013 ようこそ冒険者ギルドへ! 因縁つけるCランクと、もふもふ武闘派軍団の「教育」
重厚な木製の扉を押し開け、レンたちが辺境街の冒険者ギルドの建屋へと一歩足を踏み入ると、その場にいた全員の視線が一斉にこちらへと集まった。もちろん、レンを見ている者など誰もいない。全員の目が、彼の後ろに整然と並ぶ五匹のコボルトたちに釘付けになっていた。
「おい、あれって『朝焼けの光』じゃないか?」
「今回の護衛任務から帰ってきたのか」
どうやら『朝焼けの光』はこの街で割と有名なパーティのようだ。
ギルドの内部は、レンが前世のライトノベルでよく見かけた光景そのものだった。しかし、時間帯のおかげか窓口に並ぶ冒険者はまばらで、どちらかといえば併設された酒場で荒くれ者たちがワイワイガヤガヤと昼間から酒を煽っている。
そんな賑やかだったギルド内が、レンたちが入ってきた瞬間にシーンと静まり返り……そのまま奇妙な沈黙が続いた。
「あれ、何かしら……?」
「犬の魔物のようね」
「この辺じゃ初めて見たわ」
「すごく、モフモフね……」
「可愛い〜っ!」
まず女性の冒険者たちがヒソヒソと色めき立ち、逆に男の冒険者たちはその実力を探るように無言で見詰めている。
そのうち、我慢できなくなった一人の女性冒険者がトコトコと近づいてきた。
「ダリアさん、その魔物は何かしら? 初めて見たのだけど、とっても可愛いですね!」
「あ〜、その話は後でね。今は先に窓口に行きたいわ」
(へぇ、魔法使いの女の人の名前は『ダリア』って言うのか)
レンが心の中でメモを取る。
「エリーさん! その――」
「そのモフモフを近くで───」
「あーもう、あとあと! 後にして!」
その後も次々と女の冒険者たちが寄ってくるが、狩人の女であるエリーも最後まで言葉を言わせず、彼女たちをあしらいながら窓口へと急ぐ。
しかし、群がる女性冒険者たちの熱狂ぶりに「これは金になる匂いがする」と下品な勘違いをした荒くれ者たちが、レンや『朝焼けの光』の前に立ち塞がった。
「おいおい、随分と変わった珍しい魔物を連れてるじゃねえか。俺達にも一、二匹分けてくれよ」
「いっそ五匹全部置いていっても良いんだ絶?」
「がははは! 俺達はこの街のCランクパーティ『漆黒の翼』だ! 知ってるか? この街に──」
――ドカッ!!!
髭面の男が言い終わるより早く、無口な槍術士の男が手元を滑らせ、槍の石突(お尻の部分)で男の鳩尾を容赦なく正確に突き刺した。
「邪魔」
「うぷっ……! お、おのれ何すんじゃあああ!!」
「あ゛ぁ? 俺達がBランクパーティの『朝焼けの光』だと知っていて喧嘩を売ってるのか、あぁ?」
普段の好々爺な雰囲気を一変させ、リーダーが凄まじい威圧感を放ちながら『漆黒の翼』のメンバーを睨みつける。
「おい、よそ者のあいつら、この街のトップパーティ『朝焼けの光』に喧嘩売りやがったぞ」
「最近ちょっとCランクに上がったからって調子に乗ってたからな。いい気味だぜ」
周囲の冒険者たちの冷ややかな嘲笑が聞こえてきて、ようやく事の重大さに気づいた『漆黒の翼』が狼狽え始めた。
「Bランク……ッ」
「い、いや、俺達はそんなつもりじゃ──」
「そんなつもりがどんなつもりか知らないけどね。私達に喧嘩を売って、ただで済むと思ってるのかしら? きっちり教えてあげるわ」
「そうそう。新人には『教育』が必要よね。リーダー、ここは任せた、後はよろしく!」
お気に入りのコボルトたちを「寄越せ」と言われて完全に怒り心頭に発した槍術士、ダリア、そしてエリーは、バキバキと凄まじい音を立てて指を鳴らしながら、『漆黒の翼』のメンバーの首根っこを掴んでギルドの外へと連行していく。
「ワンワン!」(俺達も行くぜワン! 制裁だワン!)
「ワオン!」(教育だワン! 噛みちぎってやるワン!)
「バフバフ!」(もちろん加勢するワン!)
あろうことか、その後ろをゴールデンレトリーバーの『ツヴァイ』、フラットコーテッドレトリバーの『フィア』、シベリアンハスキーの『フンフ』の三匹が、「ふんす!」と鼻息を荒くして、当然のようにリンチ(教育)の助太刀について行こうとした。
「おい! ツヴァイ、フィア、フンフ、お前たちはこっちだ! これから従魔登録をしなきゃならないんだからな!」
血気盛んに飛び出そうとする三匹の後ろ髪(尻尾)を引くように、リーダーが慌てて声をかけて引き留める。
「「「ク〜ン……」」」
あからさまに「ちぇ、つまんないの」という顔をして、ガッカリとしっぽを落とす三匹。
(……数日の間に、めちゃくちゃバリバリの武闘派に育っちゃってる気がするんだけど……。本当に『朝焼けの光』の皆に預けて良かったのだろうか……?)
頼もしさを通り越して、ちょっとした狂犬の片鱗を見せ始めた我が眷属たちの姿に、レンはふと未来への不安を覚えるのだった。




