54. ポーション作りの新発見
ポーション作りは午後という事で、協会の食堂でお昼を食べた。委託されてる店で値段が安い、協会が補填する事でこちらは安く提供を受けられるみたいだ。
「タロスさん、ここ委託された店ですよね? なんでこんな安くてこの味が出せて、経営が成り立つんですか?」
「ほんとに、寧ろ街の店より量も多いわ。経営が成り立つ要素が見えないわね?」
「二人とも子供らしくない着眼点だな、商人じゃなくてフリーランサーだよな? 安い理由は値下げ分は協会が補填してるから、店は定価の利益は出てるのさ」
そういえば世間的にフリーランサーは、学がないとか育ちが悪いって認識だった、だからこそ冒険者は別格扱いなんだが。
(俺たちは見た目13歳でも中味は57歳と55歳だから地がでても仕方ないよなあ。あまり今の年齢のことも気にしてないし。さて、なんと誤魔化すかな)
「ライフワークに商人もあるんですよ。これまでの依頼で色々手伝って、教えて貰ったりしたら発現したみたいなんです」
「そうなのか? それにしても、相当地が良いんだろうな」
デマカセで凌げたらしいとホッとする。
「午後はポーション作りを見学したあと、実際に作ってみるか? ちゃんと監督はするし、場所もここ以上条件がいい所もない」
「良いんですか?」
「良いさ、君達はダレスを救ってくれた俺達の恩人だそれくらいで誰も文句は言わん」
「ありがとうございます、是非お願いします」
干城にはひとつ心当りがあった、バーチャルエリアの鍛冶部屋と錬金部屋、なんの素養もなしにあるとは思えなかった。奈津希も思案顔だったので同じ事を考えているんだろう。
下級ポーション作りの見学になった。
必要な薬草はセンマイ、サミの葉、カブト草、ミレアの実で、三つの葉は以前下級ポーション用の採取依頼を受けたなと思い出した。タロスさんは下級ポーションを作りながら説明してくれた。
「ミレアの実とは普通の木の実なんですか?」
「違う、ミレアの木は魔樹だ、薬草だけではポーションにはならない。薬草から抽出した成分にすり潰したミレアの実を合わせ、ミレアの実の残留魔力を媒介にして、魔力を流す事でポーションとして完成する」
「つまり、薬草の薬効成分と水に魔力を流してもポーションにならないという事ですね」
「ほぼ正解だ、今言った状態で一応ポーションにはなる、但し品質は低級だ、下級程の効果もなく、ポーションとしての効果は作って5分程で失う」
「ミレアの実を使う事で効能が安定し、薬効の日持ちもするという事ですか」
「そういう事だ」
奈津希が耳打ちしてきて「ラノベ的に薬草と水を錬金釜に入れて魔力を流せばポーションの出来上がりなイメージだったけど違うのね」と言った。
魔力を流してもそれだけでは駄目で、流す魔力を受け止める媒介がなければポーションにはならないようだ。
「以前、採取依頼でセンマイ、サミの葉、カブト草の採取依頼は受けた事がありますが、ミレアの実の採取依頼は見た事がありません」
「それはそうだろう、ミレアの木はセージ協会が管理していて、ミレアの実は錬金職以外への販売はされていない」
「それで、低級が出回ってもポーションと呼べないものなんですね」
「そういうことだ、ミレアの実を使えないということは錬金薬士の資格を持たないことと同義になる」
「それでは上級でも中級でもポーション作りにミレアの実は必須の素材という事なんですね」
そんな質問をしていたら、タロスさんは下級ポーションを作り上げた。割とすぐできたが熟練者がやれば難しいことも簡単に見えたりする。人がやるのを見た→簡単そうだ→自分にもできるは自滅の三段論法だ。干城も前世で散々失敗を重ねたことを思い出した。
それは置いて思考を切り替える。なるほど、ミレアの実がなければまともなポーションにはなり得ない。要の素材をセージ協会が管理することでポーション作製の優位性を確保しているということか。
ミレアの実を鑑定してみる。
【ミレアの実、聖属性(調和)の特性を持つ実。残留魔力は40分程で消失するが、調和させたものは性質を保つ】
自分のステータスから聖属性をタップすると「調和」の魔法があった。同時に、聖属性魔法ということは宗教勢力に知れればマズいんじゃないか? と考えた。
「あの、タロスさん、宗教勢力もポーションは作っているんでしょうか?」
「いや、ミレアの木は我々セージ協会が管理しているし、教会は聖属性魔法が使える者が居るから作ってはいない。ただポーションは売り物としては魅力があるらしくてな、度々ミレアの木を寄越せとは言ってくるらしい。そういうのは上が対応するし、上の事は噂程度しか知らん」
「そうですか、あの、ポーションを作らせて貰っても良いでしょうか?」
「勿論構わないぞ」
奈津希と二人でポーション作りを始める、鑑定結果を奈津希にも話し、同じ作り方でポーションを作る。
