61. シルヴァノ王との和解
干城は奈津希に魔法のイメージを説明し、透過とライトヒールができるか頼んでみた。透過は問題なくできた。ライトヒールはできると思うが、実際にやってみないと変異した細胞やウイルスを焼けるかは分からない。という事だった。それはそうだろうと納得できる。それともうひとつ、術後に治療部位を回復させるヒールも不可欠だろう。
この魔法の行使に精緻な魔力制御と魔法制御が必要になる。その意味でもこの魔法を使いこなせる者は少ないだろうし、医学知識まで加えれば、誰も使えないだろうという結論になった。前世の知識でこの世界の人よりマシかも知れないが、マシ程度で自分達も医者ではないので自信を持って使えるわけではないし、安易に手を出して良い分野でもない。
じゃあ、自分達が使うのは? と考えたとき使えるが無制限に使うわけにはいかない。ではどんな制約が必要かは今後の課題となった。やってみないと分からない事が多すぎた。
そんな話し合いをした数日後にギルドへ行くと、依頼ボード前でピリピリした雰囲気の人は居なかった。多分依頼をこなして年を越す資金的な余裕ができたんだろう。ソフィアさんと他に3名の受付嬢が軽く咳込んでいたので、談話室に集まって貰って透過で見ると四人とも肺に黒い影が見えたので、奈津希と二人で治療した。奈津希の感覚では、黒い影はライトヒールの出力を弱める代わりに、照射範囲を広めにしてウイルスを焼く事ができるようだ。
ソフィアさんは症状が再発していて、他に三人同じ症状で女性のみ。原因が食べ物なら腹にくるだろう。咳が出て喉や肺に来るという事は呼吸で吸い込んでる可能性が高い。四人に何か共通点はないか聞くと、今年新発売の高級化粧品を使っている事が分かった。その化粧品を鑑定すると魔花の花粉を使っており、化粧品に使われている他の花の成分と合わさる事でカビが発生していた。それを吸い込む事で肺で繁殖しているのが原因であるらしかった。ウイルスと思っていたがカビが原因だったようだ。また、この化粧品の使用を強く止めた。この件はギルドマスターにも説明した。
「その化粧品が原因というのは間違いないのか?」
「はい、間違いありません、ただ鑑定結果とはいえ目に見えない大きさのものとなると説明で納得して貰うのは難しいかもしれません」
「それはそうだが、高級化粧品なら恐らく今後は貴族女性に多く発症するだろうから、信じざるを得なくなるだろう」
「そうですね。そうなる前に止められないものでしょうか」
「我々フリーランスギルドは世界中に根を張っているからこそ中立公正でなければならん。それに国の組織でも機関でもないから強制力はない。我々にできる事は、国への報告と販売元の商会に情報提供するくらいだ」
「そうですか、ギルドの立場としては仕方のないことですね」
干城と奈津希は原因は分かっているのに止められないもどかしさを感じていた。
ギルドから件の商会へ情報提供はされたが、言い掛かりだと一蹴されたようだ。受付嬢はその後化粧品の使用を止め、誰も症状はでなくなった。そんな数日後、ギルドに城から面会の使者がきた。正直城と聞いていい気はしなかったが兎に角会ってみる事にし、ギルドの応接室を使わせて貰った。応接室には30代ほどの黒い服の紳士然とした人物がいて、入室すると恭しく挨拶をされた。
「初めまして。シルヴァノ王の侍従を務めております、レンベルト・ヴァン・ソリエーデと申します。本日は唐突な参上にもかかわらず、貴重なお時間を割いていただき、心より感謝申し上げます」
「いえ、構いません。お急ぎでしょうから早速ですが、私共にどういったご用向きでしょう?」
「恐縮でございます。……それでは、儀礼を省き、単刀直入に申し上げます。実はここ最近、貴族階級の女性たちの間で、原因不明の重篤な肺病が蔓延しております。そして、ギルドからの報告により、お二方がその原因を突き止め、既に治療法をも確立されていると聞き及び、参上いたしました」
「はい、その通りです。私共が調べた限りでは、原因はレサルグ商会が販売している、今季の新作化粧品です」
「……やはり、左様でございましたか。実は現在、城におわす大変やんごとなき御方がこの病を発症されており、日に日に症状が悪化の一途をたどっております。宮廷魔導師や名医の手にも負えず、もはや一刻の猶予もございません。不躾なお願いであることは百も承知の上でございますが……どうか、その御方をお救いするためにお力添えを頂けないでしょうか」
以前の城からの使者なら、平民には用件も伝えずに有無を言わせず城に来いと言っていただろう。用件を伝えアポイントを取るのは自分達の常識だ、こちらの常識に則り話を通してきた以上断る理由はなかった。奈津希と顔を見合わせ、了承する事にした。
「承知しました、このまま直ぐに城に伺います」
「寛大な御心に感謝申し上げます、それでは城へご同行お願いいたします」
城へ到着し控えの間に案内された、話を聞くと治療対象はシルヴァノ王の婚約者のフレデリーケ姫だという事だ。奈津希と話し合い病床の姫の寝所に男が行くのはマズいだろうと、治療は奈津希があたる事にして侍女長に説明して了承を得た。それに奈津希は自分より聖属性の適性が高い、術後の回復も奈津希の方が適任だろう。
治療を終えて戻ってきた奈津希の話では、処置はうまく行った。術後フレデリーケ姫はみるみる回復したが、今日のところは養生し数日伏していたと言うので胃が荒れているかもしれないと、侍女長に食事は滋養のあるスープ類や野菜をよく煮た柔らかい食事を摂るよう勧めた。
もう帰って良いか分からず、控えの間で出されたお茶を飲んでいると、ソリエーデさんが来てシルヴァノ王が面会を望んでいると言われた。面会を承諾するとシルヴァノ王の執務室に案内された。執務室は王の執務室とは思えないほど質素な部屋だった。勧められたソファは座り心地の良いものだったが、華美を好まない性格を伺わせる部屋だった。
「今回の治療と面会を承諾し時間を割いて貰った事に深く感謝する」
王が平民に対する態度と言葉とは思えなかった。だが、質素な部屋とこちらへ歩み寄ろうとする実直な態度が、この王の本質なのだろうと思えた。
その後シルヴァノ王と会談し、件の化粧品の販売を差し止められないか、この治療法は現状この世界の人より医学知識がある自分達にしか使えないという欠点、他に発症している貴族を含む女性への治療などを話し合った。貴族女性に対応する場合は城から同行者を派遣して貰うよう要請して受理され、レザルグ商会への対応は国に一任した。自分たちは正義だ世直しだなどとやろうとは思わない。これは自分たちの分を超えることだ。
今回シルヴァノ王の人柄に接して、よき統治者でこれまでの過程で誤解やすれ違いがあった事が分かった。国に仕える気はないが、シルヴァノ王とは個人的な友誼を結ぶ事になった。王都に居て何か気付いた事はないか? と問われ、タスカ村を思い出し王都周辺の村への道路整備に補助ができないかを話し、更に国道として街道整備に投資する事で、流通の速達化を促し商業を活性化させる事は経済や地域発展の基礎だと話をした。また国道を整備する事で戦時は迅速な部隊の展開や補給が期待でき、経済効果は一時の侵攻に利用されるに勝ると話した。
干城と奈津希は召喚で人生を台無しにされた蟠りはまだある、だからこの国の為に何かを成そうとは思わないが、この国に生きる人が暮らしやすくなるならこれくらいは良いだろうと思った。




