83. ランクB冒険者
いつもの時間にギルド到着した干城と奈津希は、ソフィアさんに依頼完了の手続きをしてもらうと、そのままギルドマスターの執務室へと案内された。ギルドマスターの他にグランドマスターの姿もある。
そこで昇級を告げられた。「冒険者」の身分を選ぶか、という問いには、もちろん「はい」と答えた。
冒険者は貴族からの依頼があるので、貴族の前に立てるよう、通常マナー講座の合格が必須だがルヴィアスは首を捻りながら疑問を口にする。
「だいたいのフリーランサーは講義が必須だ。だが二人とも王や宰相と対等に渡り合え、前世の経験から貴族並みか、それ以上の知識や礼儀作法を持っているのに、わざわざマナー講座を受ける必要があるのか?」
そう聞かれたが、干城は受講を希望して、理由を言う必要があるなと考えた。
「グランドマスター。ここで例外を作れば、あいつらは特別扱いかと言い出す奴が必ず出てきます。後々ギルドの面倒の種になるのは目に見えています。人とはそういうものですし、組織としても規則を曖昧にしたら運営に支障がでます」
「なるほど、そのとおりだな。組織か、やっぱりお前さん達は俺より歳上なんだなと思わされるよ。若い奴は自分のことしか考えないからな」
あの封書は何だったのだろうと思っていたが、どうやらシルヴァノ王からの昇級の推薦状だったらしい。推薦で昇級か? とも思ったが、これまでの活動内容やギルドの査定、達成ポイントを見ても文句なしの昇級だと言われた。
ちなみに、今回の受け取った報酬は白金貨4枚。ギルドの手数料は報酬全額の2割、つまり白金貨1枚が引かれている計算だ。今回は干城と奈津希、それぞれ個人への指名依頼だったため、パーティー人数で割ることもなくポイントは独り占めである。依頼達成ポイントの詳しい計算式は知らないが、ポイントは爆上がりしたに違いない。これほどの手数料が発生する依頼など、そうそうあるものではない。
ギルドマスターの執務室を退室したあと、ソフィアさんに案内された部屋でマナー講師の講義を受けた。そつなくこなして合格をもらい、金貨5枚を納めて新しいギルドカードへと更新する。「ランクB冒険者」そう刻まれたギルドカードを、干城は感慨深く見つめた。これでようやく、フリーランサーから「冒険者」になれたのだ。国籍はフリーランスギルドとなり、ギルドの支部がある国ならどこでも自由に入出国できる。ついに、何物にも縛られない「自分の意志で野垂れ死にする自由」を手に入れた。奈津希もギルドカードを見て「んふふ〜」と嬉しそうだ。
ソフィアさんからはフリーランサー登録からわずか1年での冒険者昇格は最短記録ですと驚かれた。
干城はなるほどランクBに昇級、冒険者に昇格かと思いながら、それらはチート能力のおかげだしなという思いが強く、昇格の嬉しさはあるが、それよりも申し訳なさの方が先に立ち素直に喜んでいいのかとも思う。
とはいえ、まだしばらくは旅に出ることはできない。従魔のヴァイスとユキの子であるヴァルとルミが独り立ちするまでには、まだしばらくの時間が必要だろう。モノ作りや街作りの日々は充実していたが働き詰めでもあった少し休養しよう。ソフィアさんに挨拶してギルドをあとにする。
「奈津希、今日はバーチャルエリアで休もうか」
「そうね、食材は沢山あるしバーチャルエリアでパーティしましょうか」
目立たない路地からバーチャルエリアに移動してリビングのソファに座ると、奈津希がコーヒーを持ってきてくれた。ふと久し振りにステータスを確認してみようと思い立ち、ステータスを表示してみる。
名前 タテキ・アリハラ
年齢 13歳
職業 剣士
職業スキル
剣士 体術士 魔導師 テイマー 錬金術師 鍛冶師 商人 調理師 建築士 木工師 彫金師
スキル
ダンジョンマスター
魔法(全属性)
魔導錬成
無属性魔法
身体強化魔法
生活魔法
見覚えのない表記が増えていた。魔術士と治癒士が消えて『魔導師』になっている。おそらく、色々と統合された結果なのだろう。『建築士』は、最近の街作りを考えれば納得がいった。『魔導錬成』は、おそらく錬金術師と鍛冶師を掛け合わせたスキルだ。セメント生産施設作りで随分とお世話になった便利スキルであり、これも理解できる。
