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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
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74. 街作り、奈津希の魔法、干城の構想

 今回の依頼も国からパーティではなく、フリーランサー個人への指名依頼となった。ギルドで依頼内容だけさっと見て受注手続きを済ませると、干城は素材採取へ、奈津希は建設予定地へ向かった。


 エルベシャ山脈の麓に到着した干城は、魔力探知でラシーグルを探しては淡々と討伐を進めていた。目的が決まった途端、かつてゴブリン討伐で迷っていた同一人物とは思えないほどの変わりぶりである。今回の目的は「骨」だ。そのため、レーザーの熱で骨だけを残して肉を焼き払い、解体にかかる時間を大幅に短縮。討伐と採取の効率を極限まで高めていく。


 移動しながらの粘土やグレグス甲虫の採取も忘れずに行い、彼は高効率な採取作業を数日間にわたって継続した。


◇◇


 一方、奈津希は脳裏に浮かぶ惑星儀『グローブスフィア』をピンチアウトして詳細位置を確認しながら、街を造る場所を定めた。さっそく予定地の整地を始めようとしたところで、奈津希ははたと立ち止まる。


(街の面積って、どのくらいが適当なのかしら。ラノベだと貴族街とかもあるわよね。壁に囲まれて閉塞感があるのは嫌だし……)


「5万都市で貯水池も作らなきゃならないんだし、余裕を見てこれくらいよね!」


 実におおざっぱに方針を決めると、奈津希は魔法を駆使して20平方キロメートルもの土地を整地し始めた。生い茂る草を刈り取り、凹凸や起伏のある地面を瞬く間に平らにしていく。こういった作業は水平や強度がどうと理屈を考える干城より、ラノベの空想力が強い奈津希の方が早い。フワッとした大雑把さがあるものの、魔法は精密に制御されていた。


 整地の出来栄えに満足した奈津希だったが、いざ街壁を作り始めようとした瞬間にハッとした。


「ただの四角なんて、ラノベの夢がないわ!」


 予定地の中心位置は変えず、干城と事前に話し合っていた門の数は三つ。カルスト台地側、峠側、そしてグラルメルフィス側だ。その三方向に防御に適した門を設置する街壁――。目を閉じ、腕を組んでしばし考え込んだ奈津希が導き出した結論は、45度ずらした四角形を二つ重ねる、八角形状の『星型城塞』だった。


 三つの門は、ちょうど星の窪みの位置になるよう向きを調整する。グローブスフィアに新たな線を引き、ズレがないかを入念に確認した。面積は少し広くなってしまったが、「狭くなるよりはいいわね」と気にしない。あとはこの線に沿って壁を作るだけだが、目測だけでは正直ズレそうだ。


 どう工夫するべきかと頭を悩ませていると、ふと脳裏に何かがよぎった。思い浮かんだ言葉を、無詠唱で唱える。――『(ウーブトランサー)』。次の瞬間、地表に淡く光る線が現れ、グローブスフィアに引かれていた線がそのまま地表へと移し替えられていた。


「え!? ナスカの地上絵みたい。凄いわ!」


 奈津希はウーブトランサーによって引かれた線に沿って土魔法と浮遊魔法を組み合わせ、さっそく壁作りに取り掛かった。材料として地面を掘り下げた部分は、将来的に「水堀」にする計画だ。


 堀の総幅は50メートル。外側は深さ5メートル・幅20メートルの「空堀」で、そこから1メートル下がった水面へと続く、幅30メートル・深さ5メートルの「水堀」で構成された二段堀である。さらに、圧縮して強度を増した壁は、干城の計画によればただの一枚壁ではなかった。水堀の水面上20メートルの高さのうち、水面から上の5メートルは外観を武者返し構造とし、その上部は内部を多層化して人が行き来できる。街を囲う街壁全体が、さながら要塞やトーチカのような構造だった。この街壁の水堀上5メートルの位置に街門が設置され、門の外は高架道路が繋がる。


 干城はこの街壁を「簡単には突破させんぞ」と楽しそうに設計していた。


 しかし、これを作るには圧倒的に土の量が足りない。正面の壁自体の厚みは80センチほどだが、街壁全体としては、内部の通路や休憩室、会議室、調理室や食堂、待機所、倉庫などの部屋も含めて30メートルもの厚みになるのだ。(どこから土を調達しようかしら……)首を傾げて考えていた奈津希は、名案を思い付いた。


