↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
73/84

68. プレゼン前の頭合わせ

 いよいよプレゼンの日が来た。9時の鐘が鳴る10分ほど前、干城と奈津希は城門に到着した。驚いたことに、侍従のソリエーデさんは既にそこで待機していた。


「ソリエーデさん、お早いですね。待たせてはと思い少し早めに来たつもりだったのですが」

「とんでもないことでございます。お二人は陛下の大切なお客様。こちらこそ、お待たせする無礼など万に一つもあってはなりません。……それにしても、お二人のお召し物は素晴らしいですね。特にナツキ様、見たこともない見事なデザインのドレスです」


 奈津希が着ているのは、冬場であるにもかかわらず『保温』の魔法を付与したオフショルダードレスだ。鮮やかなロイヤルブルーのエンパイアラインで、胸元の切り替え位置が高い。上半身をコンパクトに見せる、透明感のある短め丈のショートボレロを羽織っていた。


「ソリエーデさん、ありがとうございます。干城が城へ行くのにドレスコードを満たさない服は問題だと申しますので、急遽、既製品を仕立て直したのです。実は、服に着られて浮いていないか心配で……」

「服に着られるなど、滅相もございません! ナツキ様の気品あるお美しさ、タテキ様の凛々しさが引き立って、お二人ともまるで天使が舞い降りたかのようです!」


 貴族の口上は大変だなぁと思いつつ、心の中で苦笑しながらも、干城は社会人スマイルを崩さないように努めた。ソリエーデさんの案内で談笑しながら、二人は静かに控えの間へと通された。


 頭の中で、これから行うプレゼンの内容を反芻する。道路建設による物流の速達化と経済成長。だが、従来の石切りでは確実に素材不足に陥るだろうし工期も長引く。だからこそ、その前段としてカルスト台地を擁するロスニーニ辺境伯領にセメント工場を建て、生産拠点となる街を興す。街壁、道路、灌漑、そして工場そのものを、要るものは全力で。だができるだけ必要最小限に、自分達がやり過ぎれば雇用の機会を潰す愚だ、あくまでこれから発展する為の基礎を築く、その点を肝に銘じなければならない。


 暫く待つとシルヴァノ王とフレデリーケ姫、グレカーレ宰相が控えの間を訪れてきて。立ち上がって一礼するとグレカーレ宰相が先に挨拶の言葉を掛けてきた。


(ここ控え室だよな? なんで王や宰相がこの部屋に来るの、俺たちが謁見の間に行って対面するのが筋だよな?)


「タテキ殿、ナツキ殿、良く来てくれた。今日の話を楽しみにしていたのだ」

「殿? 宰相閣下、どうなさったのですか? 私共は平民ですが?」


 シルヴァノ王とフレデリーケ姫はくすくすと笑いながらグレカーレ宰相を見ていた。


「何を言う、王と宰相にひと言の反論も許さん口上を述べる平民などおらんし、タテキ殿もナツキ殿も我々より斬新で先進的な政治理論を知っている。立場がなんであろうと知者に敬意を払うのは恥にはなるまい、二人とも私の事はグレカーレと呼んでくれ」


 宰相は貴族の権威主義者だと思っていた、これまでの経緯を考えると気不味さしかないが、断る事もできなそうだ。


「承知しました。では……グレカーレ様とお呼びさせて頂きます」


 その後から干城は今日プレゼンする内容の概略を説明していった、従来の石切加工して道路網整備する際の懸念点に始まり、その対策としてコストを下げられ持続性が期待でき。新たな産業となり得るセメントを作り、これによりロスニーニ辺境伯領に新たな雇用と収入源を創出する事。セメント生産拠点が完成し街が出来上がっていけばセメント供給が安定し、後の道路網整備に利する事。セメントは一袋25キログラムを目安に考えており実際に作ってみて製造コストを見極めてから単価を決める事。


 街は将来的な拡張性を見込んで5万人規模の街を作る事。街壁作りと街の中の道路整備を先に行い、それは二人が行う、建物などは大工など職人を集めて新たに雇用創出の一助とする事。他にセメント工場は干城が作る事。水資源確保の為に街の中に貯水池を作り、街の外にも予備として同じ大きさの貯水池を作る事。水を引くためにレモラント連峰のモルド川から灌漑する事。これらは今日持参した提案書と企画書に書いていて、後の説明の場で冊子を配る事などを話した。


「すみません、シルヴァノ王。一遍に言い過ぎました」

「いや、ロスニーニ辺境伯領に拠点を構えるのは正直ありがたい、先王の治世でロスニーニ辺境伯には多大な迷惑をかけたからな。それよりも、その量を二人で行うのか? どれ程の期間が掛かるのだろう?」


「申し訳ありません、その点の説明が抜けておりました。初めての事なので期間はやってみないと分からないという面はあるのですが三、四ヶ月を見込んでおります」

「5万都市の基礎作り、しかも街壁まで作り、セメント生産地や灌漑、貯水池作りまでを二人で三、四ヶ月と……」


 数万人を動員して数年掛かるであろう内容を二人で三、四ヶ月で完遂するという干城の説明に奈津希以外にとっては常識を逸脱している内容だった。ただ、干城の言葉を疑っている者は居なかった。


 お茶が準備されたのでソファに座って話す事になった、フレデリーケ姫と奈津希は別のソファとテーブルの一角に向かった。どうやら奈津希のエンパイアラインのドレスがお気に召したようだ。それと、この後のプレゼンにフレデリーケ姫も参加すると知らされた、奈津希の政治知識に刺激され、ご本人も女であれ政治知識は必要と意識されたようだ。


「タテキ、先程の話だとかなり広範囲になりそうだが話の内容に理解が追い付くか、少々不安になる」

「その点は私も説明の難しさを懸念しましたので対策致しました。説明の為に私共の元の世界でジオラマと申します立体地図を作製して参りましたので、それを利用しつつの説明になります。ただ、大きくなってしまいましたので、説明の場に謁見の間を指定させて頂きました。後ほど謁見の間にその立体地図と説明をお聞きになる皆様のステージ、テーブルと椅子もご用意致します」


「立体地図?」

「はい、土魔法を用いまして縮尺した山や地形、街道などを模した地図です、これでしたら羊皮紙のみの説明よりも現地の状況や位置関係なども視覚的に理解できるようになります」


「なんと、そのようなものがあるのか! それは後で見せてもらうのが楽しみだ」


 グレカーレ宰相は地図と聞き、身を乗り出して内容を知りたがった、この時代に精密な地図は秘匿される情報なのだから当然だろう。


「タテキ殿その地図を今見せて貰う事はできるだろうか?」

「申し訳ありませんグレカーレ様。ここは些か狭いので出す訳には参りません。よろしければ今から謁見の間に出向きまして、立体地図や説明の会場作りをさせて頂いてもよろしいでしょうか? それであれば立体地図をお見せする事ができます」


 シルヴァノ王とグレカーレ宰相が短く言葉を交わし、会場設定の許可が下りた。プレゼンまではまだ時間がある。干城は奈津希にこのままフレデリーケ姫の相手を頼むと、一足先に謁見の間へと向かった。


(さて、あのジオラマを見たらきっと驚くぞ。……最悪、他国の地図も作ってくれって依頼されたらどうするべきかな? できるかできないかで言えばできるがやるべきではないな) 











プレゼンが始められなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。