121 いざ、西の地へ! 快適なるミノス王国内の長旅と、迫り来る緊張の予感
ミノス王国との間で無事に同盟を締結し、レンたちは次なる目標であるオミラン王国へ向けて出発した。
今回の遠征メンバーは、以下の精鋭たちである。
レン(国王)と、護衛のアハト(ワイマラナー)、ノイン(ボルゾイ)。
元『朝焼けの光』の四騎士団団長――フェルダー(将軍)、エリー(弓術隊)、ダリア(魔法師団)、ゲイル(槍術隊)。
彼らの相棒である四匹――ツヴァイ(ゴールデンレトリーバー)、ドライ(ドーベルマン)、フィア(フラットコーテッドレトリバー)、フンフ(シベリアンハスキー)。
ミノス王国王女にしてレンの婚約者リリスと、彼女の護衛である元Aランク冒険者ロジーナ、そして超大型コボルトのツヴェルフ(セントバーナード)。
合計で7名と7匹。
レン、リリス、ロジーナ、エリー、ダリアの5名と、ツヴェルフ、フィア、ツヴァイの3匹は、騎竜「ドラッヘ」が引く豪華な竜車に乗り込んでの移動となった。
竜車の外では、フェルダーとゲイルがそれぞれ騎竜にまたがり、並走するドライ、フンフ、そして御者を務めるアハトとノインが、手慣れた足取りで先導している。
「――そう言えば、リリス。そっちの王位継承の件はどうなってるんだ?」
揺れる竜車の中で、レンがリリスに尋ねた。
「ええ、もうほぼ決まりですわ。継承順位が高いのは、私と妹のルル、そしてまだ幼い弟たちくらいですから。父上も母上もレン様をすっかり気に入ってくださっていますし、父上自身ももうご高齢です。私が王位を継承することに異を唱える者は、国中どこにもおりませんわ」
「女性が王位に就ける国っていうのは、本当に素晴らしいわよね」
「ほんとねぇ。世の中、女性だからってだけで差別される国が殆どだってのに」
エリーとダリアが感嘆の声を上げる。するとリリスが不思議そうに首を傾げた。
「あら? エリーさんもダリアさんも、そんなことを仰るのですね。アレス王国は女性が重要な役職を務め過ぎていて、私から見れば『これで国が回るのかしら』と心配になるほどですが……何か苦労でもされたのですか?」
「いや、アレスは全く無いよ。寧ろ、有能な女性ばかりが集まってきて、気づけば主要ポストが女だらけになってるんだから」
「それは明解な理由よ! モフモフが溢れるこの国には、最高の癒やしを求めて、最高に有能なモフモフ信者が吸い寄せられてくるのよ!」
ロジーナが熱弁を振るいながら、なぜかツヴェルフにその辺で捕まえた得体の知れない虫を食べさせていた。
(ロジーナは昆虫食が平気だからなぁ……。ツヴェルフ、お腹壊さないか?)
レンが心配そうに見守る中、当のツヴェルフは「わんわん(美味いワン)」と至極満足げだった。
「私たちが言ってたのは、旧ヒダ王国や旧エマ王国のことよ。あっちの貴族社会って、女性の権利が本当に低くてね……」
ダリアがフィアの背中を丁寧にブラッシングしながら溜息をつく。
「ワォン(気持ちいいワン)」
「ワンワン(俺にもやってくれワン)」
エリーが膝の上でうっとりしているフィアを見て、ツヴァイも負けじと尻尾を叩いてブラッシングを要求する。エリーは苦笑しながら、マジックバックから予備のブラシを取り出した。
「ミノス国内も、領地によっては似たようなものですわね。ですが、今回寄った街の領主たちは皆、私の顔を知っていますから、モフモフの皆さんに無礼を働くような輩は一人もおりませんでした」
リリスが優雅にツヴェルフの首元を撫でる。
「本当に、リリスのおかげで快適な旅だよ。各街でゆっくり休憩できたし、宿屋は特上、料理も最上級だなんて……もはや遠征っていうより、ご褒美の旅行気分だわ」
「そうそう! 美味しいもの食べすぎちゃって、帰ったらダイエットしなきゃいけないくらいよ!」
エリーとダリアが笑い合う。ミノスの貴族街を巡る今回のルートは、リリスが知り合いの領主たちに事前に根回ししていたおかげで、これ以上ないほど盤石で贅沢なものになっていたのだ。
ツヴァイも「ワォン(最高だワン)」と満足げに目を細め、いつの間にか寝息を立て始めている。
「――おい。そろそろオミラン王国の国境に入るぞ。ここからは今までみたいに油断はできない。気を引き締めようぜ」
ロジーナがふと表情を暗くし、警告を発する。
レンも頷き、窓から見える荒野の先を見据えた。
平和で甘美な「旅行」の時間は終わりを告げ、いよいよ戦場という名の現実が、一行の前に立ちはだかろうとしていた。




