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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
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78. ルシュログ村

 セメント生産施設がついに完成した。 


「よし、早速試験運転といこう」


 干城《たてき》は意気揚々と、材料を確認するため『空間収納』のリストを展開した。


 ──そして、フリーズした。


「……石膏が。ない」


 完全に盲点だった。大量の石灰石が露出した広大なカルスト台地という主原料の山に浮かれ、仕上げに石膏を数パーセント混ぜるという基本中の基本を失念していたのだ。このままでは、ただの固まらない粉か、逆に直ぐに硬化する不良品しか作れない。


「クリンカー作りや技術的なことばかりに頭が向いてたな……」


 己の迂闊さを呪いながら、干城はガシガシと頭を抱えた。


 サンプルセメント作ったときの石膏ってどうして手に入れたっけ……あれは、エスタの町に行く途中で元塩湖っぽい場所で見つけたんだった。


 じゃあ、あそこを掘って買うのか? ネレイド伯爵と交渉して……他にないか探してからにしよう、石膏は比較的とれやすい鉱物だ。ネレイド伯爵はどうも好きになれない、第一従魔を寄越せと俺達に殺し屋送り込んできた奴だし。殺し屋はまだ許せるがヴァイスとユキを寄越せと言ったのは許せん。だが、好き嫌いしてる場合か。


 セメント生産施設もできた、人が生活する為の街の基礎も出来上がりかけてる。ここまでやってセメント作りができませんとか間抜け過ぎる、というどころか大ごとだ。他に見つからなかったら?


「このままでは詰む……」


 嫌な汗が干城の頬を伝う。


 焦ってもいい結果にはならない。誰が見ているわけてもないと干城は数度大きく深呼吸して心を落ち着け打開策を模索する。


 科学石膏は硫酸とカルシウムを反応させて生成するんだったか? 天然石膏が手にはいらないか? とグローブスフィア(惑星儀)を見てみると、天然石膏の層がここから下った近くの漁村付近にあり、天然石膏が大量にあった。どうやらネレイド伯爵とは交渉しなくてよさそうだ。


 干城はすぐに奈津希の所へ行き、現状の説明と現地を見に行くと話して、奈津希も一緒に現地にいくことになった。奈津希は漁村の様子やどんな魚が捕れるのかも見たかったようで、寧ろそちらに興味津々のご様子で大変ご機嫌が麗しい。


 天然石膏の取れる場所にきた、草木も生えない荒れ地で崖のように段差になってる場所に剥き出しの石膏が見える。天然石膏問題は解決しそうで一安心した。


 セメント生産施設の試運転のために石膏をいくらか採掘して空間収納にしまっておく。ひととおり調べて目的を果たすと、奈津希に早く漁村に行こうと急かされた。


「もしかして、石膏問題を全然心配してなかった?」

「心配してないわよ。だって干城は採掘候補地を見つけてここに来たんじゃない、理屈屋の干城が言うんだったら間違いないわよ」


 何やら根拠がよく分からない信用はあるみたいだ。漁村に向かって歩き始める、そんなに遠くはないみたいだ。折角なので地理や周りの様子も見ようと、いつもの身体強化移動をしなかった。


 到着した漁村は広い湾内にあった、これだけの広さなら交易港だって充分作れる。だが、事前知識では交易港にできる港はない筈だ、実際ここも漁村しかないどういうことだろう? 奈津希は漁村に行くというので、別れて周りを見て回る事にした。


 グローブスフィアも使って地形をよく見ていくと、湾を囲うように地面がせり上がっているようにも見えるもしかしてと思い、グローブスフィアで湾の水深を調べると急激に深くなっている。ここは錦江湾みたいな巨大な噴火口跡なのか? それなら火山灰層のシラス台地になっていないといけないんじゃないのか? 地球と異世界の差なんだろうか? 考えてみても自分が知ってるのは雑学程度の表面的なことで、地質学者じゃないと割り切った。


 海は噴火口跡で陸を少し登ると天然石膏があり、更に登るとカルスト台地。陸地を少し奥に進むと高い山があり、山の中に地底湖のように湧水を溜め込む場所があり。少し離れているが日に44万トンの水が湧いている場所から水を引ける。まるでセメント産業をやれって言ってるような地勢だよなと干城は思った。


 そういえばと思い出す。なぜ、これほどの湾が交易港にならないのかと調べたら簡単だった。湾の出入り口がやや入り組んでいて、最悪な事に出入り口に島があり、漁船サイズは問題ないが、水道の幅が狭く水深も浅くて大型船の出入りは不可能だった。


