(閑話)ギルド登録にきたチグハグな子供
荒鷲の面々に連れられてフリーランスギルドに到着した干城と奈津希は、受付カウンターの場所を教えてもらい、彼らに丁重にお礼を述べてから窓口へと向かった。
「すみません、フリーランサーの登録をしたいのですが」
「はい、ギルド員登録ですね。私は受付のソフィアと申します。こちらの針を使い、指先から登録器のここへ血を一滴落としてください。もう片方の手はこちらのスフィアに置いてくださいね」
受付け対応してくれたのは、赤毛を肩ほどまで伸ばした、溌剌とした20歳前後の女性だった。ソフィアと名乗った彼女は、慣れた手つきで登録の手順を説明してくれる。言っている言葉の意味は分かるが、自分たちの知る「手続き」とは大きくかけ離れており、干城と奈津希は思わず顔を見合わせた。
「ありがとうございます。私はタテキ、こちらはナツキと申します。……あの、実は今、手持ちのお金がなくて。登録に必要な費用はいくらでしょうか?」
「え?」ソフィアは不思議そうにパチクリと瞬きをした。
「登録に、今はお金は必要ありませんよ? ランクEに昇級したときに、登録費として1レラ(白銅貨1枚)を納金していただく形になります」
フリーランサーギルドに登録の時点では登録費を取らないのは子供でも知っている常識だ、教養がありそうなこの子はなぜ知らないのかソフィアは不思議だった。
(よかった、ひとまず今後の食い扶持と、身分証代わりのものは手に入りそうだ……)
干城は心の底から安堵した。とにかく、言われた通りにやろう、干城は針を指先に刺した。
「えっと、血を一滴ここに……。で、右手をスフィアに置く、と。へぇ……すごいですね、この機械」
「ねえ、ソフィアさん。何か用紙に記入したりはしないのかしら?」
魔道具じゃなく「キカイ」? 「用紙に記入」? ソフィアの胸の中に、目の前の二人の子供に対する違和感が広がり始めていた。最初は、見目の良い可愛らしい子供だと思った。礼儀正しさや、生地の良さそうな服。靴も汚れていない。貴族の家出人か何かに見えたが、それにしてはお金を持っていないと言う。
そのくせ、平民の子供でも知っている常識を知らなかったり、聞いたこともない単語を使ったりする。とにかく、何もかもがチグハグなのだ。
「用紙に記入は必要ありませんよ。こちらの登録器が、必要な情報をすべて読み取ってくれますから」
「そうなんですか。……すごい代物ですね」
干城が感心したように呟く。その横で、奈津希がソフィアに聞こえないほどの小声で耳打ちしてきた。
「(ねえ干城、日本ではペーパーレス化って大騒ぎしてたのに、こっちは最初から紙が必要ないのね。遅れてるのか進んでるのか、よく分からない世界だわ……)」
「(それを言ったら、あの端末のヘッドアップディスプレイじみた技術なんて日本にもない未来感があるよ)」
ソフィアはこのまま登録を進めてギルド員カード(フリーランサーカード)を渡しても良いのか迷った、フリーランサー登録を行う者は、育ちの悪い者や訳ありな者は多い、この子達も訳ありの様だが、それ以上に厄介事の感じもする、ソフィアはギルドマスターに判断を委ねる事にした。
「それでは、ギルドの説明を行いますので、こちらへ付いて来て下さい」
案内されたのは多少調度品がある応接室だった、普通ギルドの説明はカウンターその場で行われるが、そんな違いを知らない干城と奈津希は特に不審に思わなかった。
ソフィアは準備したお茶とお菓子をテーブルに置き、ギルドマスターに話を通す時間稼ぎをした。
「資料の準備に少し時間を頂きます、こちらのお茶とお菓子で暫く時間をお過ごし下さい」
そう言ってソフィアは部屋を後にし、ギルドマスターの執務室に向かった。
ギルドマスターの前に来たソフィアは、登録に来た二人の子供について感じた数々の違和感を話した。
「見目の良い二人で、服装は質素ですが、生地の仕立ては良く、靴も汚れてはいません」
「とても大人びた落ち着いた雰囲気で、言葉は丁寧で礼儀正しい振る舞いです」
「貴族、それも上級貴族の子の様な、厳しく教育をされた知性と、行き届いた躾を受けた印象なんですが、高位貴族の子にみられる傲慢さもないんです。それに、なんと言っても高位貴族の子がフリーランサー登録などあり得ません」
「それだけの教育を受けていそうな子なのに、フリーランスギルドへの登録料は昇級した時で、最初は必要ない事や、登録器の事を知らなそうでした、登録に筆記は必要ないのかと聞いてきたり、魔道具をキカイと聞いた事がない表現をして、平民の子供でも知っている常識を知らなかったりと、何か記憶喪失の様に常識がすっぽり抜けている感じなんです」
ソフィアは記憶を辿るような間を置いて再び話し出す。
「本当に見目の良い子達で、貴族であれば家の権勢の為に、寧ろあちこちで自慢しているでしょうし、平民だとしても王都でも王都周辺でもあの子達の噂を聞いた事もありません」
「訳ありの子達とは思いますが、厄介事も抱えていそうなので私では判断出来ません、ギルドマスターに面談して頂いて、判断して貰いたいと思います」
話を聞いたギルドマスターも内容のチグハグさに首を傾げた。
「なるほど、人物像の訳が解らないな、だが登録器のスフィアに犯罪歴などはなかったんだろう、それに、それほど知的な間諜ならもっと上手くやるだろうから、その線はないだろう」
ギルドマスターも受付嬢の人を見る目には信頼を置いている、実際ソフィアはこうして相談に来ている。
「二人のギルド員カードが出来ているなら貸してくれ」
ソフィアはギルド員カードを渡す、ギルド員カードには様々な情報が記録されている、受付嬢の端末権限では、依頼の受注や達成の成否の記入、過去に受けた依頼や討伐実績、依頼達成率などを見る事ができる。
ギルドマスターの端末では、これらに加えて本人のステータスを見る事が出来て、ギルドマスターの評価を記入する事ができ、その評価は他のギルド支部を訪れた祭の当地ギルドマスターの判断材料になる。
登録器に血を垂らす事で、その血から読み取ったステータスが空中に浮かんだヘッドアップディスプレイのような画面に表示される。
名前 タテキ・アリハラ
年齢 12歳
職業 剣士
職業スキル
剣士 魔術士 治癒士 テイマー
スキル
魔法(全属性)
身体強化魔法
生活魔法
(本人のステータス表示であれば、魔法(全属性)をタップすると、その内容を見る事が出来るが、端末で見れるのはここまで。)
ギルドマスターは目を見開いた、交互に見た二人のギルド員カードから読み取った能力は、どちらも同じ能力で、どちらも常識を遥かに逸脱していた。12歳で職業スキルを四つも持ち、魔法は全属性を使える? 世界中に支部を置くフリーランスギルドの情報でも、宮廷魔導師であっても全属性を使える者など聞いた事もない。その上身体強化魔法まで使える? ソフィアの言うとおりの見目でこれ程の逸材を、貴族が手放す理由がない、寧ろ絶対に逃さない様に囲い込むだろう。ギルドマスターも二人に大いに興味が湧いた。
「ソフィア、面談に行こう、なぜこれ程の逸材が野に解き放たれているのか、彼らが何者かを知らなければならない」
ギルドマスターはソフィアを伴って応接室へ向かった。




