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夫に捨てられた元男爵夫人は、通信交換手として働きながら第二の人生を始めます  作者: キョクトウシラニチ


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13/17

13、切り裂く雷撃

お待たせしました。少し長いです。後半デイロン視点になります。

 不気味なプレゼントが届くようになり、ジェイリーたちはこのことを駐在兵に知らせることにした。

 怪しい人物がいないか、たまに巡回してくれるらしいが、あまり抑止力にはならなかった。


 プレゼントや手紙は、あの脅迫状からだんだんと不穏な方向へと向かっているように思える。

 この前は暗いブラウンの髪の毛が束になって入っていて、ジェイリーはかなり不快な気分になった。

 だから、ジェイリーは引っ越しをしようか悩んでいた。


 そんな悩みを抱えながらも、あと数日後にはトバイアスとの二回目のデートが迫っていた。

 ダイアナに貸して貰ったファンクラブ限定前売りパンフレットを眺め、丁寧な手つきでそれをめくる。借りものなので、大事に扱わなくてはいけないのだ。


「あら、そうだわ」


 今朝バルコニーに少量の洗濯物を出し、今まで干しっぱなしになっているのを思い出したのだ。

 バルコニーには屋根があるため、天気を気にせず洗濯物を干していても大丈夫だ。初めての不動産屋さんにそれをお勧めされた当初は意味が分かっていなかったが、しっかりと掃除洗濯をする一人暮らしに慣れた今、その言葉がとても身に染みている。


 ジェイリーがバルコニーの扉の前に立った時……


 扉の外に人が立ったのを見た。



 ひ――……!!


 男だ。あの、外套を被っている男だった。男は二階のバルコニーの柵をどこから登ってきたのか、乗り越えて中に入ったところだったのだ。

 暗がりの中、ユラリと動いた相手がジェイリーを見た。


 あちら側からは明るい室内にいるジェイリーがはっきりと見えているのだろう。

 彼の手はすばやくバルコニーの扉を開けようとした。


 ジェイリーは用心深くなっていたため、バルコニーとはいえしっかりと鍵をかけている。ガチャガチャと男がドアノブを回す音がして、すぐ――……



 ガシャーン!!カシャ、カシャン!


 窓が叩き壊された。


「ひっ!」

 ジェイリーは口から悲鳴を零しながら、必死で玄関に逃げ、防犯銃を手に取った。

 背後から、バルコニーの扉が開いた音がする。


 ジェイリーは震える手で防犯銃の安全装置を外したが、これを発射する勇気はジェイリーにはない。

 逃げようと玄関の扉を開けて、一歩前に出たときだった。


「うぅっ!!」


 ジェイリーの細い手足と首に何かが巻き付いていた。それは彼女の自由を奪い、アパートの廊下で彼女を転ばせた。

 その独特の感覚で、自由を奪ったのは魔法の植物だと判った。ツルのようなものを巻き付け、ジェイリーは完全に動けなくされていた。



「俺を裏切るなって……言ったよなぁ?ジェイリー?」



 恐ろしさに震えるジェイリーに、男が背後から近づいてきた。

 目だけを動かして男を確認すると、ジェイリーの部屋の玄関の魔導ランプに照らされた男の顔には、わずかに見覚えがあった。

 こんな時なのにジェイリーの頭がフル回転し、その男の面影を記憶の片隅から引っ張り出す。


 男は数カ月前にダイアナや他の同僚と飲みに行った晩、たまたま一緒に席を囲んだ軍関係の男の一人。

 口数少なく、他の人の相槌を打ちながら静かに酒を飲んでいたのを覚えている。

 ときおりこちらを見ていたような気がするけれど、すぐに目を逸らしていた。それだけだった。


 けれど、今目の前にいる男は目を充血させて見開き、口がピクピクと痙攣して、異常な形相だ。


「あ、あなたなんて、知らないわ!」

 自己紹介もしなかった。名前も知らない。居酒屋で一時間ほど隣に座っただけだった。どうして彼は私の名前を知っているのだろう?直接話したのだって、本当に一言二言だったと思う。印象にも残っていなかった。