薬草から効能成分を分離させ、錬金釜に満ちた蒸留水へと落とす。ほんのわずかな塩を加え、じっくりと温めながら『調和』の魔法を注ぎ込んでゆっくりと撹拌していく。
「ふたりとも、ミレアの実を入れ忘れているぞ。それではポーションにならん」
タロスさんが焦った声をあげたが、干城は手を止めなかった。
「ミレアの実を使わずに作れるか、試してみます」
錬金釜から六つのビーカーへ液を移し、冷水の水槽に浸けて冷却しながら撹拌を続ける。やがて液体の濁りが消え、澄んだ緑色へと変化した。
出来上がったものを『鑑定』する。
[下級ポーション]
【軽い火傷や切り傷、打ち身などを回復することができる】
成功だ。隣を見れば、奈津希も既に十六個分のビーカーを綺麗に並べていた。
タロスさんは信じられない物をみる目でポーションを見ていた。
「どういう事だ、なぜミレアの実を使わずにポーションが出来る」
「ミレアの実は聖属性魔法、調和の効果があります。今のは単に魔力ではなく調和の魔法を流しながらポーション作りをしました」
「調和は同じ対象に二人以上でヒールを使う時の補助魔法じゃないのか?」
「すみません、それは分かりません。ともかくミレアの実には調和の効果があり、先程は調和の魔法を流しながらポーション作成をしました」
奈津希も同じように作って完成品はビーカー16個分ある。ビーカー1個でポーション瓶10個にはなるだろう。
「実際に二人とも出来上がっているから事実なんだろう、これは大変だぞ。すまない、ここで待っててくれ部長に知らせてくる」
しばらく待つとタロスさんが戻ってきた。
「度々すまない、一緒に部長の所へ来てくれないか」
「はい、分かりました」
案内された部屋には金髪で30代くらいの男がいた。
「可愛らしい二人だね。こんにちは、私はアスベリア・ランツィア、錬金部門長をしているよ」
「はい、はじめまして。タテキ・アリハラと申します、こちらはナツキ・ユウガです」
「はじめまして。昨日はダレスを助けてくれたそうだねありがとう」
「いえ、とんでもないことでございます。私達は依頼を受けたから現場に向かっただけです」
「そうなんだね。それで、早速で申し訳ないけど。ミレアの実を使わずにポーションを作る方法を見つけたと」
「はい、ミレアの実には聖属性魔法の調和の特性があります。ですので単に魔力ではなく、調和の魔法を流しながらポーション作製の工程を進めればミレアの実は不要になります」
子供の戯言と片付けず、真摯に説明を聞いてランツィア部長は少し考えていた。
「タロス、この事は他に誰が知っている? 誰かに見られたりは?」
「いえ、私の研究室でしたので他に見聞きした者は居ません」
「そうか。一旦この件は箝口令とする。君たちもいいかな?」
干城も了承した。それはそうだろう。ミレアの実を媒介として独占することはポーション作製におけるセージ協会の優位性を担保する絶対条件だ。聖属性魔法を使う者を囲っている宗教勢力に知れ渡るのは、なんとしても秘匿しなければならないだろう。
「タテキとナツキの二人はいつまでこの街に滞在する予定なのかな?」
「はい、明々後日出発する予定でした」
「そうか、すまないが三日ほど滞在を延長しては貰えないかい? 宿泊費は今日の分からこちらで用意するよ。宿はどこに?」
「滞在延長は承知しました、宿は湖畔の宿り木です」
「ああ、あの宿か。眺めがいい宿だね」
「はい、料理もとても美味しいです」
「そうだったね、あの宿は料理も絶品だった。そうかあの宿に泊まれるとなると、宿代の他に拘束費として一人1日10ネラ払おう」
「今日はこんなところかな? 取り敢えず宿は三日程延長しておいてくれないかな」
「承知しました、そのように手続きします」
「ありがとう、迷惑をかけて済まないね」
「いえ、それでは失礼します」
◇◇
ランツィアは二人とタロスが退出したあとやっと一息ついた。タロスの報告はポーション作製の根幹を揺るがすものだ、衝撃で緊張を表に出さないよう必死だった。会った二人は年齢に似ない理性的で真摯な態度で言動や人柄は信用に足ると判断できた。
タロスは目の前の成果で気付いてないようだが。今日初めてここへ来て、軽く話を聞いて錬金魔法を行使して成功させた? セージ協会が発足して100年超の間誰も気づかず、今の今まで要の部分として基礎の基礎みたいなことに新発見を齎した?
実際に成果が出ていて冗談なわけじゃない、いっそ冗談なら夢のある話とどれだけ笑えたことだろう。単に魔法と言っても様々な資質が必要だ、誰も彼も錬金魔法の適正があるわけではない。年齢から考えて僅か一年で迷いなく変異種の魔物に対処し、被害者を救い出すことを優先する冷静さ、ランクCフリーランサーになれる実績があり。錬金魔法まで使えるなど歴史に名を残す天才か化け物だろうと思った、協会長への報告は荒れそうだ。




