトリーバー)、ドライ(ドーベルマン)、フィア(フラットコーテッドレトリバー)、フンフ(シベリアンハスキー)、アハト(ワイマラナー)、ノイン(ボルゾイ)の姿があった。
さらに遥か上空からは、ヘレナの相棒である八咫烏のヤタが、鋭い眼光で地上の動向を完全に見下ろしている。
やがて一行が険しい辺境の山の入り口へと差し掛かると、そこで待ち構えていた3匹のコボルトたちが、統率の取れた見事な敬礼でレンたちを出迎えた。彼らはこの危険な山岳地帯において、主に遭難者の救助や巡回任務を任されている山岳救助隊のリーダーたちだ。
「わんわん!」(マスター! お待ちしておりましたワン!)
威風堂々と声を上げたのは、筋骨隆々たる体躯を誇るブラッドハウンドのコボルトだ。「魔法の嗅覚」の異名を持ち、全犬種の中で最高峰の鼻を持つ彼は、顔に刻まれた深い皺と、首元のデューラップ(たるんだ皮膚)が実にタフで頼もしい。硬質なタンアンドブラックのスムースコート(短毛)が、歴戦の救助隊員としての風格を際立たせている。
「わんわん」(ご苦労様です、マスター。遠路はるばる大変だったワン)
続いて丁寧に頭を下げたのは、アラスカンマラミュートのコボルトだ。シベリアンハスキーによく似た精悍な顔立ちだが、極寒の地でそり引きや狩猟をこなしてきただけあって、骨太の骨格と筋肉質のボディは一回り大きく見える。グレーから黒へとグラデーションを描く厚手のダブルコートが、山特有の冷気を受け流していた。
「わんわん!」(待ってたワン! 大蛇はすぐ奥にいるワン!)
愛嬌たっぷりに尾を振ったのは、バーニーズマウンテンドッグのコボルトだ。2000年以上前からアルプスの厳しい環境を生き抜いてきた古き血統。白・茶・黒の美しいトライカラー(三色)に彩られた長毛のダブルコートは質感も最高で、見ているだけで抱き着きたくなる圧倒的なモフモフ感を放っている。
「みんな、いつもこの危険な山を守ってくれてご苦労様!」
レンが騎竜の上から飛び降り、愛おしさを爆発させながら3匹の頭を順番にガシガシと撫で回す。
「わんわん!」(お任せあれワン! さあ、こっちだワン!)
ブラッドハウンドのコボルトが嬉しそうに鼻を鳴らし、即座に先頭に立って地面や空気の匂いをクンクンと嗅ぎ分けながら、レンたちを大蛇の潜む深部へと案内し始めた。
深い木々を掻き分け、渓谷の開けた場所へと出たその時。
「わんわん!」(あそこだワン!)
バーニーズマウンテンドッグのコボルトが短い前足で鋭く指差す方向に、山の一部と見紛うほどの、おぞましく巨大な漆黒の影がとぐろを巻いているのが見えた。
レンたちは大蛇の姿を目視で確認すると、一斉に騎竜から飛び降りて武器を構えた。
「よし、お前たちはここで騎竜たちの面倒を見ながら待機していてくれ」
レンが救助隊のブラッドハウンドのコボルトにそう指示を出すと、いよいよ大蛇に向かって歩みを進める。その両隣には、アハトとノインがいつでも飛び出せるよう、愛用のマチェットを抜いて鋭い視線を前方に固定していた。
「――私がまず先行して、奴の懐に潜り込むわ」
ロジーナが不敵に微笑んだ瞬間、その姿が蜃気楼のように掻き消えた。気配を完全に遮断した、隠密特化の神速の疾走だ。
「ヤタ、あんたも先行して! 上空から奴の死角と、怪しい動きがないか監視を頼むわよ!」
ヘレナが鋭く指示を出すと、レンの遅れをカバーするように足早にその後を追う。ヤタは短く鳴くと、黒い翼を大きく広げて大蛇の頭上へと舞い上がった。
「よし、ドライたちも遅れるな! 先行して前線を構築しろ!」
フェルダーが豪快に声を張り上げる。
「ガウガウ!」(了解だワン!)
「ワンワン!」(マスターを守るために、まずは足止めだワン!)
「ワォン!」(行くワン!)
「ガウガウ!」(誰が一番に攻撃を当てるか勝負だワン! 1番槍は貰うワン!)
ドライ、ツヴァイ、フィア、フンフの4匹が、獰猛な咆哮を上げながら凄まじい爆発力で大地を蹴った。
「うおらぁ! 俺たちも負けてられねえ! 先に行ってるぜ、レン!」
「ウフフ、陛下、あんまり無茶をしないでゆっくり来なさいよ?」
頼れるコボルトたちの突撃を追うように、フェルダー、ダリア、エリー、ゲイルの元冒険者&騎士団長組も、レンを軽々と追い抜いて獰猛な笑みを浮かべながら駆け出していく。
「あ、ちょっと……! 皆さん、いくらなんでも早すぎますわ!」
あまりの戦闘狂たちのスピード感に置いていかれそうになり、サンディが慌ててレンとヘレナの側へと走り寄ってきた。軍師としては、もう少し慎重な布陣で挑みたかったところだが、この圧倒的な暴力の前には作戦もへったくれもない。
一方、その様子を後方から眺めていた山岳救助隊の3匹はというと。
「わんわん……」(やっぱりすごく心配だワン……)
「わんわん」(マスター、どう見ても一番弱いワン……大丈夫かワン?)
「わんわん」(後ろから僕たちがいつでも飛び出せるように、準備だけはしておくワン……)
ブラッドハウンド、アラスカンマラミュート、バーニーズマウンテンドッグの3匹は、大人しく騎竜たちの手綱を引きながらも、最前線へと向かう愛する主の頼りない後ろ姿を、耳を垂らしながら心底心配そうに見守っているのだった。




