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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
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63. 国道整備と経済効果

 一週間の時が経ち、奈津希と二人城へ向かい街を歩く、日本だともうすぐクリスマスか。こちらにクリスマスはないが、年明け2日目から3日間の新年祭で街は新年を祝うらしい。


 足早に歩む人達と行き交いながら、年の瀬の忙しさは変わらないなと思いながら、奈津希と街の様子を話しながら歩いた。


 城門に到着し、守衛に用件を伝え迎えを待つ。10分程の後に迎えに案内され、応接室に通された。華美ではなく落ち着いた雰囲気の部屋だった。然程待つことなくシルヴァノ王とグレカーレ宰相が応接室に到着しいくつかの雑談の後に今回の本題である街道整備について話し合った。


 今まで街道と呼んでいたものを国が整備と管理をする国道という概念にして国道1号線といった番号を振り、どの道かを明確にする事。国道の幅を規格統一する事。国道の整備で雇用を生み出す事。国道を整備する事で流通の速達化を図り地域や経済の発展を図る事。一時の敵の侵攻に備えて道が蛇行したりしているが。道をなるべく直線にした方がもっと長い時間経済の発展に寄与するし、味方の展開や増援の到着が早まる事で防衛上有利な事などを話した。特に道を真っ直ぐする事は今までと逆説的で、シルヴァノ王とグレカーレ宰相は興味深く話を聞いていた。


「グレカーレ、タテキの話をどう思う、我々とは違う発想だが、その理由には納得できるものがある」

「私も感服致しました、確かに敵の侵攻を阻むのに街道で時間稼ぎをするよりも、味方の増援の到着時間を短縮するのは理にかなっています、守りを厚くして侵入させない方が良いのですから」


「うむ、敵の侵入は一時だが、普段の流通を促して経済を発展させるというのもそのとおりだ」

「御意にございます、何十年に一度の侵攻に備えて不便にするより、その何十年の間に経済を発展させ、その間に得た資金で兵の鍛錬に費用を費やす方が精強な部隊になりましょう」


「タテキ、国道に番号を振ることと、道路規格を統一するとはどういう事だろう」

「はい、シルヴァノ王、国道何号線と番号で呼ぶ事でその道がどの道かを明確にできます。また、道路規格を統一する事で流通量の把握がしやすくなります、道路を上下線の二本に分ければ、行き交う荷馬車の事故も減らせます」


「上下線とは?」

「上下線とは、例えば道路を中心で二分し、中心より左側を通るという規則を定め、この王都ログマイヤへ向かう側が登り線、同じく道路の左側を通りログマイヤから地方へ向かう側が下り線という概念です、道路の通行帯を決める事で今まで雑多だった流れを一方向へ秩序付けられ、荷馬車同士が回避せず離合する事ができます」


「なるほど、王都を中心に向かう方向を明確にするのだな」

「そうです、国中のどの道であっても適用できる概念になります」


「道路幅の規格化にはもうひとつ利点があります、規定の道路幅があれば、それに合わせて荷馬車の大きさも規格化できます。つまり標準というひとつの大きさが決まり、大きさの比較も分かり易くなります。これにより標準荷馬車の部品は同じものを作れば良いので生産性が上がる事。それとこれまで大きい荷馬車と呼んでいた曖昧な物が、標準より大きい荷馬車とより具体的に分かり易くなる事です。勿論、標準という基準を設けるのが主眼で、それ以外を作っては駄目なわけではありません」


「なるほど……道路幅の基準ひとつでその様な影響まであるのだな」


 これまで話を聞き、考察していたグレカーレ宰相が懸念点を提示してきた。


「道を直線にする利点は分かった。だが場所によってはその土地の信仰の対象などもあるのではないか?」

「勿論そういった場所もありましょう。何も全てを直道に拘る必要はありません、要は無駄な曲線をなくす事と曲線をなるべく緩やかにして減速せずに走れれば良いのです」


「それに、王都周辺であれば王と宰相の裁量で計画が決められるでしょうが、王国とはいえ他領を跨ぐとそこの領主貴族との折衝も必要になるでしょう、畑を潰して道路を通す事だって考えられますから」



 無駄な曲線をなくす、曲線を大きくして減速を抑えるという点はシルヴァノ王もグレカーレ宰相も納得を得た、他領を跨ぐ場合の懸念も理解して貰えた。


「では、街道……いや、国道の幅の規格統一とはどのくらいの広さだろうか」

「荷馬車が三台並んで走れるくらいはあった方が良いです」


 この回答に奈津希が即座に懸念を表明した。


「待って干城、その道幅は今の目安でしょう? 将来も今のままとは限らないわ、中央に線を引くより縁石みたいな分離帯を置くとしても、片側で荷馬車四台分は確保した方が良くないかしら、一度できあがってしまったらそこから拡幅する方が面倒だと思うわ、それに車道とは別に歩道も必要よ」


