34. 高級料理店での食事
極端な会話劇を書いてみました。
内容の薄さに地の文の大切さを痛感しました。
「いきなり1,000レラって大金貨1枚の貯金ができちゃったね」
「まぁ、良いじゃないの、これで運転資金の心配はなくなったわね」
干城は紅茶を一口飲み、溜め息ともつかない息を吐く。
「それは良いんだけどさ。なんて言うか、簡単に大金が稼げたのが良くないと思うんだよ」
「なんとなく言いたい事は分かるけど、具体的には?」
「うん、つまりね。最初F依頼の収入に不安になって、蓋を開けたら何とかなって。ランクEでは周りと違う稼ぎに、これで良いのか? と考えた」
「それでも、日本の労働環境なめんな、ちょっと目配りと気配りすればちゃんと稼げるんだって思ってた」
「アタシ達はチートや前世の知識とか色々恵まれたものはあるけど、心構えとしてはそうね」
「でもさ、今回のこれは流石に桁が凄くてさ、今までやってきた下積みって何だったんだろう? って思ってしまったんだよ」
奈津希は何かに気づいたような表情をし、何かに安堵したような笑みを浮かべた。
「ああ、つまり、宝くじが当たったって感じとは違うわけなのね。だったらいいんじゃないの? 銀行の心構え冊子が要りそうな感じじゃなくて、寧ろ地に足がついてるし」
「そういうものかな?」
「そういう話でしょう? つまり干城はこれまでコツコツ積み上げてきたものが、たった1回の達成報酬で全て否定されたような気になってるんじゃないのかしら?」
「そうなのかな? 自分でも良く分からなくて言語化できてないんだよ」
「干城言ってたじゃないの、戦闘の山も谷もなかったって。つまり楽した結果が寧ろ大金を稼ぐ原因になって、その結果が自分がこれまで積み上げたものを否定してるんじゃないか? そう思ってるんじゃないの?」
「そうなのかな? 予想外の大金に、これでいいのかって感じはするんだけど」
「干城の話を聞いたアタシはそう思ったわよ?」
「そうか。自分の事は自分以外の方が客観的に見れるし、そういう事なんだろうな」
「干城は良くも悪くも考え過ぎよ、もう少し気楽に構えたって良いのよ? アタシが思うに、干城は理論的だけど、たまに考えすぎて空回りする事があると思うのよ」
「そうかな? いや、そうかも」
「そうだって、干城も今日は達成のお祝いで、何かお高い美味しいもの食べてもバチは当たらないでしょう」
「パーッと稼いでパーッて使って、モソモソ働くってパターンは干城とは真逆なんだから、美味しいもの食べて落ち着いて今後の話でもすれば良いのよ」
「そう言えばこの街って安くて美味しいものが沢山あるから高くて美味しいものって知らないな」
「奈津希さんに任しときなさい、リサーチはしてるから案内してあげるわ」
「ほぼ一緒に行動してるよね? いつの間に……?」
夜になり訪れた店は、立派な店構えだった。確かに見た目の格式は高く、いつもの食堂とは違う高級料理店といった佇まいに感じられた。
「なるほどね、服は転生したときの服にしとけっていう訳だ」
「これが手持ちの服では一番生地が良いからね、連れてきたのアタシだし、対応も任しときなさい」
案内された席は二人掛けにしては大きめなテーブルだった。
「いらっしゃいませ、本日はアルガス牛と季節の魚介コースとなっております」
「はい、それでお願いします」
「ワインは如何致しますか?」
「ワインはご遠慮します、果汁があればそちらでお願いします」
「かしこまりました、それでは暫くお待ちください」
「コース料理なんてあるんだ」
「そうなのよ、聞いた時はへぇ〜って思ったわ」
白パンと果汁が置かれ、暫く料理を待つ
「季節の温野菜とペリエ茸のマルグソースです」
