53. ヒールとポーションの違い
朝食を済ませ、爽やかに晴れ渡った空のもと、宿前の通りのベンチで湖から吹く朝の冷たい微風を感じて、マッタリと湖を眺める姿は老年の夫婦のような姿だった、13歳の可愛らしい二人のそんな姿に道行く人達は微笑みを浮かべて通り過ぎていく。
待つ事しばし、宿の前に1台の箱馬車が止まった。二人は馬車に歩み寄り馭者に尋ねた。
「おはようございます。あの、セージ協会の馬車でしょうか?」
「おはよう、君達がタテキとナツキかい? 天使のように可愛らしい二人と聞いていたが、本当だったな」
「可愛らしいかは分かりませんが、干城と奈津希です、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さぁ、馬車に乗ってくれ。セージ協会に案内するよ」
二人が乗った馬車はセージ協会へ進み出す。
到着したセージ協会は立派な建物だった。二人は馬車で錬金薬師棟に案内された、そこには昨日のタロスさんが待っていた。
「おはよう、よく来てくれたね」
「おはようございます、お招きありがとうございます」
「おはようございます」
「早速案内しよう、付いてきてくれ」
案内されて建物内を歩き、部屋に到着した。
「ここに居るみんな聞いてくれ、この二人はランクCフリーランサーのタテキとナツキ。昨日ダレスを救い出してくれた二人だ」
「この二人が」
「ダレスを救い出してくれてありがとう」
「変異種を相手に、勇敢なんだな」
そこには昨日ギルドに駆け込んできたノギエルさんの姿もあった、口々に礼を言われた。
「二人はポーション作りに興味はないか、良かったら見学して行かないか?」
「是非お願いします」
「それでは、こちらに付いてきてくれ」
タロスさんに案内された部屋は数個の釜や薬草が沢山ある部屋だった。
「ここでは下級ポーションを作っている」
「下級ですか、すみませんポーションの事をよく知らないので、教えて頂けませんか?」
「勿論良いとも、だがフリーランサーでポーションを使わないのか?」
「その、多少の怪我はヒールを使っておりましたので」
「聖属性持ちなのか? ならポーションは使わないか? だが、聖属性持ちなら教会に気を付けろよ、強引に教会所属にする者も一部いるからな」
「そうなのですね、気を付けます、それで……」
「ポーションだったな、ポーションには正規品として下級、中級、上級があり、不正規品として低級が出回っていたりする。」
「これらのポーションは怪我の回復として使える」
「下級は、切り傷や傷が浅い裂傷、表面が赤くなる程度の軽い火傷に効果がある」
「中級は、深い裂傷や亀裂骨折、表皮が焦げるくらいの火傷に効果がある」
「上級は、内臓の表面の損傷や内臓まで達する裂傷や、手足なら開放骨折、真皮に到達する火傷も回復する」
「低級は、非正規品でほぼポーションとは呼べない粗悪品だが、たとえ上級並の効果があっても非正規品は低級と呼ばれる」
「また、低級ポーションを販売する事は違法だ、身体に影響する物だから罪は重い」
「正規品とは? どなたが正規と認証するのでしょう?」
「ポーションの認証は、ここのようにセージ協会がある街はセージ協会が、協会がない街は商業ギルドにポーションの判定係がいる。判定係も錬金薬士のライセンスを持っている」
「セージ協会が発行する錬金薬士のライセンスを持っていないとポーションの作成も違法だ。ただし作成に関してはライセンス保持者の監督の下であれば作成はできるが、販売はできない」
「商人も商業ギルドが発行するポーションの販売資格を持たない者は、正規品であっても販売できないし、教会であってもポーションは販売できない」
ポーション作製に資格がいるのは分かるが、なぜ販売資格が要るのだろう?
