79. 出来上がっていく街の形
バーチャルエリアでいつもの作業進捗のミーティングを始めた。感覚的に共有したグローブスフィア(惑星儀)をピンチアウトして干城はセメント生産施設が完成し操業可能な事と、街とセメント生産施設間の道路を作ったことを話し。
奈津希もグローブスフィアを使いつつ、当初公園はニューヨークのセントラルパーク並みを目指したが、街の面積的に半分ほどの2.5平方キロメートルの敷地で妥協したこと。公園の池はソルジェンテ池と命名して、ソルジェンテ池を水源とした水の都らしく街の水路を通したイメージ図をペネディエルトランサーで羊皮紙に転写して見せた。
「池の名前ってどこからきたの?」
「アタシの水の都のイメージはヴェネツィアなのよ、それでイタリア語の水源を意味するソルジェンテにしたわ」
干城はなるほどと思いながら公園を水堀のように囲う水路から放射状に複数伸びる幅30メートルの水路は、一定以上の水は街の外の水堀に流れるようになっていて、これはこれで内堀の役目を担えるんじゃないかと思った。
「それと、街の少し外側まで『天使の慈雨』を使ったわ」
「ああ、そうだったね、セメント生産施設を作ってるときに見たよ。農地を増やすの?」
「違うわよ」
奈津希は手を振りながら意図を話した。
「水の都を作るのに街の中に草木も生えてないのはラノベのビジュアル的にあり得ないでしょ、だから街路樹とかも植えられるように土壌改良したのよ、そうじゃないとラノベの夢が半減するわ」
元々は5万人都市を作るはずだった。それが気づけば20万規模の面積になり、そのうち5平方キロメートルが農地。中央には2.5平方キロメートルの公園と、縦横に走る水路――。これで人口10万から12万人ほどの街になりそうだ。なんと贅沢な土地の使い方だろう。こんな街、世界中探しても他にはないはずだ。
干城は今後の作業として、奈津希に公園が完成したら街の中の水路を引く作業を、自分は街の中の道路作りをし、門から街に入った位置をひと工夫すると決めた。
奈津希は反対はしなかったが、あからさまなジト目で見てきた。
「門から街の中に入った位置のひと工夫? アンタまた悪い顔してるわよ。その顔はまたデストラップを考えてるでしょ」
「そんなことないよ〜、門から中に入るにはトンネル状の30メートルの通路があるから、そこに真空の魔法付与をする事と。そこを抜けると入門者のチェック場として壁で囲った、幅30メートルで長さ150メートルの場所を作るだけだよ」
奈津希は呆れた顔をしながら一応聞いてみた。
「なによ、その30メートルの真空通路って。そこを抜けたらトドメの間があるんじゃない」
「うん、チェック場は水堀があって、先にもうひとつ跳ね橋と門がある。多分侵入されてもここでトドメを刺せると思う。息を止めて突っ込んできた先に四方を水堀と壁に囲まれて、壁の上から集中攻撃できるから」
奈津希はいよいよ頭を抱え始めた。
「もう、それ僕の考えたさいきょうの街壁じゃない」
「折角作るんだから、男のロマン詰め合わせの街壁と街門を目指しました」
「アタシはラノベの夢だけど、アンタのは男の浪漫なのね」
「なんか楽しみがないとね、今回は壁に全振りしてみたよ」
その答えに奈津希は納得したように頷いた。
「そうね、何か楽しみを見つけることは大事よね、たとえ空元気であっても」
干城は以前、奈津希が前世の記憶に縛られ、前世の記憶に潰されないようラノベの夢を追うことで心の平均を保つと言っていた。今回自分が街壁作りにはっちゃけてみたのも同じ理由だ。それで、何か楽しみを見つけて心を誤魔化すのは、一時的にしろ前世を奪われた理不尽を忘れることができるんだと思った。色んな気付きをする奈津希には頭が固い自分では勝てないなと、そう思った。
「そうだ! 以前アネリアの森でキャンプ場の整地で抜いた木がインベントリに何本かある、あれを植樹してみよう」
奈津希は何かを思い出したようにして、そのあと笑顔になった。
