(閑話)覚醒、奈津希の天使魔法
奈津希は職業スキルに聖女が増えていたので、どんなものかライフワークに設定してみた。感覚的に分かるほど魔力量や魔力制御などの魔力に関することが上がった感じがした。同時に複数の聖属性魔法を理解した。
単体回復魔法『天使の慈愛』聖属性回復魔法は怪我の治療に効果がある。四肢欠損も回復可能、あらゆる病気も同時に体力も回復させる。
「とんでもチートね」
広範囲回復魔法『天使の友愛』範囲は任意で調整可能。四肢欠損まで回復できる。
「四肢欠損を範囲回復でって出鱈目過ぎない?」
単体攻撃魔法『天使の聖裁』対象の属性や防御無視の貫通魔法。
「これ扱いに気をつけないと素材がなくなっちゃいそうね」
広範囲即死魔法『天使の慈悲』範囲は任意で調整可能。対象の属性や防御無視の貫通魔法。対象者は恐怖も苦痛もなく安らかに絶命する。
「範囲は任意で調整できて……恐怖も苦痛も感じさせず、防御無視で安らかに眠るような即死魔法……嘘でしょ……ホントに聖女なの?」
広範囲敵味方識別魔法『天使の祝詞』範囲は任意で調整可能、敵の体力を奪い、味方の体力を回復して怪我を治療する。四肢欠損の回復には至らない。
「四肢欠損までは回復できないけど、戦場で味方は回復して敵は体力を失うなんてエグいわね」
広範囲攻撃魔法『天使の断罪』範囲は任意で調整可能、聖職者特効、神を騙る聖職者の魔力や魔法を制限し行動の自由を奪う。自白効果がある。術者の任意で解除できる。
「……ありがたいけど、組織自体が腐ってたら意味あるかしら?」
広範囲浄化魔法『天使の息吹』範囲は任意で調整可能。毒や瘴気、自然界の物質作用などの汚染状態を清浄化する。ゴースト、アンデット系にも効果がある。
「これは聖属性魔法っぽいわね」
広範囲結界魔法『天使の天蓋』範囲は任意で調整可能。術者が無意識でも拒絶するものを通さなくなる。
「なんかフワッとしてるわね。無意識でも拒絶するものってなによ?」
反射防御魔法『天使の矛盾』防御範囲は任意で調整可能、物理も魔法も倍の威力で反射する。
「なんなのこのネーミング? はっ? 物理衝撃も反射するの? それは最強の矛と盾ね、あっ!」
広範囲支援魔法『天使の抱擁』自分を含めて範囲は任意で調整できる。全能力を倍化する。
「ステータスにパラメーターないわよね。倍化ってことはパラメーターは全部マスクデータってこと?」
広範囲土壌改良魔法『天使の慈雨』範囲は任意で調整可能、地質に関係なく術者の求める土壌に変質させる。
「あ〜……そんな感じだったわね」
干城が天使シリーズっていってたけど、まさか本当にあったなんて。それも、どれもこれも魔法の限界を軽く超えたチートばっかり。でも、これでもかってくらいラノベの夢が詰まってるわね。使いどころが難しそうなのもあるけど。聖属性魔法っていうより、名前的にも天使属性魔法って感じよね。
聖女をライフワークに設定したら新しい魔法を覚えて、その魔法の内容を干城に話したら固まってしまった、こんな反応の干城は初めて見た。いや、ラノベの空想派のアタシでもドン引きするくらいだから、寧ろ理屈派だからこそ内容の無茶苦茶加減に処理が追いつかないのだろう。
エグい魔法もあるが一度は発動させておきたい、南へ出発前にキャンプに行って練習が必要だ。
「干城。新しい魔法の練習にキャンプにいかない」
「分かった。一度は試しておかないといけないしね。急ぐ用もないし良いんじゃないかな」
「じゃあ決まりね、明日出発しましょう」
「今日でなくて良いの? バーチャルエリア経由で行けばすぐだけど」
そう言われればそうだ、流石は干城だ理屈っぽい。食材や料理のストックは充分以上ある、干城の言うとおりすぐ出発することになった。宿をチェックアウトして人気のない路地にいき、バーチャルエリアに移動して、いつものキャンプ地に出る。
干城はテント以外のキャンプ地準備を始めたので、奈津希は川原に行って魔法の練習をする。川の向こう側に天使の慈悲を発動してみる。上空200メートルほどの位置に金色の魔法陣が出現し、発動と共に魔法陣が砕け金色の羽が地表に舞い降りた。川の向こう側にゴブリンが6体ほど居た、金色の羽根に触れると声も上げずにパタリと倒れた、魔力探知すると絶命していた。あんな感じになるのか、ゴブリンの死骸を浮遊魔法で浮かせて、こちらに引き寄せ土魔法で穴を堀り、ゴブリンから魔石を抜いて埋める処理を済ませる。
