45. レブテニィ傭兵団
「フリーランサーの迎えに来たよ。えっ? その二人? まだ子供じゃないか!えっ? ランクCフリーランサー……そうか」
迎えの者は干城と奈津希を見て二人の子供が居る事にきょとんとした。だが門番はランクCフリーランサーと言い切った、という事は身元の確認をしているという事だ。であれば迎えるのはランクCフリーランサーであって、子供か大人かは関係ない。与えられた任務を遂行すべく行動した。
「お待たせしました、お迎えに参りましたノルベルト・エコバルです」
「タテキ・アリハラです」
「ナツキ・ユウガです」
「それでは事務所にご案内します」
干城は雑多なフリーランサーと違って、イメージの軍隊みたいに規律正しい所だな。少人数パーティと組織力の傭兵という違いを見た気がした。
「こちらです、団長フリーランサー2名をお連れしました」
エコバルと共に入室した二人に、団長は一瞬ギョッとした顔をする。
「よく来てくれた、私はこのレブテニィ(赤色角牛)傭兵団のベルリエ・ディグモンドだ」
ディグモンドの後ろの壁には黒地に銀のチェーンフェザーステッチのアラベスクで縁取りして、中には大きく二本角の赤い牛と盾が刺繍してある旗が掲げられていた。
干城と奈津希は落ち着いた雰囲気と口調で挨拶をした、前世社会経験豊富な二人にとって当たり前の対応で、なんということもない。
「フリーランスギルドより参りました、ランクCフリーランサーのタテキ・アリハラです」
「同じくナツキ・ユウガです」
「こちらがフリーランスギルドより受け取った書類になります」
ディグモンドは干城から受け取った封書を開き、中の文書を改め、ログマイヤ支部ギルドマスターの署名とフリーランスギルドの印章が押してある事を確認した。
「確かにフリーランスギルドの正式な書類だ、我々は今回の盗賊討伐任務に君達を歓迎しよう」
一通りの挨拶が終わった所でディグモンドは二人をソファに促し、話をする事にした。
「挨拶も終わったし堅苦しくなく話させて貰うぞ、一目見た時は可愛らしい坊主と嬢ちゃんだと思ったが、礼儀正しく全くブレもない、腹も据わっているようだ、フリーランスギルドがわざわざ盗賊討伐に送り込んで来るわけだ」
「そうなのですか? 私達は今朝こちらに出向くよう指示されましたし、誰でも経験を積むために派遣されるのだと思いましたが」
「そんな訳あるか。お前さん達はフリーランスギルドが将来に期待する人材なのさ、ウチの団だってそうだが他所の組織に出すってのは、ウチの団の代表として出すようなもんだ、他所に出しても恥ずかしくない奴しか怖くて出せねぇよ」
なるほど、学生気分の抜けてない、ビジネスマナーが身に付いてない新人を、契約先に単独で行かせる会社はないな。
「お前さん達にランクCの実力がある事は分かっている、だがピンキリって面もあるので、訓練場で手合わせしてお前さん達の実力を見せてくれねぇか? それが分からんとお前さん達をどう扱えば良いのか分からん」
それは干城も奈津希も納得できる事であった、力量の分からない者を集団に混ぜれば、機能不全を起こしかねない。
「それでしたら、こちらの奈津希と1時間ほど対戦の模擬戦をさせて頂けませんか、私達の実力をお見せするのでしたらそれが最良ではないかと愚考します」
「ウチの奴ではなくお前さん達で模擬戦か?」
「はい、身体強化を使いながらのものになります、それに傭兵団の方に怪我をさせるわけにはまいりません」
ディグモンド団長は、ニヤリとした顔をした。自分達を見た目と歳に似つかわしくない物怖じしない子供と思ったのか。今の提案を面白いと思ったのかもしれない。
「面白い提案だ、早速訓練場に行って、その実力を見せて貰おう」
「承知しました」
訓練場はレブテニィ傭兵団だけでなく、他の傭兵団員も含めて多くの傭兵が鍛錬をしていた、干城の要望で訓練場からは全ての傭兵の鍛錬を中断し、広い訓練場はクリアになった、傭兵達はフリーランサーの模擬戦の見学に回った、中には子供の模擬戦に訓練場をクリアにする必要があるのかと不満の声が聞こえた。
二人は木剣ではなく刃引きした模擬剣を手に取った、ディグモンドの「始め」の号令で二人の模擬戦が、耳を劈く激しく重い剣戟の音で始まった、何時ぞやフリーランサーに実力を見せる模擬戦が再現されていた。
◇◇
ディグモンドも傭兵達も信じられない物を見ているようだった、フリーランサーは対魔物戦を得意とし、対人戦は自分達傭兵に一日の長がある傭兵は誰もそう思っていた。
なんだこの子供は、いや本当に子供か? 子供に見えるエルフで自分よりも歳上? 練習して決まった形を行う剣舞などではない。動きは素速く、攻撃は鋭く、防御はときに柔らかくときに固い、しかも魔法を無詠唱で放ち、牽制や攻撃に織り交ぜ、時にフェイクとして使う。もし自分が戦場で出会って戦ったとしたら? どう考えても勝ち筋を見いだせない、4〜5人掛かりでも駄目だろう。
二人の模擬戦に決まった形はない。だが、お互いに手を読み合い、ときに防御しときに魔法で打ち消す、離れて見ているから目で追えているが、至近だったら見失っているだろう。何より二人の模擬戦は息の合ったダンスを思わせる美しさがあった。周囲で見物している誰もが目が離せなかった。
ディグモンドも傭兵達も言葉も無く魅入られた、激しくも流れるような攻撃、ぶつかり合う剣の重い音、素早い動きなのに舞うような回避と受け流し、やがて二人が訓練場の中央で剣を引き、残心の後に一礼したとき1時間が経過していた。
ディグモンドは干城と奈津希をフリーランスギルドが将来を期待する人材どころか、将来の英雄か……戦場で出会ったらマトモに戦ってはいけない、誰も勝てない戦場の化け物かと思った。