蒸した後に焼き目を付けたアスパラ似のリグクラにシメジのような茸をバター焼きしたものをかけ、ソースで彩りを付けた料理だった
「ちゃんと皿が温められてる!」
「ソースの味も良いけど、リグクラはシャキシャキして、ペリエ茸もいい歯ごたえしてるわ、味だけじゃなく歯ごたえも楽しむ料理なのね」
「バターの加減がいいね。確かに歯応えを楽しむ料理だ」
「異世界のメシマズ設定は忘れるわ、安くても美味いもの多いし」
「エリコ貝の貝柱のバター焼きです」
皿には三つの貝柱と紫蘇の葉のような葉が添えてあった
「どんな貝なんだろうね? といういか、川で取れた貝なんだよね? 帆立より貝柱大きくない?」
「異世界なんだから地球とは常識違うからアリでしょう、というかそう思いましょ。紫蘇のような葉が良い香りね」
「貝柱の歯応えがいい、硬すぎすサクりとした感じで」
「味も良いわよ、噛むほど味がするわ、バターとの相性もバツグンね」
「ピグネルのスープです」
クルトンはないが見た感じはコーンスープのような感じだった
「カボチャのスープだ」
「カボチャの優しい香りと甘さに、シナモンとは違うけど微かにそれっぽいアクセントがいいわね、アタシもこの味作れるかしら?」
皿を残ったスープを付けた白パンも美味しかった
「ルダイグルのレプレーヌソース焼きです」
黒い皮の白身魚が薄いオレンジ色のソースに少し浸っている料理だった
「ソースの色に白身が映えて、見た目が良いね。皮が柔らかい、身と一緒にすんなり切れる」
「多分身は一回蒸して脂を抜いて、片面は焼いて焼き目を付けて、もう片面はこのソースと一緒に焼いてるんじゃないかしら? 味がよく染みてるわ」
「この魚の味とも相性良いね」
「そうね、すごい手間かかってると思うわ」
「レプネルの盛り合わせです」
一口大に切られ、飾り切りされたフルーツの盛り合わせだった
「口直しかな」
「甘いのや酸っぱいのが絶妙なバランスよね」
「甘すぎないし、酸っぱい果物も酸味が丁度いいよ」
「そう言えば、今まで果物って食べなかったわね」
「アルガス牛のクリーム煮です」
200グラムのステーキサイズなのだが、確かにクリームっぽいものに浸っている
「一度焼いて煮込んだのかな? 肉が凄く柔らかい」
「チーズかしら? クリームの脂分と味が染みて、肉の味が更に良くなってる感じなのかしら?」
「良いねこのクリームの味」
「どうやってこの味を出してるのかさっぱり分からないわ」
「残った白パンはこのクリームソースに付けて食べよっと」
「そうね、アタシもそうするわ」
「エメルトです」
デザートはショートケーキサイズの長方形のケーキと寒天のようなものだった
「こっちもケーキってあるんだね」
「脂っこい料理のあとに甘すぎない感じが丁度いいわ」
「この寒天っぽいのちょっと酸味があって舌が締められる」
「舌が甘ったるくならない様にしてるんでしょうね」
食後にゆったりと紅茶を飲んで、会計を済ませて店をあとにする、料金は一人12レラ(銀貨1枚白銅貨2枚)だった。
店を出た後に今日の寝床を確保してない事に気付いた。
「安くても美味しい料理はあるけど、お高い料理は更に美味しいね、あれが貴族の食事かな?」
「美味しいものを食べたあとは幸せな気分になるわ」
「そういやさ、宿取ってなかったわ」
「木賃宿暮らしだったからね」
「折角の幸せな気分で木賃宿には行きたくないね」
「どうするのよ、今からじゃ多分部屋は空いてないわよ?」
「そこの建物の間の路地から、バーチャルエリアに行こうか」
「そうよ、その手があったわ!」
初めて食べた高級料理は幸せな気分にしてくれた。奈津希の言うとおり、たまにお祝いとして美味しいものを食べるのも悪くない。いや、寧ろ食べたい。干城はいつもそっと支えてくれる奈津希に感謝した。




