125 桁違いの召喚術と想定外の潜入プラン! 驚愕する新臣下と、城内への道導
「すいませんでしたあ! もう軍師だなんて大層なことは言いませんので、どうか、どうか臣下の末席に加えてください! そしてあの至高のモフモフたちの側で働かせてくださいぃぃ!」
床に額を擦りつけ、涙を流しながら必死に土下座して懇願するサンディ。その変わり身の早さにレンが唖然としていると、すかさずリリスが微笑みながら手を添えた。
「レン様。サンディも深く反省して心を入れ替えたようですので、ここは私を信じて、彼女を雇ってあげてくださいまし」
「そうよレン様。モフモフをこれだけ愛せる人間に、根っからの悪人はいないわ。許してあげましょ。ね!」
さらにロジーナまでがニコニコしながら追従してくる。
「……はぁ、仕方ないねぇ」
さすがにリリスの幼馴染みをこのまま切り捨てるわけにもいかず、何よりモフモフへの狂信的な愛は証明されたため、レンはサンディを許し、正式に配下として迎えることにした。
「それで……サンディ。この館の周りに潜んでいた者たちがいたから、さっきはあんなに自信満々で僕たちを挑発していたのか?」
レンの問いに、サンディは顔を上げてバツが悪そうに頭を掻いた。
「いえ……私は固有スキルで強力な『結界』を張れるので、元々防衛には絶対の自信があったのです。普段から領主の仕事が忙しいのに、有能な軍師を探しているという他国のスカウトたちが次々にやってきて辟易していたもので……。最初から誘いを断るつもりで、わざと意地の悪い挑発をしていたのです。ちょっと煽られたくらいで激昂するような、器の小さい主君のために働く気もありませんでしたしね。……ところで陛下、その者たちは私の配下で、ただの護衛をしていただけなのです。どうか彼らを許してやってはいただけないでしょうか?」
サンディの視線の先には、コボルトたちによって一本の太い縄でミノ虫のように一塊に縛り上げられ、庭先でガタガタと震えている護衛たちの姿があった。
「なんだ、そういうことか。まあ、事情が分かったならいいさ。これ以上どうこう言うつもりはないよ。――ドライ、みんなを解放してやれ」
「ガウガウ」(了解だワン)
ドーベルマン風コボルトのドライが、腰のマチェットを鋭く抜くと、流れるような手捌きで護衛たちを縛っていた縄を一瞬で断ち切った。
「しかし……私の護衛は気配を完全に消して潜む隠密の手練れであり、私の自慢だったのですが。それを見事にあっさりと見つけ出し、一瞬で無傷のまま捕縛してしまうとは……。何という恐ろしい、そして素晴らしいモフモフたちなのでしょうか……」
解放された護衛たちを労いながら、サンディの目が再び恍惚としたものに変わっていく。
「ああ、彼らは僕の自慢の眷属だからね。ところで、僕の臣下になるのは構わないけど、君はここを治める領主なんだろ? 領地を放り出して僕たちと一緒に行動するわけにはいかないんじゃないか?」
「問題ありません! 私には優秀な弟がおります。ここの領地経営はすべて弟に丸投げして、私は陛下の、いえ、モフモフたちの元へ生涯ついてまいります!」
(お、弟よ、強く生きてくれ……)
レンはまだ見ぬサンディの弟に、心の中でそっと同情の祈りを捧げた。
その後、コボルトたちを一旦すべて送還し、サンディの城の応接室にて、改めて一同は円卓を囲んだ。リリスが現在ミノス王城で起きているクーデターの凄惨な現状や、これまでの詳しい経緯を説明し、レンが適宜補足を加えていく。
「――なるほど、事情はすべて把握いたしました。ですが、いくら先ほどのモフモフたちが一騎当千の強さを持っているとはいえ、あの数ではミノスの強固な王城を制圧するのは流石に不可能です。敵の正規兵は万単位で籠城しているはずですから」
神妙な顔つきでそう告げるサンディに、レンは「ん?」と眉を上げた。
「あの数……って?」
「先ほど、レン様がこの部屋で一度に召喚されたモフモフたちの数ですよ。私の見立てでは、陛下が同時に維持・召喚できる限界数は10匹弱。違いますか?」
「ああ、それは――」
レンが真実を告げようとした瞬間、隣のリリスが「ふふん」と誇らしげに割り込んできた。
「サンディ、甘いですわ。レン様が一度に召喚できるコボルトの数は、貴女の想像している桁とは文字通り『桁』が違いますのよ。――5桁の軍勢を、一瞬にして一度に召喚可能なのです」
「ご、5桁……!? 万単位ですって……!? 嘘でしょう!?」
「本当なのですわ!」
まるですべて自分の功績であるかのように、豊満な胸をこれでもかと張ってドヤ顔を決めるリリス。
「そんな……っ! 城の中にさえ入ってしまえば、どこであっても一瞬で敵を包囲して、完全制圧できるじゃないですかぁぁ!」
「まあ、そういうことになるね」
レンが苦笑いしながら頷くと、サンディはわなわなと震えながら、深い智謀を巡らせるように顎に手を当てた。
「その圧倒的な軍勢に加え、ミノス王城内の悲劇を即座に察知したあの神速の諜報能力……。アレス王国が世界制覇を狙っているという噂も、これなら完全に頷けますわ……」
「いや、世界制覇なんて狙ってないんだけどね!?」
「――分かりました。作戦を変更します。ミノス王城へは、私とレン様、二人だけで乗り込みましょう!」
「えっ!?」
「おいおい、ちょっと待て。レン様は前線で直接戦うような武芸者じゃないんだぜ?」
サンディの突飛な提案にレンが目を丸くし、将軍フェルダーが慌てて立ち上がって反対の声を上げた。
「王都の近くまでは、皆様全員で慎重に同行すれば良いのです。ですが、厳戒態勢を敷いている王城へ侵入するとなれば話は別です。凄腕のオーラを隠しきれない貴方様方が一緒では、門を潜る前に確実に怪しまれますわ。ですが、私の顔と、覇気の全くないレン様の二人であれば、怪しまれることなく私の『特別なルート』から王城の奥深くへ入れるでしょう。……いざとなれば、城内で不測の事態が起きても私の結界でレン様を完璧に保護します。その僅かな時間の間に、陛下がモフモフの万軍をその場に召喚すれば良いのですわ!」
「……なるほどな。確かにそれなら理にかなっているわ」
フェルダーは腕を組み、納得したように頷いた。
「レン様が王城のど真ん中でコボルトたちを召喚して大混乱を起こしたら、俺たちが外から一気に王城へ突入して合流する。その手筈なら、一番確実にクーデター派の首魁の首を獲れるな」
「よし、作戦は決まりだ。リリスの仇を討ち、ミノス王国を解放するぞ!」
レンの力強い宣言に、新しく加わった軍師サンディを含む全員が、力強く拳を握り締めて応じるのだった。




