116 即断即決の覇王令! 既得権益を貪る愚者への宣告と、迫る約束の期日
「それじゃあ、次は元ヒダ王国側の処理だけど……。オリビア! 待機させているラバンとマディソンをここに連れてきてくれ」
「はい。ただいま連れてまいります」
レンが声をかけると、控室からオリビアが姿を現し、丁寧に一礼して執務室を出て行った。
オリビアは、元ヒダ王国の大都市で騎士団副団長を務めていた実力者だ。今ではメイド服のトイプードル風コボルト・トイを熱烈に愛でる、立派なモフモフ信者の一人でもある。
しばらくすると、オリビアが二人の男を伴って戻ってきた。
ラバンとマディソン。彼らもまた元ヒダ王国の大都市出身で、ラバンは腕利きの傭兵団長、マディソンはその団員だ。特にマディソンは高い交渉力をレンに買われ、現在はアレス王国の重臣として内政や外交を任されている。
「マディソン、まずこの書状を見てくれ」
レンは机の上から一通の古い羊皮紙を差し出した。受け取ったマディソンは、そこに記された内容に目を丸くする。
「こ、これは……っ!? ヒダ王国前国王からの、正式な『国王継承の証』ですな! おお……これさえあれば、色々と理由をつけてゴネている地方の領主たちも、一発で黙って臣下に下りますぞ!」
「へえ、やっぱりまだゴネてる領主がいるのか?」
「ええ。本気で反旗を翻す度胸はないのでしょうが、『もう少し待遇を良くしてほしい』とか『現在の既得権益をそのまま認めてほしい』といった下心を隠さず、返答を引き延ばしている輩が数名おります。時間を引き延ばしたところで、こちらが条件を緩めるわけがないというのに、往生際が悪いのです」
その報告を聞いたレンは、表情を一切変えずに短く言い放った。
「ふ〜ん……。じゃあ、要らないな」
「え?」
マディソンが間の抜けた声をあげる。
「そんな奴らは要らないって言ったんだ。適当な期限を切って、それまでに臣従しにこない奴は全員滅ぼす。で、その領地は隣のさっさと臣従した領主に丸ごとくれてやれ」
「そ、そんな乱暴な! 陛下、彼らも交渉次第では、今後アレス王国を支える貴重な人材になるかもしれないのですよ!?」
「いや、時間は有限だ。今後もどんどん領地は増えていくのに、そんな目先の利益で時間稼ぎをするような輩に構っている暇はないぞ。もしそいつらが本当に有能なら、大陸の戦況をいち早く把握して、今頃とっくに頭を下げにきているはずだ。それよりマディソン、お前だって他にも山ほど仕事があるだろ。そんな些細なゴミ処理は早めに終わらせよう」
「そ、そうですか……。確かに仰る通りですが……」
「いっそのこと、『来月までに王都へ来て臣従を誓わない奴は一律で逆賊とみなし、軍を差し向けて領地を召し上げる』と公式に宣言してしまおうか」
「えええええええっ!?」
あまりに容赦のない一網打尽のやり方に、マディソンは絶叫した。
「マディソン、その前国王の書状を有効に使って、今言った通りの通達を全領主に叩き込め。その上で、来なかった奴は本当に滅ぼすから」
「は、はい……! 畏まりました、大至急手配いたします!」
「あ、それと宣言に一文付け足しておいて。滅ぼした領主の領地は、すでに臣従している隣接領主に与える。もし隣接する臣従領主がいなければ、我先にと早く臣従してきた順で、その近隣の領主に与える、ってね。『早く臣従した方が絶対に得だ』という事実を広く周知すれば、みんな我先にと競い合って王都に駆け込んでくるはずだ」
「な、なるほど……! 恐怖で縛るだけでなく、欲を煽って競争させるわけですな。これなら、ゴネていた領主たちの足並みも一瞬で崩壊します」
レンの冷徹かつ合理的な戦略に、マディソンは戦慄しながらも深く感服した。
「ラバン。そういうわけだから、騎士たちにいつでも領地を攻め落とせるよう準備をさせておいてくれ。来月からは忙しくなるぞ。再来月までには、すべての領地の処理を終わらせろ」
話を振られた傭兵団長ラバンは、不敵に笑って胸を叩いた。
「承知いたしました。不届き者の首を並べる準備をしておきます」
「――ということは、再来月には全ての憂いがなくなって、私たちの『結婚』と『婚約』の儀を執り行える、ということでよろしいですね? レン様♪」
リリスが長い睫毛を揺らしながら、確認するように艶やかな声で割り込んできた。
「まあ、そうだな。ロジーナの方のエマ王国の制圧も、2ヶ月はかからないだろうし」
レンがそう答えると、それまで静かに聞いていたヘレナが、急にポッと顔を林檎のように真っ赤に染めた。そして、両手を胸の前でもじもじと動かしながら、蚊の鳴くような声で独り言を呟き始める。
「い、いよいよ……結婚、かぁ……。お式のお洋服、どうしよう……」
頭の中で早くも結婚式の妄想が始まっているらしいヘレナの様子を、リリスは「うふふ、可愛らしいことですわね」と微笑ましそうに見つめていた。
迅速に領土を平定せんとする王の冷徹な決断と、その後に控える甘い約束。アレス王国の新王都は、血の降伏勧告の準備に追われながらも、どこか華やいだ空気を孕んで、再来月の節目へと動き出すのだった。