「そうだ! 堀を二層構造にして、下層を放水路にしましょう!」


 奈津希は堀をさらに1メートル掘り下げた。そして、水深5メートルを維持できるように堀の外側へ排水口を設け、下層へと余剰な水が流れ込む仕組みを構築していく。こうして巨大な地下放水路を作り、大量の土を確保しながら、奈津希は巨大な街壁を次々と形作っていった。


 バーチャルエリアで食事や寝泊まりをして、夜は干城とお互いの進捗状況を話し合い。最初の夜に街壁を八角に変更すると話した時、干城は防御が固くなると歓喜していたが、直後になぜ自分で思いつかなかったのかと落ち込んでいた。奈津希は5日ほどで街壁を完成させた。


 一旦街壁の外に出て、堀の外側を3キロメートルほどの幅で整地する。干城が言うには、草などで姿が見えず接近される事を防ぐ措置らしい。そのため、整地後は草が生えないように地面を固める。ついでに大量の土砂も空間収納に確保した。


 干城と話し合い、峠方向の門に近い位置に貯水池を作る事を決めていたので、予定場所で作業に取りかかる。水を行き渡らせるためには僅かでも傾斜があった方がいいと、整地で回収した大量の土を盛って地表より高い位置を作る。そこに、幅120メートル✕奥行き90メートル、深さ10メートルの貯水池を作った。


 カルスト台地の麓なので水漏れがないよう、側面と底面を土魔法と重力魔法で高圧縮して固め、余剰な水が堀へ流れるように排水路も作る。当初、貯水池はひとつの予定だったが、街の広さ的に余裕を見て六つにした。整地した面積の話をした時、干城は口を開けたまま固まっていた。あんな顔をした干城は初めて見た。


 貯水池を作っていると、干城が素材採取を終えて戻ってきた。二、三言交わしてから干城と街壁を見に行くと、彼は壁の内部構造や外観、堀を見て歓喜していた。どうやらこの方面は自分より干城の方が厨二の血が騒ぐらしい。


「奈津希、門付近の街壁と堀に手を加えていい?」

「勿論いいわよ。って、なんか悪い顔してるわね」


「そっ、そう? ちょっと案を思い付いただけだよ」

「はいはい、アタシは貯水池作りに戻るわね」


「分かった。先もあるし、ここは早く済ませるよ」


◇◇


奈津希がここまで仕上げてくれたのだから、もうひと工夫して侵入阻止の一手を作ろうと干城は考えた。構想は、試験用として一旦長さ1キロほどの道路を作る。道路規格は日本の高架式片側三車線高速道路にしよう。上下線の間に10メートルの空間を空けて二本通し、それぞれの左路肩を2.5メートルの歩道とする。となると、全体で(歩道2.5メートル+車道10.5メートル)が二組と、中央空間が10メートル。合わせて幅36メートルか。


 これは門がある街壁を多少作り替えないといけない。出口と入り口の門を二つずつに増やすか。


 思考を走らせつつ、星型街壁の窪み面を幅40メートルほど取るため押し出すように作り替え、門の前に幅36メートル、奥行き10メートルほどの強固な足場を出現させる。門も四つに増設した。


 問題は堀の上を渡る跳ね橋だ。流石に50メートルの跳ね橋は長すぎて自重で崩れる。なら、真ん中で半分に折り畳める構造にしよう。


 空間収納に大量にある鉄のインゴットを消費し、ワイヤーと定滑車、そしてワイヤーを三往復させる動滑車を錬成する(多分、鍛冶師の職業スキルを得た時に錬金術師と複合し、魔導錬成ができるようになったのだろう)。橋自体には軽量化の魔法を付与し、外壁内には人力の巻き上げ・巻き出し機を設置。さらに、橋の外側半分には車輪を取り付け、畳まれた橋が前方に押し出されながら、レール代わりのガイドに接地して真っ直ぐ伸びる仕組みにした。


 魔法も身体強化も駆使して橋を作り、堀の外へ跳ぶ。橋の車輪用ガイドを土魔法で作り、実際に上げ下ろしのテストを行ってみた。――が、ガイドの長さは半分では足りず、最初の接地位置は大分低くしないと噛み合わない。数回作っては壊し、試行錯誤を繰り返してようやく滑らかに作動した。


 よし、橋を降ろして1キロの道路を敷設! 仕上げに、道路の外側に20メートルほどの空間を空け、外壁が300メートルにわたって道路と平行に挟み込むように街壁を造り替える。


――これで完成だ。敵軍は跳ね橋で進路を遮断され、逃げ場のない高架道路で、両側の街壁から集中攻撃を受けることになる。


やりきった達成感と満足感を得た干城は、一回作って全体の作業工程を把握できたため、残り二箇所の作業を進めるべく次の門の場所へと向かった。





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