48. Cランク依頼って倒したあとが本番?
ヴァイスとユキと分かれ、少ししんみりしながら、人の手が入っていない鬱蒼とした森を自分を餌に歩き続けていると、何かに狙われている。そのまま歩き続けていると、釣れたのはエタンディアだった。身体の模様は鹿だが二本の角は長く鋭い。魔力探知すると囲まれていた。
「全部で十二頭だね」
「結構釣れたわね」
一頭目が突っ込んできたが、干城の目には動きが遅い。回避しながら首の表面にウインドカッターを当て、動脈を切り血を出させる。三頭同時にきたが予備動作が分かりやす過ぎる。三頭同時に額にアイスバレットを突き刺す。
奈津希は六頭を浮遊魔法で浮かせて、逆さに身動きできなくしてウインドカッターで動脈を切って、血抜きも同時にしていた。残り二頭が逃げ出そうとしたので、レーザーで仕留めた。正直戦闘は山も谷も緊迫感もなく十分掛からずに終わった。寧ろその後、十二頭の解体が大変だった。
先ず土魔法で大きな穴を掘る。全部血抜きをしよう。血が抜けたら心臓付近の魔石を抜いて、腹を割いてワタ抜きをして。腹の中を水魔法で洗浄、辺りに立ち込める血と獣臭を風魔法で上空に飛ばして、血抜きとワタ抜きに使った穴は、終わったらさっさと埋めてしまう。ここまでが解体前の仕込みか……。
仕込みが終わったものはインベントリに格納した。
解体を始めよう。角や牙などの素材になりそうな部分を外し、皮を剥がして、肉になる部分を骨から切り離し、魔力が抜けて肉が熟成するのを待つ為、解体が終わった肉は時間経過する空間収納に格納して残留魔力が抜けるのを待つ。
(収納魔法って時間経過はするけど、抜けた残留魔力はどこへ行くんだろう?)
奈津希がもも以外の足と骨は料理に使うと言うので残し、仕込みが終わっていても一頭解体するのに20分くらい掛かった。奈津希と二人、一頭ずつ解体を終えた。全頭仕込みから一頭解体が終わるまで1時間くらい掛かっているので、残りは角や牙だけを外して、それはインベントリに格納した。
「ランクCってのは討伐自体より、そのあとが大変なんだってのが良く分かった」
「そうね、アタシ達は空間収納もインベントリもあるけど、他の人は全部持って帰れるわけじゃないでしょうからね」
「そりゃ、依頼ボードの前で依頼の吟味を繰り返す訳だ。これだけ苦労して差し引き収支がランクDに近かったらやってられないだろうし」
「そうね、必要経費をどれだけ削って利益を最大化させるかよね。収納持ちがポーターやったら需要ありそうだけど、その前に国と商人に捕まってるわよね」
そう言えばと、干城ははたと思った。収納容量が魔法で拡張されたバッグ、所謂アイテムバッグはないんだろうか? それがあれば収支は大きく変わる。俺達が気づいてないだけであるんじゃないだろうか? そんな事を考えていると、森を抜けて平原のような場所に出た。見渡すと腰程の高さの草が生い茂り、どこかに咲いているのが花のような香りもする。遠くに四足歩行の何か魔獣なのだろうも見えている。見通しも風通しもいい場所だった。
「見通しも良いし、少し進んで休憩しようか」
「そうね、そうしましょう」
500メートルほど進んで、ウインドカッターで草を刈り、風魔法で刈った草を吹き飛ばして休憩場所にした。風は冷たく感じたが、今は心地よかった。もう少し身体が冷えたら風が寒く感じるだろう。奈津希はインベントリからお茶を出していた。
「はい、コーヒーよ。バタークッキー作ってみたわ」
「ああ、コーヒー豆買ってたね、いただきます」
こちらではコーヒーはガルフと言うらしいが、味は同じだった。濃いめに淹れてあるコーヒーとバタークッキー。温かさが少し弱い陽射しと風に揺れてカサカサと音を立てる草、しみじみとコーヒーの薫りを楽しんでいると、ふと影が指した。上を見上げると、4体のワイヴァーンが干城と奈津希めがけて降下しながら突っ込んできていた。
干城は大事なコーヒーを零さないように迎撃した。奈津希命名、アニメの浪漫魔法。表面が水銀のような32個の球体を光魔法レーザーのリフレクターとして反射する多方向攻撃。干城は威力を加減したTOTレーザーによる同時弾着攻撃を、無詠唱で4回の重複展開した。光速で多方向から接近する魔法など対処しようがない。1体につき8条の光の筋が瞬時にワイヴァーンを包み込むように迸った光の奔流。ワイヴァーン4体は同時に墜落した。
奈津希はコーヒーを楽しみながら視線を向ける事もなく、真上から落ちてくるワイヴァーンに手を翳し、タイミングを合わせてインベントリに格納した。
「ちょっと干城、落とす所も考えなさいよ」
「すみません」
干城は素直に非を認め、腰を直角に曲げ、頭を下げて謝った。前世の経験で、明らかな非があれば素速く対処することが最も早く事後処理を終わらせる。
「また、解体の手間が増えたか」
「文句言っても解決しないわ。仕込みをさっさと済ませましょう」
二人は穴を掘り、浮遊魔法でワイヴァーンを逆さに浮かせて血抜きを行い、魔石とワタ抜きを済ませてインベントリに格納し、穴を埋めてこの場を去った。歩きながら、さっき疑問に思ったアイテムバッグの話をした。
「奈津希、ちょっと思ったんだけど、アイテムバッグとかマジックバッグとかって、この世界にはないのかな」
「そう言えばそうね、空間収納持ちが居るんだったらあっても不思議じゃないわよね。というかあるのが定番よね」
ギルドに行ったときにソフィアさんに聞いてみるしかないかな。
「今日は帰ろうか」
二人はバーチャルエリアに消え、そのままエノー橋の下に現れ、ギルドに向かった。
街を通る時、屋台広場の串肉を焼く匂いに釣られそうになったが、取り敢えずギルドに急いだ。通り慣れた道だが変化も見えた。街路樹に藁が巻いてある。日が短くなるので人々は足早に歩き、薪売りの声が聞こえる。
街の変化を見ながら歩いていると、ギルドに到着した。ソフィアさんを見つけ、アイテムバッグの事を聞いてみる。
「ソフィアさん、空間収納みたいに物が入れられるアイテムバッグってないんですか?」
「ありますよ? ですがお二人は空間収納が使えるのでは?」
「そうなんですが、Cランク依頼は魔物を討伐するよりも、素材を持ち帰られるかが主眼のようですので、アイテムバッグなしだと成り立たないんじゃないかと思いまして」
ソフィアさんはニッコリと微笑み、教えてくれた。
(最近なんとなく分かってきたけど、この笑顔は何か驚かせたか?)
「よくお気付きになりましたね。仰る通り、アイテムバッグを持っているかがランクC中堅と見做されるポイントのひとつですね」
「値段が高いという事ですか?」
「そうですね。広さが5メートル四方で高さが2メートル程で500レラ(金貨5枚)と言われてます」
それだと体積は10立方メートルか。そこそこあるみたいで、魔物を放り込んだら直ぐに埋まりそうだ。その程度でそんな金額なのか。ざっと平民の年収分くらいじゃないのか?
他に聞きたい事もあったが、今はここまでにした。仕事中の人を余り引っ張るのも申し訳なかった。お礼を言ってギルドを後にする事にした。




