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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
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66. プレゼン準備

 干城(たてき)はロスニーニ辺境伯に会いに行くべきかとも思ったが、今の時点では時期尚早、雲を掴むような話にしかならないと思い直した。まずは王都ログマイヤで宿を取り、計画の提案書や企画書を作って王と宰相を説得するべきだろう。


 それらを奈津希に説明しつつ、グローブスフィアで確認した場所――ログマイヤに戻る途中にあるレモラント連峰の峠の手前の川へと向かった。そこに珪石があるようだったからだ。現地で実物を確認したのち、二人はログマイヤへと戻った。幸い、常宿の『レマルグの月』に部屋を取ることができた。


 一息ついたあと、干城はこれからの手順を考える。説明用の提案書と企画書は必須だ。ただ、工事期間が読めない以上、具体的な計画書まで落とし込むのは無理があるな、などと思案していた。


「奈津希、どう思う? やっぱり企画書か何かを形にして出さないと、口頭の説明だけじゃ分かりにくいよな」

「そうよねぇ。少し回りくどくても、分かりやすく書く必要はあるわ。……あ、それなら、石灰石の採掘場や街の予定地、珪石の位置なんかが一目でわかるように、ジオラマを作ったらどう? その方がきっと説明しやすいわよ」


「あ〜、なるほど、ジオラマか。確かに言葉だけより、目に見える形があった方が具体的なイメージを共有しやすいな。グローブスフィアを使いながら、土魔法でなんとかなるか。ただ、まぁ……」


 干城が言葉を濁すと、奈津希は苦笑いを浮かべながら、お決まりの未来を予測した。


「間違いなく、他からも『うちの領地も作ってくれ』って依頼が来そうよね。そのうちジオラマ屋でも開けるんじゃない? それとプレゼンするならセメントのサンプルも必要よ」


 確かにそうだと思いながら、優先順位としてひとまず王、宰相、ロスニーニ辺境伯にプレゼンするための企画書を作るべく、必要部数を考える。奈津希から「予備もあった方がいい」とアドバイスされ、最終的に3部ほど余計に作ることにした。


 すべて手書きで複数部作らなければならない環境に、干城はパソコンとコピー機のありがたみをひしひしと感じる。せめてボールペン原紙があれば……などと、無い物ねだりをしたくなるのを堪えて筆を走らせた。


 書き上げた提案書と企画書を空間収納に仕舞い、干城は宿の部屋を離れてバーチャルエリアへと移動する。さすがに宿では手狭なため、錬金部屋を使ってジオラマ作りに着手した。


 最初は一畳ほどの広さで収めるつもりだったが、それだと細部が小さくて見えにくい。試行錯誤するうちに、結局は四畳半ほどの特大サイズになってしまった。これでもカルスト台地の地形は大分端折っている。


 干城はジオラマを前に、新しい街のビジョンを組み立てていく。


 街はカルスト台地側を工業地帯として隔離する。そこで働く人間を八千人と仮定した場合、石灰石産業に携わる者の家族、行政、治安、商業などを合わせれば、初期の想定は三万人規模。カルスト台地の麓という土地柄、農業には向かないが、草は生えている。街の外を牧草地に植え替えれば酪農はいけるはずだ。 


 将来的な拡張の余地も含めれば、最終的にはラエスタほどの規模――人口五万人都市を見据え、外壁を構想した。


「街は、壁と道路の形だけ作っておけば充分だろうな」


 あとはその骨組みに沿って、自然と建物ができていくはずだ。今回の目的はセメント作りという新しい産業を興すことであり、大工や職人の領分まで侵して現地の雇用を潰しては本末転倒である。目端の利いた商会が進出しやすいよう、土地確保の手軽さをアピールすれば、それが新しい街に人を呼び込む呼び水になる。すべてを自分たちだけで抱え込むのは悪手だ。


 しかし、一番の難問は水の確保だった。


 湧き水が期待できないこの土地において、水をどう確保するかが最大の課題となる。相応の規模の貯水池を用意し、川から水を引く用水路を作らなければならない。


 五万人都市の飲用水とセメント製造用。余裕を見るなら、街の中にサッカーコート8面分、深さ10メートルの巨大貯水池が必要か? あるいは、街の外にも同サイズの予備を準備するべきか? その管理体制はどうする? 干城は次々と湧き上がる課題と思考を巡らせながら、土魔法でジオラマの土を捏ね上げていった。


 様子を見に来た奈津希が声を掛けるまで、奈津希がこっちに来ていると気づかなかった、結構集中してたようで夕食の時間ということで、宿の食堂で夕食を済ませたあと、奈津希と提案について話し合った。


「奈津希、セメント作りの基礎部分の工場作りや街作りと、インフラ作りを手伝ってくれない?」

「良いわよ、土魔法を駆使して街やインフラ作りってラノベの定番だから楽しみだわ、作る形はジオラマを参考にすれば良いのね」


「あと、明日はちょっと城に行ってくるよ、ソリエーデさんに企画書と提案書をシルヴァノ王に渡して貰って話し合い当日にロスニーニ辺境伯にも参加して貰えるように調整を頼もうと思う」

「ああ、そうよね、プレゼンするなら当の領主にも居て貰った方が良いわよね。それだったらアタシが……いいえ駄目ね、ある程度は説明も必要だろうし、干城が城へ行った方が良いわね」


 話し合ったあと、もう少しジオラマ作製をして今日の作業を終了した。


 翌日、城に向かい城門に呼んで貰った侍従のソリエーデさんにシルヴァノ王へ、持参した道路建設の提案書と企画書を渡して貰う事、ロスニーニ辺境伯をその話し合いに参加して貰えるよう調整を、それとジオラマを出す為に謁見の間の使用をお願いした。提案書と企画書の概略を聞いたソリエーデさんは宿で面会した数日で立案した事に大層驚いていたが「安んじてお任せください」と請け負ってくれた。


 宿に戻る途中で、人気のない路地でバーチャルエリアへのドアを出して移動し錬金部屋でジオラマ作りをしようかと思っていたら、奈津希もバーチャルエリアのリビングに居て料理の作り貯めをするという事だった、奈津希が淹れてくれたコーヒーを飲みながら話をした。


「そう言えば干城、趣旨替えしたの?」

「趣旨替え?」


「そう、この国の為には何もしたくないって言ってたじゃない」

「ああ、それね。基本的に趣旨替えはしてないよ、今でもこの世界やこの国に興味はない。ただね、賠償の話し合いの時に、召喚した当事者でもない交渉の窓口としての、関係者のシルヴァノ王とグレカーレ宰相に八つ当たりしたって負い目に感じていてね。当事者は俺達が自分の手で殺してしまっているのにね」


「あとは、シルヴァノ王は応援したくなる若者だったって事と、当事者以外のこの世界に生きる人や、人の営みにまで恨み辛みを向けるのは違うかなって思ったんだ」


 それは奈津希にも同意できる事だった。現に世話になってる人もいる、フリーランスギルドには恩義も感じている。


「そういう事なのね、だったらアタシも全力で良いもの作らなきゃいけないわね」

「ああ、ありがとう。頼むよ」


 干城も奈津希もこの世界で何かを為そう、名を上げようなどとは思わない。ただ、この世界で知り合った人達が幸せになる一助になれればいい。それが二人の行動原理だった。

















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