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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
3章 冒険者
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89. 戦争参加 3(内通者の使いみち)

 リムラート司令が奇襲部隊を率いて砦を出たのち、事前の取り決めどおり干城も密かに砦を後にしていた。 


 リムラート司令の部隊は東の森を時計回りに迂回し、敵本隊の側面を奇襲する――表向きはそういう手筈だ。反対意見を押し切り、砦の臨時指揮官に奈津希を据えたのも事前の取り決め通りだが、他の部隊長に対してはリムラート司令の決定という形にした。


 干城は西側から大きく反時計回りのルートを取り、敵陣の西側面をすり抜けて、その背後へと回り込む。道中、敵の斥候に遭遇することは一度もなかった。敵が随分と油断しているのか、あるいは、こちらの動きをあらかじめ知っているのか。こちらの罠にハマっているのだとすれば後者だろう、と干城は考えていた。


 木々の影がやや東寄りになる頃、奈津希からステータスレブリート(魔導チャット)が入る。敵1万5千が砦前方に陣取り、攻勢を仕掛けてきたという。チャットの文面には『タイミングを隠す気はないのか。あからさま過ぎる』と呆れたような言葉が躍っていた。


 その報告を受け、干城は確信する。斥候部隊長が内通者で確定だ。この奇襲作戦を二日前に知らされていたのは彼しかいない。他の部隊長に伝わったのは今朝だ。敵がこれだけの規模で攻勢の準備を整え、移動してきた時間を逆算すれば、今朝知ったのでは到底辻褄が合わない。


 それと、敵の指揮官は妥当な判断を下したようだ。戦力を分散して砦とリムラート司令の首を取るより、全力で砦を落としに向かった。元々数が少ない上に更に半数がリムラート司令に引き連れられて指揮官不在の砦を落とせば、リムラート司令の部隊はどうとでもできるという判断だろう。


 干城は奈津希の情報で二つの判断ができた。


 思考を切り替え、干城は敵本隊が陣取っていた周辺を索敵した。ほどなくして、敵の食料を管理する輜重隊千人と、守備隊五百人を発見する。輜重隊の千人も手薄だが、守備隊の五百人はさらに少ない。食料を奪われる可能性など、微塵も考慮していないのだろうか。自分で仕向けた状況で望む結果であるはずなのに、補給を軽視する敵の指揮官に舌打ちしたい気持ちだった。そんな気持ちに蓋をして干城は敵部隊へと吶喊した。


 身体強化魔法で加速し、一陣の風となって守備隊に襲い掛かる。手にした脇差しで敵兵の右腕を正確に切り裂き、武器を扱えないようにしていく。後方へ逃げ出そうとする輜重隊の前に、無詠唱で展開したリフレクターに反射させた光魔法のレーザーを着弾させた。派手に大地を穿つ爆音、熱波、そして土埃。背後を断たれたと錯覚した敵兵たちが、恐怖に顔を歪めて立ち尽くすのが見えた。


 干城は疾風の速さで守備隊の中を暴れ回った。脇差しでの斬撃と同時に光魔法や風魔法を放ち、敵の戦力を瞬く間に無力化していく。


 毎秒ごとに戦力を削られ、退路を断たれた輜重隊と守備隊は、ついに本隊へと合流するように逃げ出し始めた。干城はそれを追わない。食料を失った彼らがどこへ逃げようと、結果は同じだからだ。敵本隊には少ない食料を更に減らす胃袋が合流することになる。


 干城は血振りした脇差を鞘に収め、敵が残した食料をせっせと空間収納に鹵獲しながら、奈津希にステータスレブリートで現状を伝えた。


『敵の食料を鹵獲する。輜重隊千と守備隊五百は、あえて敵本隊に向けて敗走させた。食料を失ったと知れば、敵は死に物狂いで砦を襲うだろう。鹵獲が終わり次第、合流に向かう』


 送信を終え、干城はこのまま目論見どおり推移すれば今日で決着がつくなと予想した。予想が外れても誤差みたいなものだ、大して食料がないことは分かっている、数が倍だろうと飢えた軍隊など脅威ではない、砦で数日持ち堪えればいいのだから。


