128 凱歌と次なる一手! 魔王の謀略を砕きし覇王の帰還
「はっはっはっは! 実に見事だ、サンディ。やはりお前の智謀に狂いはなかったな」
血生臭い戦闘が一瞬で終結したミノス王国の国王執務室。トラヴィス辺境伯の豪快な笑い声が室内に響き渡った。
偽王ヴィクターの誅殺と、その背後にいた不気味な黒衣の男(六天魔王の使者)の排除を受け、トラヴィス辺境伯の手勢が即座に城内を掌握。反乱の火種は文字通り一瞬で鎮静化されたのだ。
「ええ。ですが、実質的な犠牲者が、ヴィクターに妄従していた側近と近衛の十数人だけで済んだのは僥倖ですわ」
「いいえ、リリス様。これは想定通りの結果です。無駄な犠牲は少ない方が、今後の国を動かす上で都合が良いのですから」
トラヴィスの部下に恭しく迎えられ、王城へと入城したリリス王女が満足げに頷く。その言葉に、サンディは軍師らしい冷徹かつ合理的な視点で答えた。
なし崩し的にリリスの警護を担当することになったフェルダー、エリー、ダリア、ゲイル、そしてロジーナと超大型コボルトのツヴェルフ(セントバーナード)も室内に控えている。
「へっ、俺たちの出番は完全にゼロだったな」
フェルダーが肩をすくめて苦笑する。
「でも、戦わずに済むならその方が良いのよ」
「そうそう。魔王の国の不気味な暗躍があったっていうのに、ほとんど犠牲を出さずに国を取り戻せるなんて流石だわ」
エリーとダリアがレンとサンディの手際を称賛し、ゲイルも無言で深く頷いた。
「ガウガウ?」(俺たち、あまり暴れてないけど本当にこれで良かったのか? ワン)
「ワンワン!」(これで良いのよ! 無駄な怪我がなくて一番だワン!)
「ワォンワォン」(平和が1番ワン!)
不完全燃焼気味に首を傾げるドライ(ドーベルマン)に対し、ツヴァイ(ゴールデンレトリーバー)とフィア(フラットコーテッドレトリバー)が優しく宥めるように鼻を鳴らす。
「――さて、レン。次は本来の目的地だったオミラン王国だが、このミノスが完全に落ち着くまで遠征はお預けにするか?」
フェルダーが本題を切り出すと、レンは視線を新米軍師へと向けた。
「そうだなぁ……。サンディ、どう思う? 今回の件で、六天魔王の国がオミラン進出の妨害を企んでいたこともハッキリしたわけだけど、何か良い手はあるか?」
「ふふ、私に任せてください、陛下」
サンディは自信に満ちた笑みを浮かべ、机の上に地図を広げた。
「オミラン王国は今、幸いにも北と南の二派に分かれて激しく内紛を続けていますわ。魔王の国は、今回のクーデターでミノスを乗っ取り、アレスを足止めする算段だったのでしょう。ならばその裏をかき、私たちは『北オミラン』と迅速に同盟を結び、魔王の国が糸を引いている可能性の高い『南オミラン』を挟み撃ちにする方向で進めます。南の内部にも事前に調略の手を回し、今回のように最小限の犠牲で一気に攻略してみせましょう。ミノス王国はリリス様とトラヴィス閣下に任せておけば大丈夫です。私たちは水面下でその調略を進めれば良いのですわ」
「なるほどねぇ……。確かに、正面から大軍をぶつけるより遥かにスマートだ」
レンは感心したように頷いた。
「――それで、陛下。アレス王国に戻られたら、なるべく早急にヘレナ王妃様と私を謁見させてください。アレス王国の驚異的な諜報網はヘレナ様が握っていると聞き及んでいます。ヤタを飛ばしてきたあの神速の諜報能力に、私の智謀を噛み合わせれば、オミラン攻略の成功確率はさらに跳ね上がりますわ」
「分かった。手配しよう。……よし、ミノスの戦後処理はリリスとトラヴィスさんに一任して、僕たちは一度アレス王国に帰還するぞ」
「えええっ!? ちょっと待ってくださいませ、レン様! 私をこのまま置いて行かれるのですかぁ!?」
リリスが悲鳴のような声を上げ、レンの両手をがっしりと握りしめた。
「ミノス王国が完全に落ち着くまでは、新女王となる君が不在にするわけにはいかないだろう? 大丈夫、アレスの政務を誰かに任せて、近いうちに僕たちの主力をミノスへ移動させるから。それまでの辛抱だよ」
「……うぅ、仕方ありませんわね。ですが、当然ツヴェルフは私の護衛としてここに残してくださいますわよね?」
「もちろん。ツヴェルフだけじゃなく、念のためにナンバーズを数匹、他にも君の護衛として置いていくよ」
「……そこまで仰るなら、今回はそれで手を打ちましょう。なるべく早めにミノス王国へお引越ししてきてくださいね? それまで一緒に頑張りましょう、ツヴェルフ」
リリスは寂しさを紛らわせるように、大きなツヴェルフの体にぎゅっと抱き着いた。
「わんわん?」(これで丸く収まったってことで良いの?)
「ウォンウォン」(まあ、一件落着なんじゃないかな?)
ツヴェルフの呟きにノイン(ボルゾイ)が返事をするが、そのノインの体には、いつの間にかサンディが「ああ、極上の毛並み……」と恍惚の表情でこれでもかと抱き着いていた。
魔王の国が仕掛けた卑劣な罠を、圧倒的な武力と新たな智謀で完全に粉砕したレンたちは、次なる戦いを見据え、勝利の余韻と共に一度アレス王国へと凱旋するのだった。