 その代わり湾内は緩やかな潮流はあるのに、外海のうねりを受けない天然の防波堤に守られた凪いだ港になっている。きっと歴代当主はここが交易港に使えないことを歯軋りして悔しがっただろうと思った。


 干城は、調査はこんなもんかときり上げ奈津希がいる漁村に向かった。漁村では奈津希が魚のアラ汁……味噌がないから潮汁《うしおじる》か? を作っていて、村人から聞こえてくる話では、今まで捨てていた部位で作ったスープは漁村の人達に好評のようだった。


「あら、干城も来たのね。一杯食べる」

「いただくよ。美味そうな潮汁だ」


 二月の冷たさがある潮風とともにひと口飲んだ潮汁は、魚の味が染み出していて、じんわりとした温かさも相まって、とても美味かった。


 奈津希は料理の礼にと、アジのような魚をたくさん貰っていた。そのあと漁村の人達に礼を言って漁村をあとにした。道中は奈津希の話を聞きながら歩き、漁村の名前はルシュログ村といい、今までは魚を売りに出すときはワタを抜いた魚を干しただけの干物を売っていたらしいが、開きにして干物を作るやり方を伝えた話などを聞いた。確かに開きにした方が干物としては美味そうだと思った。


「ねえ干城、今作ってる街の道を整備するときに、ルシュログ村まで延長できないかしら」

「勿論延長するよ、領都グラルメルフィスと交差する形になるけど、新しい街の生活圏にルシュログ村が必要だよ。グラルメルフィスへ魚を売りに行くのも少しは楽になるんじゃないかな」


「村の近くの海も少し見たわ、少ししか見てないのにナマコやウニがたくさんいたわよ、多分食べられると知らないんじゃないかしら」

「それはあり得るね、あの湾全部はまだ見てないけど、そこそこ潮流があって、うねりや波はない場所だから養殖に向いてるんじゃないかな? ただ、まあ、そんなに知識があるわけじゃないから、上手くいくか怪しいんだよね」


「村のためになることが他に何かないかしら」

「それなら塩作りはどうかな?」


「塩作り? 今でも塩は作ってるんじゃないの」

「うん、ルシュログ村に行く途中の砂浜が入浜式塩田のようだったから、流下式塩田にすればもっと楽に生産効率を上げられるんじゃないかなと思ったよ。今上に作ってる街はセメント産業の労働者の街だから、汗をかく労働者に大量の塩が必要になるだろうからね」


 干城はルシュログ村は新しい産業の街の重要なサポート拠点になると思った。加えてルシュログ村を併せて将来町規模に発展させる足掛かりを作ることは、5万都市予定を20万人……いや、街の敷地の四分の一を農地にしたから15万都市か? に拡張したやらかしの詫びのひとつにできるだろうと考えた。


 形あるものを作るのは楽しい、色々と思い浮かぶことはある。だが、干城はひとつ深呼吸して考えることを落ち着かせる。先ずは今手掛けている事を終わらせないといけない、物事には優先順位がある。奈津希にもそれを話し今やってる事を進めるという認識を一致させ、街予定地に戻って作業を再開した。


 干城は材料が揃ったのでセメント生産施設の試運転をした。その途中街の上空に巨大な魔法陣が見えたので奈津希が『天使の慈雨』を展開したんだろう。出来上がったセメントがベルトコンベアでサイロに運ばれてきた、出来上がったポルトランドセメントを見てイマイチ粉っぽさが足りないと仕上げミルの調整をして、それからも試運転してはあちこちの調整を繰り返してセメント生産施設は出来上がった。それからサイロ付近にセメント貯蔵用の倉庫、事務所や食堂など操業に必要な建物を作り、最後に敷地を壁で囲ってセメント生産施設を作り上げた。街まで3キロメートル程を帰りながら道作りをしながら街に向かった。傾斜1度で5メートル上がるには斜面は何メートルかな? と干城は地面に式を書き込み287メートルと答えが出たので、街門から2キロメートル位置から地上に下りるように道を作りセメント生産施設と街が予定していた高速道路規格の道で繋がった。


 空を見ると陽も西へと傾いていた。今日の作業はここまでにしようと、奈津希の元に向かって歩き出した。干城は日毎に形が出来上がっていく事に充足する思いを感じていた。


 


 







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