「俺のことを誘惑しておいて、なんだその口は!!」


 男は部屋に入ってきた時点でもう腹を決めていたのだろう、手にはナイフがあった。


「やめて!何するつもり!?」


 ジェイリーは必死に大きな声を出した。この声で誰かに危険を知らせたかったのだ。


「んんーーーっ!」

 男の手先から出てきた縄のようなツルがまたジェイリーの顔に向かってきて、口を塞がれる。


 そして、彼のツルはジェイリーの部屋へと、彼女を引きずっていく。

 部屋に閉じ込められたら、どうなるのか……

 男の口の端はピクピクと痙攣しており、笑っているようにも見えた。



「俺を裏切ったやつに、今までどうしてきたか、お前にも思い知らせてやるよ!」

 植物魔法を操作する男の反対の手にはナイフが光っていた。



 いや!!


 ジェイリーは動かない手を必死に動かし、ツルに巻き付かれた指でなんとか引き金を引く。



 ――――!!!!!!!




 さっきの窓ガラスの破壊音とは比べようのない、轟音。


 音というより衝撃がジェイリーの手元の筒から、二方向へと分かれて放たれた。


 一方の青い電流が男の膝に当たり、彼の全身が一瞬真っ白に光る。


「ぐ――……っぅぅぅぅ!」

 男は唸り声を出した後、膝から崩れ落ちた。


 後から聞いた話では、もう一つの電流の塊は空に向かい、高く舞い上がると空に雷撃の爆発を起こしたのだという。


 あっという間のことだった。


 男はピクリピクリとジェイリーの部屋の玄関の奥で痙攣している。

 巻き付いたツルが自力で取れないジェイリーは、アパートの廊下とジェイリーの部屋の扉の間で倒れたままだった。

 ツルのせいで声も出せない。



 ゴロゴロ……という雷の音が響く。

 それと一緒に誰かの足音が近づいて来た。


「ジェイリーさん!!!」


 アパートの廊下に、いつもよりラフな格好のトバイアスが息を切らせて走り込んできた。体には大量の雷魔力の電気を帯び、短い髪は全て逆立ち、いつもは隠れている彼の額の傷まで見せている。

 なんらかの魔法を使って、高速で移動したのだ。

 目にも見える放電が彼の腕の周りにパチパチと光っていた。


「んんっーんっ」

 ジェイリーに巻き付いた魔法のツルは強固でなかなか外れない。トバイアスの顔を見て、ジェイリーは安堵のため涙がポロポロと止まらなくなった。


「怪我をしていないか?!」

 トバイアスは強い力で口から後頭部に巻き付いたツルを引きちぎって外すと、倒れ込んでいたジェイリーを抱きかかえた。


「ト、トバイアスさん……トバイアスさん!トバイアスさん!あ、あああっ」

 恐怖から解放されたジェイリーは彼の大きな胸に隠れるように身を預け、ガクガクと震えて泣いた。


「怖かったな。よく銃を使ってくれた。よかった。怪我は……ないな?」

 トバイアスは手や足に巻き付いたツルを外しながら、ジェイリーに声をかけてくれた。


「うううっ」

 泣きながら大丈夫だと訴える。声が上手く出ない。

 そんな情けない自分を安心させるように、トバイアスは何度も背を擦ってくれる。その優しさに、ジェイリーはようやくまともな息が出来るようになった。



 この轟音騒ぎでやっと駐在兵が集まり、犯人は失神したまま拘束されたのだった。



 -----



 デイロン第二室長はこの日、久しぶりに休みが被った同僚のトバイアス第一室長と飲み屋に来ていた。

 彼と飲むのは約半年ぶりだ。


「魔導通信に」

「魔導通信に」


 二人で魔導通信開発が始まったときからの掛け声で、乾杯した。


 トバイアスとは軍時代からの腐れ縁になる。

 もともとデイロンは兵士として軍に入ったが、途中から魔導具開発の才を発揮し、魔導通信の元となる軍用の電気信号通信の開発に従事していた、魔導具の軍機開発者だ。

 戦争中はトバイアスが実戦で活躍しているのを支える側だった。初めて彼と話したのも、この音声による魔導通信の通魔回線に雷電力を借りたくて、『雷撃の剣』と呼ばれる彼に接触したのがきっかけだった。


