105 背後は任せろ! 伝説の男が残した爆弾発言と、もふもふ達の次なる戦場
「しかし、ちょうど良いタイミングでヘレナは現れたよな」
レンが感心したように言うと、ヘレナは自慢げにふふんと胸を張った。
「そうね、眷属のネズミたちでずっと見張ってたのと、ちょうど良いタイミングで祖父がアレスの王都に来たのよ。これはチャンスだと思って、レッサーワイバーンに一緒に連れて乗せて貰ったわ。間に合って良かった。祖父も、あの冒険者ギルドの総ギルマスには昔から色々と積もり積もった用があったみたいだしね」
「なるほどね。ちなみに、いつ向こう(アレス王都)を出たんだ?」
「今朝よ。レッサーワイバーンの飛行速度なら、ここまでは1日も掛からないわ」
「レッサーワイバーン、すげぇな……」
大陸屈指の飛行能力を持つ幻獣の機動力に、レンは素直に感嘆する。
「ははは。実はヒダ王国の国王からも『アレスを止めてくれ、助けてくれ』という情けない手紙が我がテイマーズギルドに届きましてね」
ランドルフが長剣を鞘に収めながら微笑む。
「ヘレナから定期連絡を貰ってアレスの状況は知っていましたから、アレス王国の助っ人として参じたのですが……どうやら私の助けなど、最初から全く必要なかったようですね」
「いやいや、大いに助かりましたよ。厄介な禍根を断てました」
「ははは、それは重畳」
ランドルフはレンとの話が一段落つくと、愛おしそうにヘレナに声を掛けた。
「じゃあ、一旦アレスの王都へ帰るぞ、ヘレナ」
「はいはい。用は済んだしね。帰りましょうか」
「――陛下、これから北(前線)へ向かい、ヒダ国王に直接引導を渡すのでしょう?」
去り際、ランドルフがふと足を止め、レンに尋ねる。
「ん、そうですよ。そのつもりです」
「ならば南の戦場は我々に任せて下さい。後ろのことは一切気にせず、北で思う存分暴れて来て良いですよ」
「……え? どういう事ですか?」
レンが首を傾げると、ヘレナがいたずらっぽくウインクした。
「あはは! 実はここに来る途中、南の戦場にいたヒダ王国の王子の軍を、上空から半分くらいぶっ飛ばして来たのよ」
「へ……?」
「帰り道、残りのあと半分もきれいにぶっ飛ばして帰りますよ」
ランドルフが、まるで散歩の途中で雑草でも抜くかのように平然と言ってのける。
「あはは……(ロバート将軍たちの出番が……)」
規格外すぎる最強のテイマー親子のせいで、ヒダ王国の精鋭軍が勝手に壊滅していく事実に、レンは乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「プロフェッサー、用が済んだらまたアレスの辺境に行っちゃうの?」
ロジーナが寂しそうにランドルフに尋ねる。
「ん〜、どうせこの戦いが終わったら、みんなここに集合することになると思うよ。ねぇ、陛下?」
「あ、ああ。次のアレス王国の王都は、このヒダの王都にする予定だ」
(……それにしても、まだ誰にも言ってない僕の遷都計画を、なんでこの人は完璧に見抜いてるんだ。本当に凄まじい洞察力だな)
「ほほう、やっぱりそうか! じゃあ、ここで待っていれば、私の大好きな可愛いチワ(チワワ風コボルトのメイド)ちゃんたちも、そのうちこっちに引っ越して来るんだね!」
ロジーナが嬉しそうに声を弾ませる。
「あはは、そういう事になるね」
ロジーナのモフモフ至上主義な問いに、レンは苦笑いで答えた。
「プロフェッサー、しばらくはアレスの国に居てくれるんだろ?」
今度はフェルダーが、かつて憧れた大先輩に問いかける。
「そうだな。アレスのコボルトたちは実に興味深い。生態をじっくり観察したいから、しばらくは国に腰を落ち着けて見ていようかと思っているよ」
「よし! じゃあ戦争が終わったら盛大に打ち上げ(酒宴)だからな!」
「ははは、お前は相変わらず飲むのが好きだな、フェルダー」
ランドルフは伝説の元Aランク冒険者であり、当時の若い冒険者たちにとって絶対的な憧れの存在だった。
若い頃のフェルダーも彼に憧れて剣を磨いた一人であり、ロジーナにいたっては、ヘレナと幼馴染という関係だった。子供の頃からランドルフを知っているが、当時のランドルフは色気のある「ちょい悪オヤジ」で、ロジーナは密かにほのかな憧れを抱いていたらしい。
ちなみに、ヘレナとロジーナの両親は昔の戦争で亡くなっており、短い期間ではあるが、ランドルフが身寄りのなくなったロジーナも一緒に引き取って我が子のように養育していたという、家族同然の深い過去があった。
「よし、そろそろ本当に行くぞ」
ランドルフが愛おしそうにヘレナの頭をポンポンと撫でる。
「ちょっと、子供扱いしないでよ。恥ずかしいじゃない」
ヘレナは照れくさそうにランドルフの手をパシッと払うと、思い出したようにレンに振り向いた。
「あっ、レン! そう言えば、言い忘れてたことがあったわ」
「ん、どした?」
「例の、ミノス王国のエロ王女だけど、なんか急用が出来たとか言って、大慌てで自分の国へ帰っていったわよ」
「ふ〜ん、そうか。まぁ、何事もなくて良かったよ」
(これで安心して戦いに集中できるな)
「報告はそれだけ。じゃあ、また後でね!」
ランドルフとヘレナは、軽快な足取りで謁見の間から出ていった。
さっきまで転がっていた総ギルマス・サバスの遺体は、レンが指示するまでもなく、優秀なコボルトたちが迅速に片付け、魔法でクリーン(消臭・洗浄)まで終わらせていたため、謁見の間はすでに何事もなかったかのように美しく清められている。
静かになった部屋で、レンは何気なく豪華な窓の外に目をやった。
すると、遥か高空を、巨大な翼を広げたレッサーワイバーンが、ランドルフとヘレナを背に乗せて悠々とアレス王都の方角へ飛んで行くのが見えた。
その姿は、これから南の戦場で地獄を見るであろうヒダ王国王子軍への、死神の羽ばたきそのものであった。
「ガフガフ……(マスター、お肉の匂いは消えちゃったけど、俺、やっぱりお腹が空いたワン……)」
足元から、ワイマラナーのアハトが切なげにレンの服の裾をくわえて引っ張る。
「ふふ、そうだなアハト。王城の厨房をコボルトたちに制圧させて、まずは美味い飯にするか!」
レンはアハトの頭を撫でながら、北の前線で待つヒダ王国国王との最終決戦に向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。




