表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
K'sキッチン 〜恋愛感情ゼロの美味しい料理〜 第二部  作者: pp
追加エピソード 過去編 胡葉のかぐや姫
33/34

秋風のあと

 その向こう、裏方としてその様子をじっと見ていた生徒会会計の千春は、明日香に飛びつかれた瞬間の胡葉の「表情」を見逃さなかった。

 一瞬だけ世界が止まったような、あの切なさを孕んだ目。

(……あれ? まさかとは思ったけれど、佐久夜さん、あなた本当は……)

 千春は何かを察したように小さく目を見開いたが、それをはっきり口にするほど野暮な人間ではなかった。

 彼女はふっと息を漏らすと、何も言わずに書類に目を落とした。

 こうして、千春は後々、胡葉にとって誰にも言えない本音を預けられる、唯一無二の理解者となっていくのだが、それはまだ少し先の話である。




 一方、客席の隅で劇を見ていた九条麗奈は、しばらく立ち上がれずにいた。

 胡葉のかぐや姫は、美しかった。

 あの最後の「見返り」の所作は、確かに自分が教えたものだ。

 けれど、胡葉はそれを自分よりも遥かに必死に、そして綺麗に表現してみせた。

 自然体に見えて、あの不器用なライバルがどれほど裏で練習を重ねてきたか、麗奈には痛いほど分かった。

(やっぱり、勝てないわね……)



 文化祭の終了後、体育館の片付けの最中。

 麗奈は一人、客席に残されたパンフレットを黙々と集めていた。

 完璧な優等生の仕事として。

 そこへ、不意に後ろから声が掛かる。


「九条さん。今日、すごいきれいだったね」


 振り返ると、ジャージ姿の岸本くんが立っていた。


「……え?」

「結構、練習したんだろ。ジュリエットのやつ」


 麗奈は、集めたパンフレットをぎゅっと抱きしめ、少し黙ってから、いつもの仮面を被って答えた。

「別に……普通ですわ」


「あとさ」

 岸本くんが、少し悪戯っぽく笑う。

「なんか今日、前より話しかけやすいわ」

「えっ?」

「前って、なんか完璧すぎて近寄りづらかったんだよな。でもさ……なんか今日の九条さん、劇が終わった後、舞台袖で盛大につまずいて、うずくまりながら顔隠してただろ」


 麗奈の心臓が跳ね上がった。

(見られてた……!?)


「ま、また話そうぜ」

 ひらひらと手を振って、去っていく岸本くんの後ろ姿を、麗奈は呆然と見送った。


 ずっと「私を見てほしい」と思って努力してきた。

 けれど、彼が見てくれたのは、完璧に演じたジュリエットではなく、ドレスの裾を踏んで不器用につまずいた、泥臭い自分自身の姿だったのだ。

(私……見せるものを、間違えてたのかもしれない)

 胡葉のかぐや姫の、あの必死な美しさを思い出す。

 悔しいけれど、不思議と胸の苦しさは、秋の風に溶けるように少しだけ軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