93. ダンジョンの説明
干城と奈津希はベステノーアへ到着した。セスティーナ・ヴァン・ロウグエルト女子爵が治める、人口三万五千人を抱える中規模の街だ。
中規模の街か……日本で一番人口が多い村って確か沖縄県の読谷村で人口約四万人だったよな。いやまあ、逆に一番人口が少ない市は、北海道の歌志内市で人口約二千四百人だったか?
無事に街へ入ったものの、あるはずの冒険者ギルドが見当たらない。門を固める警備兵に尋ねてみると、フリーランスギルドは西門側にあるという。西側にダンジョンが存在するため、その付近にフリーランス区画を纏めているらしい。理にかなった配置だと納得する一方で、「フリーランス区画」という聞き馴染みのない響きが頭に残る。ともかく西へ向かおうと歩き出すと、「ダンジョン」の単語を聞きつけた奈津希のテンションが分かりやすく跳ね上がった。
街の西側に辿り着くと、そこは本来の外壁から凸型に押し出された特異な形状をしていた。どうやらここが件のフリーランスギルド区画らしい。ダンジョンのある街は荒くれ者のフリーランサーの行き来が絶えない。彼らを一箇所に隔離して街の治安を保つため、後から外壁を拡張したのだろう。とはいえ、露骨な継ぎ足し感は否めず、街の防衛面で支障はないのかと干城は少し首をひねる。
フリーランス区画と称してはいるが、独立した自治区というわけではなさそうだ。門の警護を務めるのは正規の警備隊であり、区画内には駐在所も置かれている。あくまで街の一部であると領主側が主張するための措置なのだろう。
エリア内には宿屋や食事処兼酒場がひしめき、屋台広場に至っては王都以上の広さと種類を誇っていた。いかに多くのフリーランサーがここを行き交っているかが伺える。
到着したギルドの建物は王都のものより一回り大きく、溢れるような熱気に満ちていた。しかし、チラリと見た依頼ボードに干城は違和感を覚える。EランクとFランクの依頼票はびっしりと貼られているものの、それ以上のランクの依頼は数えるほどしかない。ダンジョンを抱える街にしては、一体どういうことだろうか。
ダンジョンの情報を聞こうと受付けに向かいギルドカードを差し出す。13歳の冒険者に驚いたようだが表情に出たのは一瞬だった。奈津希は頻りに関心していた。
「この世界の受付嬢は流石よね〜、ラノベだと「ええ〜冒険者?」とフロアに響き渡るくらい絶叫するのがお約束なのに、ソフィアさん初めどの受付嬢もクールなプロって感じよね」などと宣っていた。
すると受付嬢は奈津希の言葉に意味がわからないといった感じながらも、分かる部分で質問された。
「あの、ソフィアとはログマイヤ支部のソフィア・リベリテでしょうか?」
干城はなぜここでソフィアさんの名が? と思いながら答えた。
「はい、そうです。ログマイヤ支部ではとてもお世話になっていて、足を向けて寝れないくらいの恩人です」
受付嬢は微笑みながら、懐かしそうに目を細めて話した。銀髪を背中まで伸ばした受付嬢はフィロメナ・カルティオという名前で、ソフィアさんとは受付嬢の研修同期だそうで、研修時はいつも一緒で仲良くしていたそうだ。
フリーランスギルドは世界中に支部を置く巨大な組織だ、国内だったらそんな人と人の繋がりだってあるだろうし、世間は意外と狭いものだなと思いながら奈津希と顔を見合わせ二人納得しながら頷きあった。
ダンジョンに関する質問で全く予備知識がないことを話すと、フィロメナさんは受付けを代わって談話室で説明してくれた。お茶を準備するというので奈津希が慌てて止めて、空間収納からチャイを淹れたポットとティーセットを取り出した。奈津希は最近インベントリの格納物を空間収納に移すことを習得したと話していた、素直に羨ましい。インベントリの格納物を取り出して空間収納に収め直すのは地味に面倒臭い。労力は大したことはないが面倒臭い。
奈津希はチャイの材料や淹れ方をソフィアさんに教え、今ではログマイヤ支部で人気になっていると楽しそうにフィロメナさんに話していて、チャイをひと口味わったフィロメナさんはその味と香りに驚き、奈津希があとでチャイとロイヤルティミルクティーの淹れ方を実演すると話が決まった。
さて、本題のダンジョンだが、ランクC以上推奨の全体は全40層の階層型で10層毎に階層主が存在し、1層、11層……と転移魔法陣が存在する。転移魔法陣の横に石碑がありそれに触れると個人が登録されるらしく、以降は触れた石碑の階層を選んで転移できるようだ。うん、ありがちな設定に安心する。