だが――なんだよ、この『ダンジョンマスター』って。なぜこんなものがあるんだ。しかも、ダンジョンマスターはスキルなのか? 俺に何をやれというんだ。取り敢えず、このスキルは見なかったことにしよう。
その有用性は予想がついた。だが、アテにされると厄介極まりない。依頼でダンジョン作ってとか考えたくもない。本当に世捨て人として生きるか、自分で建国でもしない限り死にスキルで十分だ……。
「……いや、待てよ」
奈津希なら確実に大喜びする案件だ。ダンジョンとか、ラノベ好きにとっては夢の塊でしかないのだから。ともかく奈津希と相談しようと思っていると独り言と一人百面相をしてたらしい、気がつくと奈津希が怪訝そうにこっちを見ている。
「ちょっと干城、アンタなに百面相してるのよ」
「それがさ、久し振りにステータス確認したらさ、スキルにダンジョンマスターがあった」
「なんですって! ダンジョンマスター。凄いじゃない夢が広がり放題だわ!」
「そうなんだけどさ、これを知られると面倒そうだなあと思ってね。街作りはこっちから言い出したことだけど、依頼でダンジョン作ってとかは勘弁してほしいよ」
「あ〜……それは、そうね。アタシもステータス確認してみるわね」
名前 ナツキ・ユウガ
年齢 13歳
職業 剣士
職業スキル
聖女 剣士 体術士 魔導師 テイマー 錬金術師 鍛冶師 商人 調理師 建築士 革細工師 彫金師 裁縫師
スキル
ダンジョンマスター
魔法(全属性)
魔導錬成
無属性魔法
身体強化魔法
生活魔法
「アタシにもダンジョンマスターがあったわ。これどういう条件で発現したのかしら。あと、聖女が増えてるわ」
「聖女。聖属性に相性が良かったから? それとも天使の慈雨の影響かな? もしかして天使シリーズを覚えていくとか。何にしても、宗教勢力が黙ってない職業スキルだね」
奈津希は心底嫌そうな顔をしている。何があっても奈津希は守る、それが国でも宗教勢力が相手でも。穏便に済めばそれで良し、相手の出方次第では徹底抗戦すると腹は決まっている。アポなし召喚されたどうでもいい世界と奈津希を天秤に載せるまでもない。
奈津希は食事を用意するとキッチンに向かった。
これから先のことを考えてみる、当分食う困らないくらいの現金は得た。だからといってぼーっとしてるのも性に合わない、さてどうしよう。ラデスの産地である南のトレクエニグ地方に行ってみるか? などと考えていたら昼食の時間になっていて、奈津希に昼食の準備ができたと言われて気づいた。昼食はうどんとお稲荷さんだった。
「おっ! うどんできたの、中力粉があったんだね」
「違うのよ。あの製粉機で強力粉から薄力粉まで製粉が選べるのよ」
訳のわからなさに右手に持っていた箸を落としてしまった。小麦の品種でどの粉か決まるんであって、製粉でどの粉にするかではない筈だ、少なくとも自分の知識と常識では……
「言ってることは分かるけど、意味がわからない」
「このバーチャルエリアのことで考えたら負けよ。こういう機能が欲しいと思ったら実現してしまう、チートで嬉しい便利機能と割り切ってうどんが食べられるとだけ考えなさい」
「アイアイマム」
鰹出汁のうどん汁の香りを楽しみひと口味わう。表面は柔らかくもコシのあるうどん、具材は海老と茸の天ぷらとネギの組み合わせ。このバーチャルエリアでしか食べられない郷愁の味。お稲荷さんとの組み合わせはうどん屋でも駅の立ち食いうどんでも定番の組み合わせに懐かしさを感じながら、無言でうどんを啜る。ラーメンの如く替え玉を頼んだら、卵と天かすを添えて替え玉を持ってきてくれた、流石は奈津希だ。
食べ過ぎたくらいうどんを堪能して食後のお茶を飲みながら、奈津希にラデスの産地である南のトレクエニグ地方に行ってみないかと相談する。奈津希も快諾で少し休んだあとで出発しようと決まった。グローブスフィアで確認してみると1200キロメートルくらい距離があるが問題はない。




