↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
74/84

69. プレゼン 1 セメントと干城の限界

 召喚以来の謁見の間。召喚されたその日に先王の横暴に端を発して、身を守るために先王や王族、前宰相、多数の騎士や貴族を斬殺した場所だが、特に感慨はなかった。それよりもプレゼンの準備が優先だ。


 謁見の間の中ほどに到着するや否や、干城は空間収納から四畳半ほどの広さがあるジオラマを取り出した。下手に時間を置けば、あれこれと質問攻めに遭うのは目に見えている。干城はすぐさま会場設定を始めた。


 ジオラマから少し離れた位置に、高さ一メートルほどのステージを展開。その上に二人掛けのテーブルと椅子二脚を設置した。一度椅子に腰掛け、ジオラマの見え具合を確認する。距離は約三メートル、やや俯瞰した位置からの視認性は悪くない。


「よし、問題ないな」


 確認を終え、急遽フレデリーケ姫も参加されると聞いたので、真ん中のテーブルを王とフレデリーケ姫のお二人に使ってもらうとして、左右の二つを宰相と辺境伯に使ってもらえばいいかと、テーブル二つと椅子二脚を空間収納から出し、一通りのセットが完了した。すると案の定、王と宰相の二人から声が掛かった。疑問は当然、この精巧な立体地図の作成方法についてだ。


「――これは私の固有魔法によるものです。奈津希も同じ魔法を行使できますので、あるいは勇者にしか使えない類のものなのかもしれません」


 固有魔法なんて実際にあるのかは分からないが、勇者という肩書きを利用し、干城があえて詳細をぼかして答えた。本当は、チートな惑星儀『グローブスフィア』をピンチアウトして拡大したこの地の地形を確認しつつ、そのイメージを反映させた土魔法で作ったものだ。世界中どこでもピンポイントで再現できる優れものなのだが……まぁ、この説明自体も当たらずとも遠からずだろう。


 その後、位置関係や街と水源の距離といった地理的な説明をしているうちに時間が過ぎ、フレデリーケ姫、奈津希、ロスニーニ辺境伯とその子息、そしてロスニーニ辺境伯を案内してきた文官らしき人物が謁見の間に到着した。一様に誰もがジオラマに目を丸くしていたが、シルヴァノ王が一旦場を収め、ロスニーニ辺境伯へ干城と奈津希を紹介する。


「初めてお目にかかる。君たちがタテキ殿とナツキ殿か。噂はかねがね聞いている。私はロスニーニ辺境伯のレガルデ・ヴァン・ロスニーニだ。こちらは息子のエルデロイヤ。今日は次期当主として見聞を広めるために連れてきた」

「辺境伯閣下、ご紹介ありがとうございます。私はタテキ・アリハラ、こちらはナツキ・ユウガです。本日はしっかりとご説明を務めさせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします」


「ははは、本当に話に聞いたとおりだな。私などより遥かに年上なのだろう? それに、世話になるのはむしろこちらだ。最初に話を聞いた時は雲を掴むような話だったが、私もこの事業には大いに期待している。こちらこそよろしく頼む。それにナツキ殿も、私のことはレガルデで構わんよ」

「承知しました。それではレガルデ様とお呼びさせていただきます」


 干城は辺境伯の言葉にむしろホッとした。かつてこの国と決別した理由は、異世界人である二人の常識や認識の相互理解を無視した貴族の常識の押し付けだった。二人の来歴を認識し情報も共有されているのだろう、これならちゃんと話し合いができる。そう思った。


 早速、ステージの席へと皆様を案内して、急いで追加の椅子二脚を用意し、資料として提案書と企画書を配布していく。自分達の分は頭に入っているので考慮しなかった。当初、資料は必要数として王、宰相、辺境伯分の三部だったが、奈津希に念のために資料の予備を作っておいた方がいいと言われて三部増やした。


 全て手書きなのでコピー機や印刷技術があればと思ったが、辺境伯をお連れした文官らしき人物は、宰相配下の文官だったようで、その文官も参加するようでギリギリ足りる形になった。彼女のアドバイスに従っておいて本当によかったと胸を撫で下ろす。


 文官の参加は頭になかったが、考えてみれば当然考慮するべきだった。日本でも大臣が現場に赴いて陣頭指揮するとは限らない。官僚がいるのだから、実行役の文官が参加者に加わるのが当然だった。


 干城が資料を配る横で、奈津希はインベントリから空間収納に移しておいたロイヤルミルクティーのポットを取り出し、手際よく各テーブルへと配り始めていた。着々とプレゼンの準備は整っていく。


