110 夜闇に溶ける殺戮の宴! 怠惰な王の寝首を掻き、レンは淡々と覇道を征く
「……よし、このままの勢いで、エマ王国にも攻め込むぞ」
レンは死屍累々となった戦場の中心で、冷徹な響きを帯びた声で周囲の仲間に告げた。
「え、陛下。逃げ出したヒダ軍の残党や、後方に散らばっている敵兵は追わなくて良いの?」
ダリアが少し不思議そうに尋ねる。
「ああ。そのまま逃がしても大勢に影響はない。敗残兵狩りに時間をかけるより、次の獲物だ。後片付け用のコボルト隊を数匹残して、後は一度召喚を解除して戦力を温存する。……よし、来た時と同じ精鋭メンバーで、今度はエマ王国軍の心臓部へ向かうぞ。ヒダの国王を継承した以上、この地に火種を撒き散らす外敵は、根こそぎ排除しなきゃね」
「ついでにエマ王国も、レンの手中に収めちゃうわけね。欲張りさん」
ロジーナが楽しそうに笑う。
「そうだ。エマの全戦力を叩き潰せば、王都も城も、あとはただの飾り物だろ」
夜襲、黒い嵐
その頃、エマ王国軍はヒダ王国軍に勝利した余韻にどっぷりと浸かっていた。
占領したヒダの都市で、彼らは暴虐の限りを尽くしていた。勝者の権利とばかりに酒をあさり、女を連れ込み、金品を強奪する。地獄絵図のような宴が明け方まで続いていた。
そんな荒廃した都市にレンたちが到着したのは、日没直後だった。街の喧騒が頂点に達し、敵の防衛網が最も緩む夜になるのを静かに待ち、レンは合図とともに「夜襲」を仕掛けた。
夜こそ、コボルトたちの天下である。
人よりも視界は劣るが、それを補って余りある鋭敏な嗅覚と、数キロ先まで捉える聴覚を駆使し、彼らは闇に溶けて音もなく敵陣へ浸透していく。
圧倒的な数のコボルト軍団が、宴に酔いしれるエマ軍に雪崩れ込んだ。
「な、なんだっ!? 敵襲かぁ!?」
「うわぁっ、スタンピード(魔物の大群)だ! 魔物が街を襲ってきたぞ!」
「うっ……どれ、俺が……叩き斬って……やる……」
千鳥足で剣を抜こうとする兵士たちは、前夜の祝杯のせいで泥酔し、武器を握る力すら残っていない。彼らは、戦士ではなくただの「狩られる獲物」と化していた。
エマ王国軍は、ヒダ軍との激戦を制したという驕りがあった。敗れたヒダ軍は王都へ逃げ帰って籠城すると思い込んでいたため、まさかこのタイミングで、それも別の勢力から攻撃を受けるとは夢にも思っていなかったのだ。
油断、疲労、泥酔。その全てを突き刺すレンの夜襲は、軍としての組織的な抵抗を許さず、一方的な「殺戮」へと変貌した。
王の最期
「陛下っ! 陛下! 襲撃です! 敵が館にまで到達しました!」
側仕えたちが青ざめてエマ国王の寝所へ駆け込んだとき、すでに外の戦局は完全に決していた。
「な、なんだと? すぐに迎撃の準備をしろ! 何をしているっ!」
「陛下、もう手遅れです。迎撃する兵は……どこにも残っておりません!」
「あぁ? ヒダ王国軍を完膚なきまでに倒した我が軍が、なぜ……!? 一体どこの軍勢だ!」
「恐らくはアレス王国の……レンです。大量のコボルトが……っ!」
「コボルトだと……? あのコボルト如きに負けたのか!? ヒダ軍を蹴散らし、あと少しで王都を攻め落とせるところまで来たのに! 長年の悲願が……ッ!」
国王は、領主の館の最上階、豪華な寝室を占領していた。外からは、すでに味方の断末魔と、コボルトたちの獣じみた咆哮が聞こえてくる。
「……静かに逃げるのは、もう手遅れのようですな。こうなれば強行突破……」
――ドタッ!!
側仕えが言い終わるよりも早く、頑丈な寝室の扉が粉々に打ち砕かれた。
「ここにいたか。……みんなが外で死に物狂いで戦っているのに、随分といい身分だな。まあ、国王だから当然か」
そこに立っていたのは、冷ややかな瞳のレンと、妖艶な笑みを浮かべるロジーナ、そして背後に従うワイマラナーのアハトとボルゾイのノイン。他十数匹の精鋭コボルトが、黒い影のように部屋を制圧していた。
「貴様ぁ……! 何者だっ!」
飛び起きようとしたエマ国王の叫びは、最後まで届くことはなかった。アハトが瞬時に間合いを詰め、マチェットが一閃。宙を舞う国王の首。
「ガフガフ(……これで、この茶番(戦争)も終わりだワン)」
アハトはニヒルに血を拭い、鼻を鳴らす。
ノインたちが残りの側仕えたちにマチェットを突きつけた。
「おい、この男がエマ王国の国王で間違いないな?」
「ひ、ひぃぃ……っ!」
震えながら頷く側仕えたち。
「俺はアレス王国国王、レンだ。……これから俺の国になる。生き残りたければ、大人しくしろ」
「は、はい……っ!!」
静寂の中、ロジーナが小声でレンを突っつく。
「ねえレン。何かこう……支配者っぽく、カッコいい決め台詞はないの?」
「ん〜……ない」
(……昔読んだアニメで何かあったような気もするけど、今のこの状況じゃ何も思い浮かばないな。ま、別にいいか)
レンは静かに王冠を拾い上げると、血の匂いが漂う寝室で、次なる支配に向けてただ淡々と、次の一手を考えていた。