「なぜ商業ギルドの販売許可が必要なのでしょう?」
「ポーションの安全性担保の為にポーション作製の前提条件はセージ協会の錬金薬士のライセンスを持っている事だ。但しこれではポーションの売り先は商業ギルドのみにしか売れない。ポーション工房兼店舗を経営し、販売するにはセージ協会錬金薬士のライセンスと商人としての商業ギルド員カードの二つが必要だ」
「街規模ならどこもこれらの店はある。だがそれでは地方の村などにポーションが行き渡らない。そこで商業ギルド員2種商人、街の外で商売する行商人のうち、商業ギルドの審査をとおった者にポーションの販売許可を与えて、地方にポーションを行き渡らせているんだ。勿論行商人のポーション仕入れ先は商業ギルドのみだ。つまり商業ギルドが品質を保証するポーションを流通させ、非正規品の氾濫阻止と宗教勢力に手出しをさせない理由作りと市場統制が狙いなのさ」
商業ギルド員2種? また知らん言葉が出たな。行商人という事は1種は事業地が街の中、2種は街の外という事か? だが今はポーションだ。
「そうなんですね、わかりました」
「それでは下級ポーションの効果はヒールと同程度と考えて良いでしょうか?」
「それは違う。ポーションは原料や製法が決まっていて効果は画一的だが、聖属性も魔法は術者の技量に依存する。だからヒールであっても中級ポーションくらいの治癒効果がある者もいる」
「解りやすいのは解毒だな」
「聖魔法の解毒は毒がなんであれ解毒する、だが解毒ポーションは毒毎にポーションを選ばないといけない。魔法の方が融通が効くという事だな」
「つまり、昨日のガイナイースの毒ならガイナイースの解毒ポーションでないと効果はないという事だ」
「えっ!タロスさん、万能薬とかはないのかしら?」
どうやら奈津希のラノベ……イヤこれはゲームか知識か?
「万能薬? そんなものは聞いた事もないな」
「強いて言えば、聖魔法がそれにあたるか?」
「そうなんですね……」
奈津希は残念そうな顔をしていた。
「ああ、解毒にしても毒を無効化するだけなら簡単だ、人体に影響なく解毒するのが難しいんだ」
それは納得だ、薬も病原を根絶するだけなら簡単だ。だが副作用なく病原の根絶は難しい。だから長い研究と治験が必要なのだ。
「こちらはポーション類の研究という事でしたね」
「そうだ、新しいポーションの開発やエリクサーの研究などだね」
「エリクサー!」
奈津希は凄い食付きだ
「……何か知っているのか?」
「生きてさえいれば、病気も四肢の欠損も全て回復するんでしょう?」
「文献にはそれらしい記述も見られるが、現存する実物がないので空想ではないかとも言われている」
現物がなければ検証しようもない。製法が失われていれば雲を掴むような話だろう。干城は思い付いた疑問を質問した。
「そうなんですね。そう言えば錬金薬士とは錬金術師ではないんですか?」
「それは協会内での呼び分けというか区分けなんだが錬金職には四種類いてな、我々のようにポーション専門を錬金薬士」
「各種属性魔法を込めた魔導具を作る者を魔導具士」
「発炎筒や罠用の道具などの色々な戦闘補助用の道具を作る者をアイテム士」
「ランプや浄水器などの生活魔道具などを作る者を生活魔道具士と呼んでいる」
「それら全てを網羅する者を錬金術師と呼んでいる、畏敬を込めて士ではなく師を充てる」
なるほど、専門が変われば必要な知識や技量、ノウハウも変わる。人数が確保できるならゼネラリストよりもスペシャリストを集めて部署別にした方が合理的だ。あとは定期的に意見交換をしたり、新発見などの発表の場を整えれば良い。
「分業化されてるんですね」
「研究するにも金や時間がかかるからね。協会としては分業する事で広く研究を進められる、個人としてはどれかに絞らないといけないからね」
干城はそう言われればそうかもと思った。自分や奈津希はチートで職業スキルもぽんぽん覚えるが、普通は何年もの研鑽を積んで発現するものだ。ゲームの裏コードで強くなるみたいな自分達を基準にするのは危険だと、改めて思った。