「そう言えば、あったわね。アンタのとんでも魔法の使い方。植樹良いんじゃないかしら、土の状態の目安にもなるでしょうし。場所は公園でよくない? 植樹が必須な場所よ」
「分かった。ソルジェンテ池の周りに植樹しよう」
「そう考えると植樹用の木も持ってこないといけないわね。木なら何でも良いって訳でもないでしょうし、考えないといけないわね」
植樹の木はロスニーニ辺境伯に相談するとして。差し当たって、これから干城は街の外の道路作りを行い。奈津希は公園と街の水路作り、それと城作りをすることに作業分担が決まった。ここまでやれば一旦、陛下と宰相、それにロスニーニ辺境伯を街に招待して現状説明と入植が始められるだろう。
翌日から作業分担に従って、先ずレモラント連峰向けの高架道路作りを始めた。起伏のある地面に道路が水平になるよう支柱の高さを調整するのに些か苦労した、奈津希なら感覚的に一気にやってしまうんだろうなと思いながら支柱を作っては道路を通し、水平がズレていれば手直しながら作業を続けた。
今日の作業を終えてバーチャルエリアでミーティングをしたとき、干城は奈津希の城作り構想を聞いて、彼女の本気を見た思いだった。
構想された城は、まず城の城壁に合わせて地面を20メートルほど盛り上げて岩のように固め、ドイツのリヒテンシュタイン城のようにその切り立った崖の上にドイツのホーエンツォレルン城をモデルにした城郭を築く。入城ルートは離れた場所に登り口を設け、橋を渡ってアクセスする形だ。
さらに城の下の地上部分には城に通じる途上に、ハンガリーのブダ城をモデルとした宮廷部を配置し、正面出入り口前にタージ・マハルのようにプールのような水辺を作り、別に噴水を付けた水辺も作る。
城は防衛を、宮廷はそれ以外を担い、昼の茶会や夜の夜会を行い招待者の宿泊施設としても利用できる、それぞれが役割を分けた二段構造としている。宮廷の前面には水辺の左右に西洋庭園、後方には日本庭園を造営し各所に茶会用の広場やガゼボを配置する計画だ。
この宮廷部と城は、地下水路を一本増やし水の都の城に相応しくイギリスのリーズ城のように湧き水の湖の中に建っているように見せるため、湖のように不定形の広い水堀で囲むという。そして水堀の外周には、騎士団の建物や練兵場などを配置し、更に領主家族が生活する領主館を建築する計画だ。
城壁を含めた壁面は、すべて白で統一する――。それはまさに、奈津希のいうラノベの夢をこれでもかと詰め込んだものだった。
干城と奈津希は作業に邁進した、干城は奈津希に触発されレモラント連峰の峠道の整備を一旦棚上げし、日本の片側三車線高速道路規格のトンネルを上下線で二本掘り、山を迂回した峠越えで四、五日かかっていた距離を一日で到達できるように短縮した。トンネルの中に風魔法を付与し中心から外に向かうよう風の流れも作り。更に上下線二本の道路は中心から外側とトンネルの中心から出入り口に向けて1%の傾斜が付けてある。これでトンネルの中に水があっても道路の外に。そしてトンネルの外に水は流れる。トンネルの中にはオレンジ色に光る光魔法も付与し、それらの魔力はスライム水を利用する。トンネルが完工したあと干城はラエスタへの街道まで本線道路を伸ばした。次に街から本線として領都グラルメルフィスまで半分の距離の道を作り、途中で幹線道路としてルシュロック村までの道路を完成させた。
奈津希も城作りを初めとした予定作業を完了させた。植樹した木はしっかりと根を張り栄養もいき渡っているようで土壌改良は問題なく出来ている。作業開始から三ヶ月目を過ぎた頃だった。
干城と奈津希は王都ログマイヤへ行き、登城してセメント生産施設の完成と、それに伴いグレカーレ宰相とシルヴァノ王との面会の打診を、城門に来たソリエーデさんに伝えた。定宿にしているレマルグの月に部屋を取り、城からの連絡を待つようにした。久し振りの街だ、食事は夜空のうさぎ亭にリザング(スパゲッティ)とスルベニ(グラタン)を食べに行こうと奈津希を誘い、コートを着て宿を後にし夜空のうさぎ亭に向かい街へ繰り出した。




