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【完結版】史上最弱のコボルトテイマーが異世界を征服するらしいっす〜最弱スキルの犬たちは、最強の軍勢になりました〜  作者: ボルトコボルト


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114 才女の罠と詰みの盤面! 傾国の王女が仕掛けた「外堀埋め立て作戦」

「コホン。……陛下、少々発言の許可を頂いても宜しいでしょうか」

 これまで静観していたランドルフが、わざとらしい咳払いを挟んでレンに水を向けた。


「あ、はい。勿論です。ここはプライベートな部屋ですから、好きに発言していただいて全く問題ありませんよ」

 ランドルフはヘレナの祖父であり、かつての大貴族。出会って間もないこともあって、レンの口調はどうしても微妙な敬語になってしまう。


「陛下、私への敬語はなしでお願いいたしますよ。……まあ、それは置いておくとして。客観的に見て、現在の陛下に決定的に足りていない要素が1つあります。それは『人脈』です」


「……まあ、確かにそうだね」


「通常、新たに国を興す王というのは、頼れる一族や門閥が周囲を固めるため、統治人材に不足することは少ないのです。しかし結果として、陛下は王族の血を引きながらも、旧ヒダ王家の人脈と真っ向から敵対し、それらをすべて殲滅されました」


「うん。向こうから仕掛けてきたから仕方なかったとはいえ、結果的にそうなっちゃったよねぇ」


「陛下の最終目標は世界制覇とうかがっております。今後、他国を侵略し、領土を拡大していくにつれて、その広大な土地を治めるための『信頼できる人材』が絶対に必要になります」


「それは本当に痛感してる。現に今も、エマ王国の旧領を誰に任せようか決めかねているところなんだ。信頼できる人間が少なすぎる」


「その決定的な人脈不足を、政略結婚によって補うというのは、国家戦略として極めて真っ当、かつ必要なことです。婚姻によって一族となった者は、一族の繁栄のために働きます。つまり、最初から一定の信頼を担保された優秀な人材を、丸ごと味方に引き込めるということですな」


「ま、まあ、言いたいことは分かるけど……。でもさ、俺はミノス王国だって、いずれ征服するつもりだよ?」


 これならリリスも怯むだろうと、レンはとっておきの爆弾発言を投げ込んでみた。しかし――。


「まあ、そうなのですか? それなら好都合ですわ。私がミノス王国の王位を正式に継承すれば、レン様は我が国の『王配(女王の夫)』となられます。そうすれば、レン様は兵を動かす血も労力も使わずに、ミノス王国をそのまま手に入れられますわ。一石二鳥ではございません? 征服するよりも遥かに楽に、我が国の優秀な人材が手に入りますのよ」


 極上の微笑みを浮かべたまま、リリスはあっさりとその爆弾を処理して見せた。それどころか、レンをミノス王国の王配に据えることすら、すでに彼女の計算に組み込まれていたようだ。1枚も2枚も上手である。


「おお、そうか! ――って、いや、だけどさぁ……!」

 完全に論破されかかったレンは、チラリとヘレナを見た。


「正妻とか側室の席次ポジションはどうなるんだ? 俺はヘレナを正妻にするぞ。これだけは絶対に譲れない。リリスは一国の王女なんだろ? そんな身分の人が側室に収まるなんて、外聞的にも不味いんじゃないの?」


 何とかこの場を切り抜ける突破口を見出そうと、レンは多少屁理屈めいた反論をリリスにぶつけた。


 自分のために必死になってくれるレンの言葉を聞き、ヘレナは胸を詰まらせて嬉しそうな表情を浮かべる。だが、リリスの余裕の表情は微塵も揺らがなかった。


「あら、そんなことでしたら全く問題ございませんわ。ヘレナさんはアレス王国における唯一の、正式な貴族のご令嬢。ランドルフ様は旧ヒダ王国では伯爵でしたが、今や誰がどう見ても侯爵相当の重鎮です。家格としては申し分ありません。それに……私は一度婚姻に失敗している『出戻り』の身ですの。初婚のヘレナさんが先に結婚して正妻となり、出戻りの私が後から輿入れして側室になる。筋道としてはどこもおかしくありませんわ」


「え? あ、いや……そ、そうなのかなぁ……。しかしなぁ……」


 なおも煮え切らない態度を続けるレンだったが、目の前に並ぶヘレナ、ランドルフ、そしてリリスの3人による完璧な包囲網と理論武装に押し切られる形で、最終的に「ヘレナとの結婚」と「リリスとの婚約」を同時に受け入れるハメになった。


 レンが前線で戦っている留守の間に、内政の要であるヘレナと、大御所のランドルフを完全に籠絡していたリリスの作戦勝ちだった。


(流石は妖艶なる才女……。モフモフ信者の行動力と執念、恐るべしだな)


 レンは心の中で白旗を掲げるしかなかった。


「将を射んと欲すれば」

 その日の夜、少し心配になったレンは、執務を終えたヘレナの元を訪れてこっそり尋ねてみた。


「ねえ、ヘレナ。本当にリリスを信用しても大丈夫なのかな? ほら、ミノス王国では『傾国の美女』とか『毒婦』とか、物騒な噂をされてた人だろ?」


 すると、ヘレナは柔らかく微笑んでレンの顔を見上げた。


「うん、大丈夫よ。リリス様はね、私とレンの結婚のことをすごく後押ししてくれたの。それに、ちゃんとお話をしてみると案外……いえ、とっても良い人だったわよ? 確かにコボルトのことになると、急にハァハァしてポンコツになっちゃうけど……頭の回転が信じられないくらい速くて、すごく頼りになるお姉様って感じ。レンの留守中も、私の膨大な事務仕事をテキパキと手伝ってくれて、本当に助かったんだから」


 ヘレナの様子を見る限り、彼女はすっかりリリスに対して全幅の信頼を寄せているようだった。


(なるほどな……。まずヘレナに『私との結婚を後押しする』という最大のメリットを提示して信頼を勝ち取り、さらにヘレナの過酷な仕事を自ら手伝うことで、完璧な仲間意識を植え付けた上で、この婚約の筋書きを突きつけたわけか。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』の見事な実践だな。仕事ができるのは本当みたいだし、本当にこのまま信頼できる味方になってくれれば、これ以上ないほど心強いんだけどなぁ……)


 レンはリリスの驚異的な政治手腕に舌を巻きつつ、ツヤツヤの毛並みで部屋の隅で寝転んでいるコボルトたちを見つめ、新しい波乱に満ちた新婚(予定)生活に思いを馳せるのだった。

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