1層は洞窟型でスライムしか出ない、2〜10層はお馴染みの石造り地下通路のような構造で結構広く交差する通路で入り組んでいるらしい。6層まではゴブリンやウルフ系が出現する、7〜9層はゴブリンに代わってコボルトになるそうだ、10階層の階層主は大量のゴブリンとコボルトだそうで、それ階層主じゃなくてモンスターハウスというやつじゃない? と思っていたら奈津希も同じことを言っていた。
11層〜19層は通路が広くなってオーク、ボア系、ディア系などで、そういえば今までオークに遭遇したことなかったなと思っていたら、国内ではエルベシャ山脈より北側に行けばオークがいるとのことで、エルベシャ山脈より北側には行ったことがないから、そりゃオークに遭遇する筈がないなと納得した。20層の階層主はオークキングと配下に20体のオークらしいが、魔法を使うオークも混ざっているとか。
21〜25階層は神殿型階層でゴーレムや聖職者のようなレイス系、26〜29層は廃城型階層で兵士のスケルトンやグールといった死霊系階層で30層の階層主はデカい骸骨とレイスが多数らしい。中間階層で食い物が得られない階層なのかと思ったが、なんの問題もないな聖属性と相性がよく、聖女の職業スキルを持つ奈津希が一人で全部持っていきそうな階層エリアだ。
30層以降はローグライク型というか、自動生成の不思議ダンジョンのようで一定しないので説明できないということだ。29層までは地図が売ってあるそうだが、奈津希がダンジョンは端から端までマッピングするのがラノベの常識と醍醐味と言って地図は買わなかった。
その他の説明としてはランダムな各所に宝箱があること。転移魔法陣の近くにセーフティエリアがあること。討伐した魔物は20分経過すると魔石や一部の素材を残して消えること。31層以降は各層に転移魔法陣とセーフティエリアがあるという話だった。ここまではありがちだなと思ったが、ここから先が途中から予想と違う内容だった。
ダンジョン内には肉として食える魔物もいる、時間経過で消滅する前に本体から切り取った肉は時間経過で消滅しないし食料にできる。(うんうん)但し、ダンジョンの外には持ち出せない(え?)ダンジョン内の魔物は基本的にダンジョンの外に出られない。
ダンジョンの外に持ち出せる物は魔石や消滅時に残った素材が持ち出せる。
(つまり、魔石とドロップ品のみ持ち出せる。それで肉は解体で得られるがドロップはしないってことか?)
どうやら、考察は当たったようでダンジョンを出た瞬間に消滅するようで、ダンジョンに戻っても復活はしないそうだ。これは何度も実証されている確かなことだ。ダンジョン内では肉として料理もできて食えるのに持ち出せない? だが例外があるらしく、食って消化吸収した分や排泄物として物質変化したものは持ち出せるようだ。あと物質変化と言っても料理して焦げましたとかでは持ち出せないとのことだ。
あとは、食料としての肉に限らず目玉とか心臓や骨などの素材になりそうなものも、ドロップせずダンジョンに吸収されるものは持ち出せない。だが、だいたい鱗や爪、牙や皮などの素材はドロップするようだ、考えようによっては、待てば解体の手間いらずで素材が手にはいるということか。
(物質変化したもんなんか持ち出せても何にもならんわな。だが、その辺はバーチャルエリアのルールと類似してるな、あそこのものも外に持ち出せないところが)
バーチャルエリアのことは口にできないので、干城は思った感想を口にしていた。
「そうなんですね、それじゃあダンジョン内の出入り口付近に屋台を出して、ダンジョン肉を腹一杯食べても、一歩ダンジョンの外に出れば消滅するから太る心配がいりませんね」
このひと言がフィロメナさんのツボに刺さったらしく彼女は一頻り笑ったあとに、そんな斬新な解釈は初めて聞いた。でも言われてみれば確かにとも思ったと言われた。
一通りダンジョンの説明を聞いたあと、フィロメナさんの案内で給湯室に行き、チャイとロイヤルミルクティーの淹れ方実演と、実際にフィロメナさんにも淹れてもらい、ギルド職員にも試飲としてティーポットに入れて各部署に配り、とても好評を得られた。
そう言えばと思い出し、Cランク依頼が少ないのはなぜかと聞いたら、依頼を出さなくても次々とフリーランサーが素材を持ち込むから依頼を出す必要がないそうだ。ダンジョンを主な稼ぎ場としているフリーランサーにとって、素材収集に依頼を受けるよりダンジョンのドロップ品を納品した方が割が良いらしく、誰も受けない依頼を出してもとCランク依頼はあんなに依頼が少ないようだ。