 それから戦争は終わり、多くの兵士が軍を辞めたがトバイアスとデイロンは、辞めたくても辞めることはもうできなかった。

 トバイアスは今更一般人になれるような魔力量ではないことと、デイロンは軍での開発品に携わり過ぎたせいだ。

 この魔導通信関連の施設は全て国営、しいては軍の持ち物の一つなのである。


 だから室長や局長は退役軍人や軍関係の元研究者たちが占めている。ある意味今でも軍人といっても差し支えがない。


 なかでもトバイアスは軍人らしい男だと、今でもデイロンは思っている。

 生真面目で責任感が強い男だ。


 そして彼は、恋愛方面にはめっぽう弱い。奥手でシャイな気質は正直、不器用だと思っている。軍の仲間は簡単に女性に手を出すのに、現役の時でも彼はそんなことはしなかった。

 デイロンには彼の心情は分からないことだが、トバイアスは戦争が終わっても、まるで自分を律するように女性からの誘いに乗らなかった。

 戦場で何があったのかは知らない。


 一度ずっと独りでいるのか、と彼に聞いた事がある。あまりにも女性を受け付けない彼に、心配になったのだ。

 トバイアスは薄く笑って「そうかもな」と言った。


 そんな男が今、恋をしている。


 デイロンは自分のことのように嬉しかった。

 いつも機械的に職場で業務をこなしていた彼は、あの女性が働き始めてから変わった。

 どういうきっかけかは分からない。だけどトバイアスは今までよりもずっと良い表情をするようになった。彼女が地道に頑張っている姿に彼も何かを得たのか、彼も生き生きとしていると感じる。

 今日は彼と久しぶりに飲んで、そのあたりの進捗を聞き出そうと思っている。


「それで、どうなんだよ?トバイアス。彼女とはさ……」


 そう話を向けた瞬間だった。



 ドォォォォォン!!!!ビビビビ……!!!



 凄い音が鳴ったのだ。衝撃が振動になって、周りの物を揺らすほどだった。

 それは間違いなく雷の魔力を帯びた電気爆発。『雷爆魔法』だった。空で爆発したものだ。しかもこの魔力の質はよく知っている。


 トバイアスは瞬時に酒場の席から立ち上がった。その表情は軍にいた頃の目つきに似ていた。

「俺の魔法だ!ジェイリーさんに何かがあった!行ってくる!」

 言い終わる前に、トバイアスは走り出していた。


 デイロンは風のような後ろ姿に、声を張り上げる。

「おい!トバイアス!殺すなよ!相手、殺すなよ!」


 酒場の扉から出ていこうとしたトバイアスは一度だけこちらを見て、小さく頷いた。


 窓から見えた彼は、『電磁浮遊魔法』を使い、青白く発光しながら一瞬で飛んだ。残像はまるで一瞬の青い閃光を放つ雷のようだった。



 その姿を見て、デイロンは緊急事態らしいが、笑ってしまう。


「くっく……あの魔導銃を彼女が使ったら、自分が察知できるようにしてるとか、どれだけだよ。なんだよあの『雷爆魔法』の威力……くっく……」

 居酒屋のカウンターでデイロンが笑っていると、追い打ちをかけるように、さらに空でゴロゴロゴロと雷が鳴った。

お読みいただき有難うございます。


今回はストーカージェイリーにビリビリガンでやられるの巻です。

こういう魔法のアクションシーン好きだわぁと書いているのが分かりやすいですね。雷爆魔法のせいで雲が刺激されて後で凄い雨降りますが、それは割愛しました。


次回はダイアナ視点のお話になります。

もう少ししたらゴールが見えてきます。もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。


いつもブクマ、リアクション有難うございます。感想や評価、誤字脱字報告もお待ちしております。

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