82. 街の名前はオースディタクル
翌日、ロスニーニ辺境伯が街に到着したとフレデリーケ姫と公園に行っていた奈津希が知らせてきた。
(いや、おかしくないか?)
干城は内心で首を傾げた。自分たちも本来なら峠道を通って明後日到着する予定だったのだ。トンネルというショートカットと新道によるスピードアップのおかげで、四日かかるところを一日で駆け抜けてしまった。だからこそ、ロスニーニ辺境伯がここへ到着して合流するのは明後日の筈だった、それがなぜ今日到着している。話を聞いてみると、どうやら領都グラルメルフィスまで半分の距離の道を作ったつもりが、実際には三分の二ほどまで開通させていたらしい。そりゃあ辺境伯も予定より早く着くわけだ、と干城は一人納得する。
結果として、先に王と宰相が到着し、ロスニーニ辺境伯が遅参した形になってしまっている。だが、トンネルと新道というこれまでにない要素があるため、ロスニーニ辺境伯の挨拶に答えるシルヴァノ王もグレカーレ宰相も別段気にしていないようだった。それよりも三人とも予定より早着していることで、新規格の道路による速達化効果に、これまで話した速達化による経済発展と軍事的有利さといった内容や道路整備の重要性が、理屈としての理解から、実感としての理解に変わったようだった。
とりあえずロスニーニ辺境伯にも、王たちに施したのと同じ説明を済ませる。それから彼らは、今回の新たな産業の肝となるセメント生産施設へと向かった。干城は各部のボイラーを稼働させ、じわじわと蒸気が溜まっていく。動力を得た各部の可動部が音を立てて動き出す。
セメント作りに必要な材料がベルトコンベアで運ばれ、次々と投入されていく。余熱、焼成を経てクリンカーとなり、冷却・粉砕されていく流れを目で追う。最後に石膏を混ぜられたポルトランドセメントが、吸い込まれるようにサイロへと運ばれていった。ここに至るまで、試運転で各部を走り回り不具合を修正し、何度も調整を重ねてきた。最終的に問題がないことは確認していたので稼働自体に心配はしていなかったが、実際に不具合なく滑らかに動くのを見ると、やはりホッと胸をなでおろしてしまう。
宮殿ではなく城へと向かい、用意された一室に二つのジオラマを設置した、防衛や緊急時の対処指示は城が指揮所になるのだから、置くならこちらが相応しいし、宮殿と違い城は関係者しか出入りしない。
ひとつは、この街からセメント生産施設までの範囲を収めたもの。もうひとつは、地底湖や地下水道、ルシュログ村、そしてトンネルからグラルメルフィスへ向かう道路までを網羅した広範囲のジオラマだ。
元々、指揮所としてジオラマ設置用に広い部屋を奈津希にリクエストしていたため、置き場は最初から決まっていた。ただ、これほど精密な立体地図がある部屋だ。軍事機密の塊と言ってもいい。立ち入れる人間には、ある程度の制限が必要だろう。
自分の役割は作ることだ。モノをどう管理しどう使うかは領主の辺境伯の領分だろう。ジオラマは元から辺境伯が欲しがってたし進呈すればいい。
そこからジオラマを使った説明をした。前回同様に奈津希がアンテナ式指示棒を使ってサポートし、説明する場所を示していく。水源はセグリセ山の中腹辺りの山中に水が湧き出ている地底湖があり、その水がモルド川の源泉で湧水量は1日44万トンであること。
街へは地底湖から山中に作った一次貯水池に送水し、ここで浄化して地下水路を通って街に1日15万トン送水される。これはモルド川の流水量低下を抑えつつ、セメント産業と街の予想消費量を勘案し余裕を保った数字であることと、地下水路にしたのは、万が一敵に攻められた場合水の手を秘匿する為に地下水路を選んだと説明した。
次に、街の中に貯水池は14個あり、内訳は飲用水6個、セメント生産施設用4個、農業用水4個であること、全ての貯水池を満水にするのに10日かかり、全てを飲用にした場合、人口が12万人で節水せずに6週間の消費量を貯水できる。
ロスニーニ辺境伯から質問があった。
「歴代領主がこの地に入植しようとして失敗した、ここは農業に適さない地の筈だが」
「レガルデ様の仰るとおり、ここはカルスト台地の麓で土壌は水捌けが良すぎたり粘土質だったりの上、土質も農業に向きません。ですが、魔法で土壌改良に成功し5平方キロの農地が出来上がっています。概ね5万都市と同等の面積です。これにより食料の生産は充分可能です」
「魔法で土壌改良……5万都市と同等の面積……そんなことが可能なのか……」
ロスニーニ辺境伯は絶句し、理解が追いつかないといった風だった。
「レガルデ様。ただいま申し上げましたことは事実です。ただ、魔法に関しては聞かないで下さい」
