111 モフモフ教団、爆誕! 領土拡大と、毛並み輝く騎士たちの狂乱の行軍
エマ王国軍を完膚なきまでに叩き潰したアレス王国軍は、その勢いのままエマ王国の領土へと怒涛の進軍を開始した。
元々、中央の権力にそれほどの忠義を持たない地方豪族や領主たちは、国王の死と、地平線を埋め尽くすほど圧巻の「コボルト大軍団」を目の当たりにし、血を見る前に次々と白旗を掲げた。
レンは、捕虜となったエマ軍の元高官たちを外交官として活用し、各領地の領主へ降伏勧告を送らせた。
恭順すれば領地は安堵。さもなくば、圧倒的な武力を持つコボルトたちが「訪問」する――。
その通達は恐ろしいほど効率的だった。エマ王国の全勢力は今回の戦いで壊滅しており、レンに対抗できる戦力など残っていない。一瞬で領都が陥落していく様を目の当たりにした領主たちは、恐怖と生存本能に従い、雪崩を打って臣従を誓った。
特に効果的だったのは、「早く臣従した方が得だぞ」という噂だった。
「降伏しない領主はレンに滅ぼされ、その領地は『先に忠誠を誓った近隣領主』に分配されるらしい」
この噂が広まると、まだ降伏していなかった領主たちが、慌てて手土産を持ってレンの陣営に列をなすようになった。
モフモフは世界を救う(のか?)
行軍に同行する周辺領主の精鋭たちにも、異変が起きていた。
彼らは本来、アレス王国の圧倒的な力を見せつけ、再起を封じるための「観客」として同行させたのだが、その目にはコボルトたちの強さへの驚愕と、それ以上に、奇妙な熱狂が宿っていた。
特に、若手の女性精鋭たちの熱の入れようは凄まじいものがあった。
「……ねえロジーナ。あの精鋭たち、俺に従ったというよりは、何か別の何かに従っているような気がするんだけど」
レンは、コボルトの周りに集まって恍惚とした表情を浮かべる領主たちの姿を見て、不安げに呟く。
「あら、陛下。彼女たちは『モフモフの守り人』なのよ。コボルトちゃんたちを慈しみ、愛で、崇拝しているの。……いいこと? レン陛下。モフモフは、正義なのよ」
「モフモフは正義っ!」
「モフモフは愛ですわ!」
「モフモフこそがこの世の真理……!」
ロジーナの言葉に、精鋭女性騎士たちが瞳をキラキラと輝かせ、狂信的なまでに頷く。
「……なんか、ヤバい宗教に入信してないか? 新興宗教の教祖か何か?」
「う〜ん、その魅力は理解できるだけに、コメントに困るわね」
エリーは、ゴールデンレトリーバー風コボルト・ツヴァイの背中を極上の手つきでブラッシングしながら、苦笑いを浮かべる。
「いいじゃないの。悪い方向じゃないわよ。これくらい許容しなさいよ、ねえフィアちゃん?」
ダリアは、フラットコーテッド風のフィアを抱きしめ、モフモフの毛並みを頬にすりつけながら幸せそうに答える。
「……そうかあ? まあ、治安維持には役立ってるみたいだけど」
レンは釈然としない表情で、通常運転のワイマラナー・アハトとボルゾイ・ノインが「お腹空いた!」「待て!」と騒いでいるのを見て、ため息をつくしかなかった。
猛者たちの修行と、ツヤツヤの毛並み
一方、若い男子騎士たちのグループは、武力という別の方向へ熱狂していた。彼らはコボルトたちの「圧倒的な個の強さ」に心酔し、なんとフンフが率いる訓練に混ざって、槍術の稽古を始めていた。
「バウバウ!(そこ、足が甘いワン!)」
フンフが槍の石突で若者の足を払い、転倒した騎士の喉元にピタリと槍先を向ける。
「ま、参りました……!」
「……言葉も通じない相手に、体で武を叩き込んでいるのか」
ゲイルが両腕を組み、感心したように頷く。
(いや、ゲイル。お前が直接教えてやれば、もっと効率的だと思うんだけどな……)
レンは、黙って指導者気取りのゲイルを横目に、そんなことを思う。
エマ王国の領土の過半数を支配下に置いたところで、レンは領主たちに統治を任せ、ヒダ王国の王都へ戻ることにした。
帰還の行軍には、臣従した精鋭騎士たちも同行している。
なぜか彼らは皆、どこから調達したのか「最高級のマイブラシ」を腰にぶら下げていた。
行軍中、ロジーナの指導の元、騎士たちが交代でコボルトたちをブラッシングするため、同行しているコボルトたちの毛並みが、以前とは比較にならないほど、宝石のように「ツヤッツヤ」に輝いている。
(……なんか、コボルトたちを連れて帰るというより、ピカピカの毛並みを見せびらかしてパレードしてる気分になってきたな)
レンは、行軍の先頭で太陽光を反射して眩しいほどに輝くコボルトたちの背中を見つめながら、これから始まる「新国家・アレス王国」の未来に、微かな不安と期待を抱きつつ、凱旋の道を急ぐのだった。




