5. 冒険者ギルドじゃない?
干城と奈津希は、エノー橋の下から抜け出して土手を登り、道へと上がってきた。だが、行く手からこちらに向かって歩いてくる、怪しげな男たちの姿が目に入る。
小汚いとまでは言わないが、見るからにガラの悪そうな六人組だった。距離が縮まるにつれ、男たちが「上物だ」などと品定めするような声を漏らす。
二人は同時に深いため息を吐いた。
(破落戸かぁ……。こんなベタな定番イベント、別に要らんのになぁ)
内心で辟易する二人をあざ笑うかのように、破落戸たちは周囲を取り囲むように広がっていく。
破落戸のうちの二人が、にやつきながら干城と奈津希を捕まえようと同時に手を伸ばしてきた。しかし、二人は動じなかった。それぞれが伸びてきた手首を正確に掴み取る。そのままぐいと捻り上げ、男たちが前のめりに体勢を崩した勢いを巧みに利用した。流れるような動作で、二人同時に綺麗な一本背負いのように体術を炸裂させる。容赦なく地面に叩きつけられた男たちが、くぐもった悲鳴を上げた。
その瞬間だった。後ろから偶然通りかかった五人組のうち、三人の男が猛然と走り寄ってきた。彼らは残る四人の破落戸に襲いかかり、あっという間に制圧し始める。同時に、残る二人の女性が干城と奈津希を庇うようにして前に立ちはだかった。だが、庇うまでもなく、破落戸たちは瞬く間に組み伏せられてしまった。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
干城と奈津希は声を揃えて頭を下げてお礼を言うと、女性二人は「なんて礼儀正しい子たちなのかしら」と目を細め、二人の頭を優しく撫でた。
「でも、あなたたち……今、破落戸を豪快に投げ飛ばしていなかったかしら?」そんな会話を交わしている間に、男たちによって破落戸たちは手際よくロープで捕縛されていく。
落ち着いたところで、五人組は自分たちが『荒鷲』という名のパーティーで、ランクBの冒険者であると名乗ってくれた。
こげ茶色の髪をした男が、親しみやすい笑みを浮かべる。「俺はリーダーで片手剣士のロイデラだ。ロイドと呼んでくれ」
続いて、涼しげな青髪の男が応じる。「長剣士のレーベントだ。レーベと呼んでくれ」
金髪の短髪をした体格の良い男が胸を叩いた。「俺は盾士のアドルグラートだ。グラートと呼んでくれ」
肩ほどの長さに切りそろえられた、亜麻色の髪の女性がウインクする「魔術士のレタレヴィよ。レヴィと呼んでね」
腰まで届く見事な茶色の長髪を持った女性が微笑んだ。
「弓士兼治癒士のエレファーレよ。エレと呼んでね」
彼らの口から「冒険者」という単語が出たのを聞き逃さず、干城は気になっていた場所について尋ねてみることにした。
「私はタテキ・アリハラです。こちらはナツキ・ユウガです。あの……冒険者ギルドはどこにありますか?」
その問いに、ロイドは不思議そうに眉をひそめ、レーベは特に深く気に留める様子もなくサラリと答えた。
「? 冒険者ギルド? フリーランスギルドの事か?」
「フリーランスギルドなら俺たちも行くところだ。一緒にこいつらを警備隊に引き渡してから、案内してやるよ」
『荒鷲』の男三人が捕縛した破落戸のロープを引き、干城と奈津希は女性二人に優しく手を繋がれる。俺は道中、ロイドさんからこの世界のことを色々と聞きながら、警備隊の詰所へと向かった。
「どうしてあんな街外れに居たんだ? あの先にはアネリアの森へ向かう北東門しかないぞ」
「あの、王都には身寄りも、頼りになる人も居ませんので」
「そうなのか?」
荒鷲のパーティと一緒に警備隊へ着き、破落戸を引き渡してフリーランスギルドへ向かう、王都の広い通りを歩き、途中に屋台広場の一角があった、いい匂いが漂ってくる、気にしない風を務めたが、食べて行こうと言われた、どうやら見破られたらしい、だが実際一文無しだ、だから何も買えない。
「折角のお誘いですが、お金がありません」
「屋台の串焼き代くらい子供が気にするな、一緒に食べて行け」
奈津希とそれぞれ串焼きの肉4本と果汁を頂いた、なんの肉かは分からないし、少し硬かったが転生して歯に負担はなく、多少塩気を感じる肉は噛むほどに良い味がして、前世年齢的にソトモモの赤身が好みだった干城には美味しかった、奈津希も美味しそうに食べていた。
「ありがとうございます、とても美味しかったです」
「ありがとうございました、お腹も落ち着きました」
「本当に礼儀正しい子達ね」
「そうでしょうか? 誰でもお礼は言うと思いますが?」
そう言ったら、レヴィとエレの二人がそうじゃないと言い出した。
「ああ、そうじゃないのよ。お礼は言ってくれるのよ、あなた達はなんだかとても折り目正しい感じなのよね」
「そうそう。なんだか平民の子には見えないわ」
荒鷲のメンバーは、この子供たちは貴族――それもかなり身分の高い高位貴族の子女たちだろうとアタリをつけていた。だが、彼らはフリーランスギルドを「冒険者ギルド」と呼び、自分たちが「冒険者」だと名乗っても、特別な反応を示さなかった。まるで、冒険者という存在が当たり前であるかのように。
本来、同じフリーランスギルド員でも、ランクCまでの『フリーランサー』と、ランクB以上の『冒険者』とでは、世間的な信用が天と地ほども違う。世間的にフリーランサーは素行の悪い荒くれ者だが、平民の子供にとって「冒険者」になることは一攫千金の憧れだ。そんな、子供でも知っているような常識を知らない一方で、教育と躾は行き届いている。(……高位貴族の、世間知らずな隠し子か何かってところか?)疑問には思ったが、それ以上は踏み込まない。
フリーランサーになる条件は「凶悪犯罪歴がないこと」と「年齢が12歳以上であること」のみ。社会の底辺のような雑多な出自や、訳ありの過去を持つ者が集まる場所だ。フリーランサーには「他人の出自や過去は詮索しない」という不文律があるため、彼らも深くは聞かなかった。
荒鷲のパーティに案内して貰いフリーランスギルドに到着した。三階建ての大きな建物だったフリーランスギルドは、建物の奥が広い敷地になっていて、南東門のすぐ近くに立地していた。中に入ると広いフロアの右側に人が集まっている掲示板があり、左側はフードコートのようになっていた。正面に進んだ受付けでフリーランス登録をしてくれると教えて貰い、荒鷲のパーティに感謝とお礼を言って受付けに向かった。
フリーランサー、異世界で食い扶持を得る為の仕事。期待と不安、やり場のない怒り、失った前世の絶望がない混ぜった心で受付けに向かった。