「承知した。元より疑ってはいないが、理解が追いつかなかった。話を止めて申し訳ない」
説明を続ける、説明する項目は次のとおりだ。セメント生産施設は採掘なども含めて8千人の作業員を見込んでいること。街の総面積では20万人が居住できるが、農地、公園、水路などがある為10万〜12万人が居住できるだろうこと。街の守備に1万人は必要だと見積り、街壁の構造や街門周辺の防御施設のこと。ルシュログ村を経済圏に組み込み現在の入浜式塩田を流下式塩田に切り替え、塩の生産量を増産すること。この地からラエスタまで1日で到達可能なことなどの項目と、それぞれの項目の内容の要点を説明して、都度ロスニーニ辺境伯の質問にも答えていった。
最後の項目にロスニーニ辺境伯は腕を組み呟くように口にした。
「ここからラエスタまで1日で到達……」
その呟きにはグレカーレ宰相が答えた。
「事実だロスニーニ辺境伯。我らは朝ラエスタを出発し、夕方にはこの地に到着した。タテキ殿がトンネルを掘り迂回していた峠道を真っ直ぐ最短の道に作り替えた」
「宰相閣下。私も疑ってはおりません。ただ、魔法で解決するにしても、私の知る魔法の限界を超えております。正直どう理解すれば良いのかと」
シルヴァノ王が深く頷いて、さも愉快そうに答えた。
「辺境伯の言わんとすることは私も分かる、だが実際に目の前に現物がある。私はもうタテキとナツキのやることは、そういうものだと思うようにしたよ」
(あれ、今ディスられた?)
干城がポケっとした顔をしたら全員が笑い出した。干城もそんな顔をするんだななどと言われながら。
街の基礎とセメント生産施設はできた。次は入植者や街を作る作業者を募らなければならない。雇用創出も干城の狙いのひとつだ。これはグレカーレ宰相が国内の仕事を求めている者をかき集める、農業は各地の村から少数ずつ移住させる。少なくともセメントの需要はある、仕事のある場所に人は集めやすいようだ。その辺りは自分の領分ではない、あとはセメント生産施設の動かし方を集まった人に教えればルシュログ村の流下式塩田に取り掛かれるだろう。
それからは一気に動き出した、人も集まってきた。街に建築ラッシュが始まり、何れ商人も集まってくるだろう。生産施設の動かし方や、各素材の採取法、セメント用の麻袋もできたので箱づめから麻袋へ変更する。道作りも基礎を固めて木枠も作り配筋してセメントを流す。あっちへこっちへと走り回り、合間を見てルシュログ村に流下式塩田を作ったり。奈津希は事前の取り決めどおり別行動で公園、街路樹、城の敷地などに植樹する木を各地から持ってきては植樹し。公園にある水路の水源であるソルジェンテ池に噴水まで付けていた。農道の調整や貯水池の水を行き渡させる灌漑、街の中の水路の調整、一次貯水池からの流量や地下水路のチェックなど、夜はバーチャルエリアで作業の進捗状況を確認し合い。二人で分担しても作業内容は多岐に渡った、それでもなんとか街をロスニーニ辺境伯に引き渡せた。街の名前は「オースディタクル」になった、それは森と水の都を意味する名前。
グラルメルフィスへの残りの道も作り開通させた、シルヴァノ王に意見具申して、ラエスタの畑の一部を潰してしまうが、ラエスタまでの道もレワード川まで開通させた。レワード川付近には待機所のような場所も設け、今までより荷馬車の到着が早くなり。道がしっかりしたことで運べる荷物量が増え、グラルメルフィスでの商業も活性化をみせた。オースディタクルと連動して景気も上向いてきた。先王のやらかしたカペリノ王国との戦争で色々と負担していたことから回復できそうだとシルヴァノ王はじめ、グレカーレ宰相やロスニーニ辺境伯から感謝された。ロスニーニ辺境伯領は道作りと経済発展、そして表には出さないが軍事的部隊展開のひとつのモデルとなった。
夜バーチャルエリアで奈津希と依頼も完了かなと話した、考えてみると依頼以上に色々やったが結果は出せたと思う。城に行き侍従のソリエーデさんに依頼票を渡し依頼終了のサインを頼み、依頼終了のサインはシルヴァノ王のサインだった。併せてギルドに提出して欲しいと封書を渡され、その場をあとにしギルドに向かい依頼終了手続きをした、報酬は一人白金貨4枚って、えらく増額されてない?
第二章終了です。
1話から全部1字のプロットもなしの思いつきで書き続けてきました。ルシュログ村にもう少し手を入れたかったけど、更に1話増やすのもなあと……別の機会にルシュログ村かその近くに何かやるかもです。
干城と奈津希含め登場人物、魔法名、地名なども全部その場の思い付きなので、あの街の名前なんだったけ?とかあの人なんて名前だったっけとか、どこで登場したか探したりが良くありました。多分これからも、そうなると思います。




