80. 視察の調整
干城と奈津希は城から登城調整の連絡が来るまでの間、バーチャルエリアでの新しい街のジオラマ作りに没頭していた。新しく敷いた道路や水源まで含めた結果、その規模は前回の四畳半サイズから、倍近い八畳サイズへと膨れ上がった。
とはいえ、前回で作り方のノウハウは掴んでいる。サイズの割には手早く完成させることができた。干城は出来上がったジオラマを空間収納へと仕舞い込み、宿の部屋でひとまず息を抜いた。
翌日、城の侍従であるソリエーデさんが宿を訪ねてきた。二日後の9時の鐘が鳴る頃、城門まで来てほしいとのことだった。干城たちはそれを快諾する。
それからの二日間は、ちょっとした休息期間となった。いつもとは違う屋台広場を見つけては食べ歩きを楽しみ、最近の成長期で短くなってきた服を買い替え、髪を整えて時間を過ごした。
そして当日。新調した、登城の場にも耐えうる服に身を包んで城へと向かう。今回、奈津希はアオザイをモチーフにした足元まで艶のある紺色の服の上に、胸に青で花の刺繍がある白い上着、そして上着は腰から深いスリットがあり前後に分かれるデザインだった。既製品に手を加えたらしいが魔改造にも程がある、というか完全に新作じゃないのか? 裁縫師の職業スキルの為せる技なんだろうか。
城門には少し早めに到着したが、ソリエーデはそれよりも早くに待機していた。彼は奈津希のドレス姿をひとしきり絶賛したあと、手際よく控えの間へと案内してくれた。
しばらく待つと、シルヴァノ王、フレデリーケ姫、そしてグレカーレ宰相が姿を現した。挨拶と二、三の雑談を交わした後、応接室で話すか問われたため、干城は謁見の間を使わせてほしいと申し出た。ジオラマを広げて説明するには、それなりの広さが必要だからだ。
謁見の間で、空間収納からジオラマを取り出す。前回を遥かに凌ぐサイズに、王たちの目が丸くなった。さらに、水源がセグリセ山中の地底湖に変わっていることや、ルシュログ村まで経済圏に組み込んでいる計画を説明していく。仕上げとして、ロスニーニ辺境伯と調整のうえ、セメント生産施設や現地の確認をしてほしいという要望を伝えた。
渇水の地にいつの間にか「水の都」のグランドデザインが出来上がっている。王たちは、呆れ半分、感心半分といった様子でジオラマを見つめていた。
やがて、シルヴァノ王がグレカーレ宰相と視察の相談を始めた。
「グレカーレ。タテキが説明したことは事実なのだろうが……建設にかかって、まだ三ヶ月を過ぎたくらいだぞ。実際、この目で確かめる必要があるのは確かだが、見ても信じられない気になりそうだ。通常数万人を動員して数年かかる規模だ」
「御意にございます。タテキ殿は完成に三、四ヶ月の見込みと申しておりましたが、まさか本当に実現させるとは……」
二人の戸惑うような会話を耳にしながら、ひとまず話は動いた。早急にロスニーニ辺境伯と調整し、現地視察の日取りを決める方向でまとまる。それまではログマイヤに滞在し、連絡先は宿『レマルグの月』に指定することで、ひとまず今回の件は落ち着いた。
城を辞した干城たちは、連絡待ちの時間を有効活用するため、忘れないうちに会費を払おうとフリーランスギルドへ向かった。受付にはソフィアさんの姿があった。こちらに気づいたソフィアさんが、パッと笑顔を咲かせる。
「タテキさんにナツキさん、お久しぶりです! 今日はまた、素敵なお召し物ですね」
その言葉に、干城はハッと周囲を見回した。ギルド内からのやたらと熱い視線。そこでようやく、自分たちが登城用のキチッとした格好のままここへ来てしまったことに気づいた。おまけに奈津希はこの世界にはないアオザイモチーフのドレスを着ている。ただでさえプラチナブロンドの髪にヘイゼルの瞳の組み合わせだ目立たないわけがなかった。
「あ〜……ちょっと指名依頼の件で、登城したままの服で来ちゃいまして。着替えてくれば良かったです」
