50. ディノーラに到着
翌朝早速ディノーラに向かった。話し合った結果10日も乗り合い馬車に揺られるより、身体強化で走れば2日で着くと走る事になった。昼にバーチャルエリアで昼食と休憩を終えて、バーチャルエリアを出ようとしたところで、このまま開けるだけでは駄目だという違和感を覚えた。理由は分からないが経験則的にこういう時は素直に従った方が良いと、違和感に従ってグローブスフィア(惑星儀)でディノーラ近郊を確認しながらバーチャルエリアのドアを開くと、これまでと違って行ったこともない地図上の場所に繋がっていた。
慌ててドアを閉め、奈津希の手を引いてリビングに戻って、奈津希と分かった事を相談する事にする。
「奈津希、グローブスフィアとバーチャルエリアのコンボがヤバい」
「え〜と、何を言ってるのか分からないわ。もう少し詳しく」
「うん、さっきね、行った事ないディノーラ近郊をグローブスフィアで拡大して地図上に座標指定をしたんだよ。その状態でバーチャルエリアのドアを開いたら座標指定した場所に行く事ができた」
「えっ? それって、完全にあの有名なドアじゃないの!」
「グローブスフィアを使わなかったら、記憶にある行った事がある所に制限される。グローブスフィアを併用すれば、多分どこにでもドアを繋げられる」
「それだと、移動した先は岩の中だった。みたいな事にはならないのね」
「とんでもないメリットだけど、どんな縛りやデメリットがあるかは検証してみないと分からないな」
「時間はあるんだし、超長距離で検証してみましょうか」
「そうだね、やってみよう」
奈津希の興味はエルフやドワーフなどがいる西の大陸で、何れは西に向かって旅をするだろうから、密かに干城が気になっていた遥か東の中華鍋の国と思うところにあたりをつけて、人の居なさそうな所にグローブスフィアで座標を意識しながらバーチャルエリアのドアを開けた。外に出た途端に一気に魔力を馬鹿食いされて身体に力が入らなくなり、立ちくらみのようにしゃがみ込んだ。その姿に奈津希が慌てて駆け寄ってきた。
「干城どうしたの?」
「魔力を一気に持っていかれたようだ、立ち眩みみたいで、ちょっと立てない感じになってる」
「そうなのね、それじゃ少し休みましょう」
地図で座標指定しただけで、ここがどこかは分からないが、目の前の木には柿に似た実がなり、辺りは草が生えるだけで家もなく、雑草の枯れ葉と青草の匂いが混ざる場所だった。
場所の風景は記憶したので、一旦奈津希にバーチャルエリアのドアを開けてもらってリビングに戻る、若干ふらつく足取りでソファに座り込む、魔力酔いとは違う疲労感を感じる、動くのも億劫という感じだ。奈津希がキッチンから緑茶を持ってきてくれた、緑茶の馥郁とした薫りに元気づけられる気がした。
4時間ほど雑談をしながら休んでいると体調も回復した、ここは魔力の回復とかも早いんだろうか? バーチャルエリアなんてう不思議空間だ、何があっても思考放棄する自信がある。奈津希に止められたが、ゴリ押しして先程の検証を進めた、東の国の風景を思い出しながらバーチャルエリアのドアを開けると、先程の東の国、柿の木が見える場所に移動し、魔力は幾らも消費してない。
これでハッキリした、グローブスフィアとコンボでバーチャルエリアのドアを繋げられるが、距離に応じてた魔力消費をする。同じ距離でも、バーチャルエリアのドアのみで、風景を思い出せる場所なら魔力消費は少ないという事のようだ。
検証も済み今日はこのまま休息する事になった。奈津希は強引に検証を進めた事にプリプリしていたが、夕食のメニューはボアの生姜焼き、白身魚の切り身の西京焼き、だし巻き玉子、ほうれん草のお浸しに貝汁と好物ばかりだった。出来たての生姜焼きの匂い、西京焼きの香ばしさと、パリッと焼けた皮は絶品だった。
夕食の片付けと風呂と洗濯を済ませて、話し合い、ディノーラへは休暇目的で慌てる必要はないので、明後日到着を目処に走ろうという事になった。
翌日からはペースを落として走った、それでも乗り合い馬車よりは速いし、行き交う人達を追い抜いていった、街道の両側の雑草など今まで見てなかったが、冬が近づいて枯れているいる事に気付いた、ペースを落としたからか、仕事以外での移動で気持ちに余裕があるのか分からないが、枯れ草や木に葉が付いてない事など、今まで気にする余裕がなかったんだなと思った、もしかしたら、この気持ちの余裕のなさを奈津希が気にして、今回の旅行を提案したのかも知れない。
到着したディノーラは人口3万人の小さめな街、ウシュバノ子爵の領地だ。小ぢんまりしてはいるが必要な物はだいたい手に入るし、この街は川に挟まれた島状の地勢で治安が良く、夏はハイペリオン湖から吹く涼しい風の避暑地として、また貴族の別荘地として人気らしい。人口の割に大きな屋敷が多いのはそれでかと思った。なので冬が近い今はシーズンオフという事になる。
そんな街を散策し、上手く段差を使ったコンパクトな建物はしっかりした白いレンガ作りで、屋根は赤やオレンジ、緑や青の色とりどりの明るさがあり、街の雰囲気作りの一つに思えた。階段が多いせいか通りにはベンチが多く、一休みすると通りから見る景色は雄大なハイペリオン湖が広がり、湖を行き交う小さい船は漁船だろうか? 夏の強い陽射しに照らされた明るい屋根のコントラストと美しい湖の対比は美しいんだろうと思わされた。
宿を探そうと街の散策を続け、下の水際に降りてみる事にした、暫く砂浜の水際を歩いていると[湖畔の宿り木]という一軒の宿屋があった。街からは少し外れているが、静かな場所で湖の間近というロケーションが気に入って泊まる事にした、朝夕食付きの二人部屋は一泊2レラだった、常宿にしているレマルグの月に比べれば3倍弱の値段だが、ビジネスホテルと観光ホテルの違いを考えれば、そんなもんだと納得して5日分の10レラを支払ってチェックインした。
部屋に行き、窓から見る景色は絶景だった、全面に湖が見える、沢山の小舟が係留している場所が港だろうか?
「良い宿だね奈津希、眺めも良いし宿自体が明るい雰囲気で」
「もしかしたら、もっと高い宿かもね、シーズンオフだからお安くなってたとか、部屋が空いてたとかかもよ」
「あ〜……あり得る、宿は街の宿しか使った事ないけど、明らかに観光客用の宿だからね」
夕食を楽しみにしつつ、景色を眺めながら明日は市場を見に行こうとか、街を端からはしまで歩こうなどと話しながら時間を過ごした、とても贅沢な時間の使い方をしている、旅行に来て良かったそう思ったひと時だった。