 全員に行き渡ったところで、企画書を見てもらいながら説明を始めた。


「従来の石切りによる道路整備では、国内の各所で石を加工し、運び込むために時間もコストも掛かります。さらに、材料となる石の枯渇も懸念されます。そこで、石に代わる新素材として『セメント』を利用します。その生産拠点を作り、ひいては新しい産業の街を興す。この街作りこそが、国内の道路網整備の第一歩なのです。そしてセメントを作るための材料が、全てロスニーニ辺境伯領に揃っていることも判明しています」


 干城の言葉に合わせ、奈津希がサンプルとして用意したセメントを各テーブルに配っていく。粉状のポルトランドセメントを見た面々は、「こんな粉で?」と一様に驚きの表情を浮かべた。しかし、奈津希が続けて、セメントに砂と水を混ぜて作ったコンクリート片ですと説明してそれを配ると、部屋の空気が一変する。


「石のように固い……どんな魔法だ!?」


 驚愕の声が上がる。百聞は一見にしかず、だ。干城はあらかじめ空間収納から取り出しておいた、水入りの木桶と容器を並べた。セメントと砂を混ぜ合わせ、そこに水を加えて生コンクリートの状態にする。型枠に見立てた容器へと流し込み、途中で鉄筋を配筋し、さらに生コンクリートを流す。それから自作の中塗りコテで全体に広げ、仕上げコテで表面を滑らかに整えてみせた。


「このように表面を整え、あとは放置するだけで石のように固まります。この工程に魔法は一切必要ありません。……ただし、固まるまでの時間は量やその日の天候に左右されますので、雨の日の施工は厳禁となります」


(実際は乾燥じゃなく化学反応で硬化するんだが、俺も専門家じゃないからな。水和反応という名前を知ってるだけで、その理屈まで微に入り細を穿つような説明は無理だ。所詮雑学知識などこの程度のものか)


 極力「魔法なしで再現できる」という点を強調したかったため、あえて水魔法を使わず、事前に用意した木桶の水を使ったのは正解だったようだ。食い入るように作業を見ていた面々の中から、グレカーレ宰相が疑問を口にした。


「魔法の手間もいらず、表面を整えたら放置するだけで良いというのは分かった。だが、途中で混ぜ込んでいたあの鉄の棒は何のためのものだ?」


 干城は頭の中で、なるべく伝わりやすい言葉を選ぶ。


「はい、あれは『鉄筋』と申します。コンクリートは上からの重さには滅法強いのですが、引っ張られる力や揺れには弱いという特性があります。それを補うために、あのように基礎の時点で鉄筋を仕込んでおくのです。これがないと、せっかくの道路も容易にひび割れ、長くは持ちません」


 そこにシルヴァノ王からの質問が続く。


「タテキ、これほどの素材であれば、橋や建物にも使えるのではないか?」

「はい。そのとおりです。事実、私どもの元の世界では広く使われておりました。ですが……私は道路以外での使用は推奨致しかねます」


「なぜだ? 強固な建物や橋ができるのではないか」

「はい。私はコンクリート工事の専門家ではありません。セメントの作り方は知っていても、どのくらいの厚みのコンクリートでどれだけの重量に耐えられるか、といった強度計算ができないのです。ゆえに、耐用年数の算出もできません」


 干城は一度そこで言葉を切り、シルヴァノ王の目を真っ直ぐに見据えて言葉を続けた。


「道路で使用する分には、仮に崩れても補修すれば済みます。ですが、建物なら中にいる人が生き埋めになり、橋であれば崩落する危険があります。人命に関わる致命的な被害は、後からの補修では決して取り返しがつきません。それが、私が推奨致しかねる理由です」


◇◇


 その言葉を聞いたフレデリーケ姫は、干城の示す懸念に目を見張り、深く感銘を受けて頷いた。新たな技術を生み出した者は、往々にしてその利点ばかりを誇張するものだ。


 しかし干城の姿勢は違った。欠点や己の知識不足といった弱みを隠さず明かし、将来的に生じ得る被害にまで思いを巡らせている。その真摯さが、彼女の胸を強く打った。


 干城の説明や、先ほど奈津希と交わした会話を通じても実感していたが、二人の持つ「他者への配慮」は、彼女が培ってきた常識の枠に収まるものではなかった。自分を含め、王族や貴族は平民を無機質な数字として捉えがちだ。だが、王公貴族だけで国が成り立つはずもない。多くの平民がいて初めて国は形を成すのであり、彼らが穏やかに暮らせる国造りこそが求められているのだ。


 干城と奈津希の思想の根底には、常にその真理があった。そのことに思い至ったフレデリーケ姫は、この場に立ち会えた僥倖《ぎょうこう》を心から噛み締め、いずれ王妃として担うべき自らの役割において、この学びが不可欠な糧になると強く確信していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。