「お二人とも、本当によくお似合いですよ。特にナツキさんは、見たこともないデザインのドレスですし」
やはり同性としては、奈津希の服装に目が行くらしい。干城の服は日本の学生が着るブレザーのような服に銀糸の刺繍が入ったデザインで既製品の服だが、奈津希のアオザイモチーフ服はこの世界の住人には新鮮極まりないのだろう。
「ソフィアさん、ありがとう。これね、街で買った既製品をアタシが仕立て直したものなのよ」
「そうなのですね、ではナツキさんが知ってるデザインなんですね」
「ええ、そんなところよ」
二人の来歴を知るソフィアさんは、さりげなく前世の世界のデザインなのだと聞いてくれた。
「それで本日は、依頼終了手続きでしょうか?」
「いえ、依頼はまだ継続中です。今日は会費を納めにきました」
「ああ、そうですね。お二人は今月が起算日でしたね」
「はい、それで奈津希と二人分50レラ(銀貨5枚)ずつです」
召喚された日にフリーランサー登録をして一年が経つんだなという感慨に耽る余裕もなく。格好のせいでやたら目立っているので、会費を払って、足早にギルドをあとにし宿屋に向かった。周りを見てみると行き交う人達の視線を感じる、街の中でも目立っていたようだった。宿について着替えてホッとした気分になった。次からは城を出たあとは必ず着替えを先にしよう。
城での話し合いから奈津希と交代でバーチャルエリアに行き来し、干城は現地で必要になるだろうベッドや寝具を作り。奈津希は身体の成長に合わせて服を調整したり、料理の作り置きを大量に用意していた。そんな日々を過ごしながら二週間が経った頃、侍従のソリエーデさんが宿に連絡に来た。四日後に現地に向かうという事だった。シルヴァノ王、フレデリーケ姫、グレカーレ宰相が参加するので護衛の騎士50名が帯同するということだった。
「シルヴァノ王、フレデリーケ姫、グレカーレ宰相の三人ともですか? その間の政務は大丈夫なんですか」
「はい、その間の政務は王太后のルシルグレーテ様が代行なさいます」
それなら大丈夫なのか? 干城にもよく分からなかったが、それで決定したのなら大丈夫なんだろう。
「あと、護衛騎士は50名ですか? 参加者を鑑みると少なくないですか」
「問題ございません、タテキ様とナツキ様がご一緒なさるからと、我が主は護衛は不要と仰っているのですが護衛を50名で決まりました」
良いのかそれで、とは思うが既に決定したことに今さら何か言っても何が変わるわけもなく、第一自分達はこの件は部外者なので、それで納得するしかないかと考え直した。
ともかく、四日後の9時に城門に行き、そこで合流するということが分かったので、準備を進める。
出発当日、城門でソリエーデさんの案内に従って合流するとシルヴァノ王、フレデリーケ姫、グレカーレ宰相と同じ馬車だと言われた。帯同する荷馬車に乗るものだと思っていたので、普段着の上、奈津希はサスペンダーで吊ったズボンという出で立ちだった。正直王族前に出る服装ではない、確認不足を呪いたくなった。
馬車に同乗し確認不足で服装の不備を謝罪すると、寧ろ羨ましいと言われた、服で権威付けする面がありシルヴァノ王はそれをあまりよく思ってないようで、公式行事以外は略服にできないかとしているらしいが抵抗勢力があるらしい。そう言えばシルヴァノ王の執務室は質素だった。
この後はラエスタで一泊し野営しながらレモラント連峰の峠道を越えると言われ、新道を通したことを思い出しその説明をした。レモラント連峰にトンネルを開通させ、道は新道規格で通しているので速達性が上がり、レワード川を渡れば一日で新しい街に辿り着けると話したらかなり驚かれた。
同時に以前説明した、道路整備によって物流の速達化を図り経済成長に結びつけ。同時に軍の速達性を上げることで、味方の増援の到着を早め防衛に資するといった話の効果がどれ程のことか漠然としていたものが段々と理解が追い付いているようだった。