天使の聖裁を出力調整しながら数回試してみる、岩に当てた感じでは出力を絞って糸みたいな太さで充分な気がする。この魔法に最近魔法の練習で干城と競っている魔法発動位置を組み合わせてみる。練習を重ねた成果だ。奈津希と干城は最近、自分を中心に半径150メートルほどの範囲なら、どこにでも魔法を発動できるようになっていた。
つまり、この範囲内なら反射させなくても任意の位置に魔法陣を出現させ直接魔法で回復も攻撃もできる。ただし、体内に魔法陣を出現させて発動はできない。なかなか上手くいかないものだ。川原から離れて森の中を歩いているとボアに出くわした、ボアが魔法陣展開の範囲内に入ったので、ボアの真横で天使の聖裁を最小に絞って発動させて一撃で倒せた。このくらいで威力は充分みたい。
ボアを空間収納にしまって川原にいき解体をして魔石を抜き取りワタは穴に埋め、解体が終わったボアは再び空間収納にしまい残留魔力が抜けるのを待つ。魔法は感覚が掴めたので一旦キャンプ地に戻ろう。
キャンプ地に戻ると干城はロッキングチェアに揺られながらコーヒーを楽しんでいた、見た目は可愛い13歳なのに、行動は誤魔化す気はないのかと問いたい程オッサン臭い。
「奈津希おかえり。そっちの椅子使って。コーヒー飲む?」
「いただくわ、にしても干城。ロッキングチェアって、またジジ臭いわね。デッキチェアなら様になってたと思うわよ」
「はい、コーヒーどうぞ。なるほどデッキチェアか。確かに水辺でキャンプに合いそう。良い布あったかな」
布に心当たりがあったので空間収納から取り出して干城に見せてみる。
「布はこれでどう? 厚手だし量も充分と思うわよ」
「この布いいね、使わせてもらうよ。もうひとつ同じ布があれば奈津希のデッキチェアも作るよ」
「布あるわよ。じゃあお願いね」
ロッキングチェアに揺られながらコーヒーの香りを楽しみ、魔法の感想を話したり、ボアを討伐したことを話した。4月を迎え冷たかった風は涼しくなり、川のせせらぎを聞きながら眺める景色は、暖かな陽光を反射する川の向こうの新緑の森と遠くの山。……コーヒカップをテーブルに置き、両手を上に伸ばすとロッキングチェアは後ろに反れ、高い雲と青い空が視界いっぱいに広がった。微風に乗って鼻腔を擽る肉が焼ける香ばしい匂いが……なぜするのだろう?
「干城、なんだか肉が焼ける匂いがするんだけど」
「ああ、バーベキューしようと思ってね。ここに来てすぐにバーベキューコンロに仕込んだから、ボア肉だけどスペアリブやプルドポークで夕食に食べられるよ」
「夕食ってまだ昼過ぎよ、本場式の低温蒸し焼きのバーベキューじゃない。コンロ作ったの?」
「うん本場で有名なメーカーのヤツを参考にした。ここに来たときにバーベキューやろうと思って蓋付きのバーベキューコンロ作っといた」
「干城バーベキューに何か拘りがあるの、日本の網焼きじゃ駄目なの?」
「うむっ、あれはバーベキューとは言わん、グリルだ。それに男はなんかひとつくらい拘りを持たんといかん」
干城の拘りはひとつじゃ済まないだろう。街の外壁をトーチカか要塞のように作ったり、ジオラマは精密さに拘ったり。この面倒臭い理屈屋なところが干城のいい所でもあるとは分かっている。それでも奈津希は何を言ってるんだこいつはとも思わずにはいられない。だから無意識にジト目になっていた。
一休みのあと奈津希は再び魔法の練習を始めた。干城はバーベキューソースを作ると言っていた。回復魔法を自分にかけて発動を早くする練習をしたが、自分にかける回復魔法は回復効果がわからない。かといって怪我人を作るわけにもいかない。他に浄化魔法やバフ魔法を練習してキャンプ地に戻った。
干城のバーベキューソースが出来上がっていた。煮詰めたディノソース(ほぼウスターソース)に自作のトマトソースとワインビネガーで酸味を加え。砂糖、蜂蜜で甘みを付け、黒胡椒を加えたそうで、ピリッとした中に甘さと酸味がありプルドポークによく合った。その上マヨネーズも作っていた。ソーセージや野菜、魚介も焼いて、スープは奈津希がインベントリにストックしていたクラムチャウダーを出した。黒パンも軽く炙ってチーズやハムを乗せたり、クラムチャウダーに浸けて食べると美味しかった。そして、炙った黒パンを半分に切り、プルドポークや野菜に干城特性ソースとマヨネーズを付けた即席クラブサンドはまた食べたい味だった。干城も料理が下手ってわけじゃないのよね。これも独身生活の長さか、それとも何か拘りがあるのかしら?




