60. 光属性魔法の可能性
冬休み(仮)も10日ほどが過ぎた。干城も奈津希もソロ活動状態で朝夕食は奈津希が料理を作るが、昼食は出先で食べる感じになっている。給湯ポットと保温ポット、卓上コンロと薪ストーブは幾つか作った。結構いい出来だと自画自賛している。そんな日々を過ごしながら、夕食を食べながら奈津希が明日はギルドへ行こうと言い出した。なんでもソフィアさんにマフラーと膝掛けを作ったので、それを届けるそうだ。給湯ポットと保温ポットなら使えるかな? と一緒にギルドへ行く事にした。
翌日、ギルドに到着し、ソフィアさんはいつもの受付けにいた。忙しい時間は過ぎたようで、受付は空いていた。
「ソフィアさん、おはようございます」
「ナツキさんおはようございます、今日は依頼受注に?」
「今日はマフラーと膝掛けを作ってきたわ、使ってみて」
「ありがとうございます。これはどういったものなのですか?」
「こっちの膝掛けは、座ったまま膝に掛けてみて」
「こうですか?……ああ、これは足元が暖かくていいですね」
「そうでしょう、こっちのマフラーは外出するときに、こんな風に顎から首辺りに巻くの」
っと、奈津希は少し幅広の白いマフラーを自分に巻いてみせた、それを見てソフィアも同じように自分に巻いてみた。
「これは! これがあれば風が吹いて首が寒くならなそうです」
「でしょ、首が温まるし体温を逃さないから、寒さが少し緩和できるわ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
他の受付嬢が羨ましそうだったが、表情に出さないように務めていた。だから奈津希はみんなの分を用意していた。受付嬢というチームの中でソフィアが浮いてしまわないように。
「受付嬢はみんなで10人でしょう?みんなの分も作ってるから配りますね」
そう言って奈津希は受付嬢全員にマフラーと膝掛けを配った。座っての事務仕事、ギルドの広いフロアは暖房が行き届かず、足元の冷えには交代するまで我慢するしかなかった。膝掛けがあれば随分マシになる、膝掛けとマフラーはとても喜ばれた。
干城は給湯ポットと保温ポットをソフィアに差し出した。
「ソフィアさん、こちらをどうぞ。給湯ポットと保温ポットです」
「給湯ポット? 保温ポット? ですか。魔道具なんでしょうか?」
干城は給湯の説明を始めた。ポットに水を入れ蓋をしてスイッチを入れればお湯が沸く。温度は50℃から98℃まで設定できる。見た目より容量が多く3リットル入る事、ゴブリンのクズ魔石を魔力源に使っていて、3〜4ヶ月は連続使用できる事などを説明して、4台の給湯ポットを取り出した。
次に、保温ポットは携帯マグポットで中間が真空になった二重構造で、熱いものも冷たいものも温度を維持できる事。蓋は二つあって内蓋はカップとして使える事。魔石などは使用してない事を説明した。携帯マグは奈津希同様、受付嬢全員に配った。
「使い方はこんな感じです」
「そうなんですね。こちらの携帯マグですか、魔石は使用していのですか」
「はい、真空式の二重構造ですから必要ありません」
「そうなのですね、早速使ってみて良いですか」
「勿論どうぞ、皆さんも交代でどうぞ」
「ありがとうごさいます」
給湯ポットは給湯室、休憩室、素材査定課事務室、管理課事務室に置かれ、給湯室までお湯を沸かしに行かなくていい利便性で重宝がられた。
携帯マグは受付嬢がちょっとした、誰も受付けに来ない時に、席を立たずに一口暖かいお茶が飲めると喜ばれた。
そんな説明と分配が終わった頃、ソフィアが軽く咳込んだ。
「こほっ」
「ソフィアさん、風邪ですか?」
「それが3日ほど前から、お薬は飲んでるんですが」
「そうなんですね。あの、ポーションではなく薬ですか」
「はい、ポーションも聖魔法のヒールも怪我を治しますが、病気には効きませんので」
干城と奈津希は、確かに、怪我と病気は違うと気付いた。
干城の脳裏に何かが過ぎ去った……
干城はソフィアを見ながら頭によぎった魔法を発動した。
――『(透過)』
ソフィアの肺に小さな黒い影が見えた、干城はソフィアに今談話室に行けるか聞いてみた、受付は空いているので大丈夫という事だったので、奈津希と一緒に移動した。
「干城さん、何か相談でしょうか?」
「実は、相談ではなくて、ソフィアさんの肺に病原がいます」
干城はソフィアと奈津希に、光属性魔法透過でソフィアの肺に病原が見えた事を話した。
「病原? ですか?」
「干城どういう事? レントゲンみたいに見えるって事」
「レントゲンと言えば、そんな感じ、そこに黒い影みたいに見える部分があって、それが病原っていうのが分かる」
「でも、それが分かってもどうやって治療するのよ」
「それも分かってる。ソフィアさん、ちょっと良いですか、治療します」
――『(ライトヒール)』
干城は無詠唱で魔法を行使する、肺の黒い影はライトヒールで焼かれ、しばらくの後に消滅した。
「ソフィアさん、治療は終わりました」
「えっ? あっ、はいっ」
普段冷静でどんな事にも動じず、テキパキと仕事をこなす受付嬢でも訳が分からないにも程があった。
「ソフィアさん、痛いとか苦しいとかはありましたか?」
「いいえ、そういったものはありませんでした、寧ろ胸の中がポカポカする感じでした」
「干城どういう事?」
「うん、説明するね、ソフィアさんも聞いて下さい」
魔法を行使して分かったのは、透過魔法を使うと病巣が赤く、病原は黒く視認できるということだった。つまり、癌細胞などの細胞変異は赤く、ウイルスは黒く映る。そして、その病巣や病原は、不可視光線による光の治癒魔法『ライトヒール』で焼き消すことができる。
でも決して万能ではなく例えば、傷んだ物を食べて腹痛を起こしたり、偏頭痛などは対処できそうにない。そちらは聖属性魔法の領分じゃないだろうか。
手術のように開腹する必要はなく、患部を焼く際の痛みもないようだった。
「なにそれ? 光魔法って癌の治療ができるの? それって聖魔法を併用すれば、傷んだ臓器の治癒も同時にできるって事?」
「やってみないと分からない点はあるけど、恐らくそのとおりだと思う」
「それ、日本の医療技術を超えてない?」
「そこだけ見ればそう見えても、実際は分からない。医療には高度で深い専門知識が必要だ。家庭の医学や雑学程度の知識しか持たない人間が、安易に手を出して良い分野じゃないからね」
「それは、そのとおりだけど」
干城と奈津希は、光属性魔法が秘める絶大な可能性と、それゆえの危うさに気づいていた。
全てではないにせよ、光属性には病を根治させる力がある。ただし、それは正しい医学知識があって初めて成り立つ魔法だ。医学的な見識が乏しいこの異世界で、誰もが使いこなせるようなものでは決してない。
なにより、全ての病気を治療できる万能性はない、あくまで光魔法として焼けるものに対処できるだけだ「病気の治療」が出来ると誤解されるのも危険だ。
だが、もし光属性の真価を権力者が知ればどうなるか。彼らは『家庭の医学』すら知らない光属性術者を、自分たちの都合の良い道具として囲い込もうとするだろう。干城に多少は使いこなせたとしても、他の光属性術者に同じことができるとは限らないのだ。干城は、この魔法を自分だけの秘密として封印すべきではないかと、考えずにはいられなかった。




