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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
2章 フリーランサー
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39. ヴァイスとユキ

 ギルドに到着した干城(たてき)と奈津希(なつき)は、さっそく受付カウンターへと向かった。二枚のギルドカードを受付嬢に差し出し、廃坑のレグラータをテイムしたこと、それにより危険は完全に排除されたことを説明する。


「テイムなさったのですか? 討伐ではなく」 


 受付嬢が目を丸くして聞き返してきた。


「はい。テイムが成立しましたので、もう廃坑に危険はありません」

「それでは、そのレグラータは今どこに……?」


「闇属性のテイムですので、今は影の空間に潜ませています。ここで召喚すると騒ぎになると思いまして」 


 受付嬢は納得したように頷くと、奥の連絡通路に目を向けた。


「闇属性のテイムですか……。では、訓練場を空けさせますので、そちらで一度召喚していただくことは可能でしょうか?」

「分かりました。場所ができたら声をかけてください」


 間もなくして案内された訓練場は、独特の緊張感に包まれていた。周囲の壁際通路には、警戒のためか武器を手にしたフリーランサーが十数人も待機し、こちらを凝視している。 


 干城と奈津希が意識を向けると、二人の影が不自然に伸び、そこから浮かび上がるようにして二頭のレグラータが姿を現した。周囲のフリーランサーたちが一斉に武器を身構えた。だが、彼らの警戒を他所に、浮かび上がった二頭の毛皮は雪のように白く、訓練場の灯りに美しく映えた。凶暴な魔獣のはずだが、二頭は静かに周囲を見回した後、干城と奈津希の足元へ従順に伏せた。


「確かにレグラータですね。それに……白い個体ですか。普通は茶や黒っぽい毛色ですが、これは珍しい。本当に、見事にテイムされているのですね」


「でしたら、こちらの『従魔の首環』を着けていただけますか?」


 干城の脳裏にかつてこの国の先王に着けられそうになった隷属の首環の記憶が蘇る。


「従魔の首環、ですか? 隷属の首環とは違うんですよね」


「はい。あくまで従魔であることを周囲に示すための証明になります、行動を縛るような強制力はありません。ただし、従魔が街の中で問題を起こした際の責任は、すべて主人が負います」

「なるほど、分かりました。その首環を頂きます」


 用意された首環を二頭の首へと装着し、再び影へと送還する。受付嬢は「今回の件を討伐扱いにするか、ギルドマスターと相談してまいります」と言い残し、二人のギルドカードを持って足早に奥へと消えていった。


 二人は飲食コーナーへ移動し、果汁を飲みながら待つことにした。しばらくして戻ってきた受付嬢から、危険排除の功績が討伐と同等と認められ、依頼完了となった旨が告げられる。


「では、依頼の完了手続きを行いますね」


「はい、手続きが完了いたしました。報酬はどうなさいますか?」

「ここで受け取ります」

「承知いたしました。こちらが報酬の80レラ(銀貨8枚)と、お二人のギルドカードです」


 干城と奈津希はそれぞれカードを受け取り、軽く頭を下げた。「ありがとうございます」 受け取った報酬をきっちり折半し、二人はギルドの重い扉を押し開けた。


「なんとか、無事に終わったね。あれこれディベートのシミュレーションをしたけど、全部無駄になって良かったよ」

「そうね。ちゃんと討伐扱いにしてもらえて良かったわ」


 ホッと胸をなでおろした干城が、通りを見渡す。


「この後どうする? せっかくだし、少し街を見ていかないか?」

「ええ、そうね。折角ここまで来たんだもの」


 歩き出したレノーラの街には、確かな活気があふれていた。それだけに、エスラの町との格差が嫌でも浮き彫りになる。


 鉱山の街と呼ばれるだけあって、通りを進むと鍛冶工房が街の一角を完全に占領していた。職人街らしく、ここには一般向けの武器屋や金物屋は見当たらない。煙突からは煙が上り、炉の熱気が工房の外でも感じられ、鉄を鍛える音が聞こえる。さらに進むと、今度は木工の工房区画だった。木の香りが漂い、通り過ぎながら見た工房の中は、木の表面を整える作業をしている。錬金工房エリアでは、工房から薬草の匂いを微かに感じる。その先は魔道具工房のようで、それぞれのエリアに固まって工房が並んでいた。


「なんだか、定規で引いたみたいにきれいに区画分けされた街だね」

「そうね。確かに工房は騒音も出るから、住宅地から離すのは合理的だけど……ちょっと極端すぎる気がするわ」


「目的の工房を探すとか、資材の搬入とかいう分には便利かもしれないけど、一長一短ってところかな」

「ええ。生活の動線とか住みやすさを重視しているというより、上から街を『統制』しやすくするために作られたように思えるの。ログマイヤにも同業種が並ぶ通りはあるけれど、ここは区画が丸ごとそれ一色ですものね」


 整然とし過ぎる街並みに奈津希は眉を顰めた。


 二人は今日、宿を取ることに決め。工房街を後にした。


 宿の名前は[フェルグカッツ]これは前世で言う鉄は熱い内に打てという言葉だ。鉱山の街か、エスラの町と先程の鍛冶工房を思い出した。


 宿の部屋に落ち着いたところで、干城はテイムした二頭にまだ名前をつけていないことに気づいて。さっそく、二人でベッドに腰掛けながら相談を始めた。


「そう言えば、レグラータに名前をつけてなかったな」

「あら、アタシはユキにするわよ」


「白いから? なんか安直だね。ラノベ的なノリは?」

「名前は堅実で良いのよ。アタシの名前に関わる歴史、前に話したでしょう?」

「そういや、そうだった。さて、俺は何にするかな……」


 ひとしきり頭を悩ませた末、干城がひねり出した名前は『ヴァイス』だった。


 奈津希はジト目を向け、呆れたように息を吐く。


「……アンタ、人に安直って言ったくせに、そのまんま『白』じゃない。しかもドイツ語って、厨二全開じゃないの」

「でも語感がかっこいいだろ? なんでドイツ語ってこう、男心に刺さるんだろうな。ボールペンなんてクーゲルシュライバーだよ、必殺技か武器の名前みたいだ」

「はいはい……」


 処置なしとばかりに、奈津希は肩をすくめて苦笑した。


「次にヴァイスとユキを呼んだ時に名前をつけた事を教えないといけないね」

「そうね、名前を気に入ってくれると良いわね、最初に送るプレゼントだから」


 干城も同意する、プレゼント……そうか、確かに名前は親が子に送る最初のプレゼントだな。前世の自分に子供が居たかは分からない、家族構成の記憶は失われている。だが、独身だった記憶はある、未婚か死別か、はたまた離婚かは分からないが、今は最初のプレゼントとして名付けができる事を喜ぼう。






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