 この意見にはそのとおりだと思った、日本でも古い町の道は拡幅工事ができずに、主要道なのに狭いままの道はあった、将来的な余裕を持つ事に反対する理由はなかった。


「タテキ、ホドウとは何だ?」

「はい、シルヴァノ王、歩道とは人が歩く道の事で、馬車が通る車道と分離する事です、分離する事で今までのように馬車が人を避ける必要がなくなり、荷馬車の流れがよりスムーズになり、事故も減らせます」


 空間収納から羊皮紙とペンを取り出して、奈津希の修正も含めて俯瞰して見た道路の状態を書き込み、それをシルヴァノとグレカーレに見せた。


 シルヴァノとグレカーレはその図を見て、干城の話と奈津希の修正案を理解しようと考え込み、やがてシルヴァノは道路案と現状の街道を比較して、顎に手を当てて考えるようにグレカーレに話し掛けた。


「片側で荷馬車四台分の幅の上に歩道か、今の街道の倍以上は必要になるな」

「左様ですな、工事としても新たな街道を作るほどの大工事になりますな」


「では、一旦東のラエスタか、若しくは南のディザルトまでの国道を整備してみてはどうでしょう? 穀倉地のラエスタであれば大麦や小麦や野菜、魚介の流入で速達性や流通物の変化で効果が測れますし、南の商業の地ディザルトであれば、経済効果で目安が測れるのではありませんか」


 シルヴァノとグレカーレにも納得できる意見であった。


「グレカーレはどう思う、作るにしてもどのくらいの効果か測れる目安はあった方がいいと思えるが」

「御意にございます陛下。巨額を投じる事になりましょうから指標もなく進めるのは危険もあります。それにナツキの案の将来を見据えるというのも一理あると考えます」


「あと問題は予算でしょうか。ただ、雇用が生まれるので多少は税金として回収するでしょう、工事で人が集まればものが動き、ものが動けば金が動きます国が出資して金を動かせば、それが経済活動として、国、商会、民の間で金の循環が起き、その循環を維持か加速させる事で経済が成長します。若しくは減税して民の可処分所得か自由裁量所得を増やすかですね」


「タテキ、減税すれば税収が減るのではないか? それと可処分所得と自由裁量所得とはなんだ?」

「そうですね、あくまで理屈で概念を言いますと。先ず可処分所得とは税金などを引かれた給料の手取り額の事です。この可処分所得から更に家賃や食費といった生きていく為にある程度決まった額、謂わば必要経費が出ていきます。この経費を引いた手元に残った好きに使える金が自由裁量所得です。


 干城はここで一旦シルヴァノ王とグレカーレ宰相を見た、二人は干城の話を眉を寄せ反芻するように考え、噛み砕こうとしていた。やがて理解したか納得したような様子に干城は話を進めた。


「減税すれば税収は落ちます。ですが税金が減った分、民の手元には可処分所得が増え、結果的に自由裁量所得も増えます。その増えた分を民は貯蓄するなりたまの贅沢で美味しい食事をしたり、食費を増やしたり酒や嗜好品などの買い物ができたりして生活が向上します。それも経済効果のひとつです。つまり、売る物が有っても買う者が居なければ商売は成り立たず、経済は停滞します。物を買おうという購買意欲は時間が掛かりますが、長い目で見れば税収が増える要因になるんですよ」


 奈津希が考える仕草をしながらひと言添えた。


「シルヴァノ王が先王の増税で民が苦しんでいるのを元の税率に戻して、徐々に経済状況が元に戻ったでしょう? それと同じですよ」


◇◇


 シルヴァノ王とグレカーレ宰相はこの言葉に戦慄した。女性であるナツキの指摘だったからだ。確かに民は重税に苦しんでいた、だから税率を元に戻した。だが、減税は税収減としか考えなかった、可処分所得や自由裁量所得という考え方も斬新だった。


 だが言われてみると納得できた。タテキは元の世界では平民と言っていた、誰もが平民の世界だと。ナツキもタテキの案の不備に修正を加えタテキも同意していた。我々もナツキの提案には一理あると思った。


 つまり女性であるナツキもタテキと同程度の政治的な知識と理解があり、税を元に戻した効果を理解し指摘という事だ。この国でも貴族女性が政治に関わらないわけでは無いが、内容の理解がまるで違う。今日タテキが提案した全ての話が納得できる逆説であった。


 ナツキは自分達国の指導的立場の者でも考えが及ばない事を指摘した、それらを理解し説明する事ができる知識を男女を問わず持った平民の世界。過去にタテキが侮蔑混じりにこの世界を5〜600年遅れた世界と言った。では、そのタテキとナツキの世界とは一体どれほど高度な世界なのか想像もできなかった。

 








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