 干城が敵本隊の背後に接近した頃、頭上を仰ぎ見ると、上空に金色に光る巨大な魔法陣が出現していた。奈津希が『天使の祝詞』を発動させたのだろう。


 砕け散った魔法陣は金色の雪が敵陣全体へと降り注ぐ。神秘的な光景に呑まれた敵軍は呆然と立ち尽くし、戦場に一時の静寂が訪れた。――直後、まるで糸が切れたように、敵兵たちが次々と武器を落として崩れ落ちていく。


 干城は素速く敵本陣に突入し、敵の指揮官と重鎮らしき者たちを捕縛すると、奈津希にステータスレブリートでその旨を伝えた。すぐに奈津希から、狼煙を合図に捕縛要員を出すと返信が届く。


 直後、空へ高く上がる狼煙が見えた。それを合図に、東の森からはリムラート司令の奇襲部隊がなだれ込み、砦からも多くの兵が出撃してくるのが視界に映る。身動きできないほど体力を奪われた敵は、抵抗の術もないまま次々と武装解除されていった。


 砦の地下牢に敵兵を収容する能力などあるはずもなく、干城と奈津希は大急ぎで砦の後方に土魔法ゴリ押しで二万人が収容できる大規模な捕虜収容施設を作らなければならなくなった。二人がかりで6時間程で完成させた。我ながらこれができる身体と魔力量は本当に人間なのだろうかと疑いたくなるが、身体強化して10時間走って息も乱れないのだから今更かとも思った。


「そうか、生きて捕虜にしたら収容しないといけないし、食わせないといけないよな」

「当たり前のことなんだけど、事実に直面するまで思い至らなかったわ」


「それもあるけど、この先この人数を食わすのも大変な出費になるね」

「敵の指揮官や重鎮って貴族だったんでしょ、捕虜引き渡しで身代金とるのがラノベのストーリーだけど」


「問題は膨大な数の兵士だよね、捕虜引き渡しに応じれば良いけど」

「もしかしてアタシ達って、大量の無駄飯食いを作ったって領主から恨まれるかしら? 単純に街の守備隊の倍の数よね」


 干城は収容施設が完成したことをリムラート司令に報告して、施設へ敵兵を移動させてもらう進言をした。リムラートは部隊を編成し敵兵を収容施設へ移動させた。干城の報告と同じタイミングで、砦の人数の倍以上の捕虜に与える食料をどう調達するか、補給担当官がリムラート司令に相談にきた。干城は敵の食料を鹵獲してるので、しばらくは保つと伝え、補給担当官が指示する場所に空間収納から鹵獲した食料を出していった。斥候部隊長と二人の斥候隊長は逃げ出そうとしたところを捉え、尋問中のようだ。


 リムラート司令は現在の状況を認《したた》めた報告書を持たせた早馬をベルゲンロール伯爵の元へ走らせていた。砦の各部隊長にも斥候隊長と斥候第一、第三隊長が敵との内通者で、それを利用して今回の策を用いたことを説明し情報が共有された。


 斥候第一、第三部隊の隊員は一時的に隔離され取り調べの後解放される。斥候部隊副隊長を隊長とし、差し当たって第二、第四部隊で斥候を務める。早速敵本陣が布陣していた後方の結構広い範囲に偵察任務が与えられた。


 今回はこれで終わりかな。捕虜をどう扱うかは分からないが自分の領分ではないし、捕虜収容施設を作ったから充分だろう。


「なんとか片付いたね。あとは斥候が敵が布陣した後方を確認して、安全が確認できたら解散かな。もう少しの辛抱か」

「ちょっ、干城やめてよね、そんなフラグ立てるの」


「えっ? フラグ。あっ、いや、そんなことにはならないでしょ、現実なんだから。大丈夫、大丈夫」

「あのね干城、『やったか?』は代表的な特大フラグよ」


 三日後斥候が持ち帰った偵察情報は驚くべきものだった。


 


 





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