33. 予想外の買取額
二人はバーチャルエリアでそのまま夕食にし、風呂に入って一晩過ごした。12歳の身体にダブルのベッドは広々だったし、前世基準のベッドと羽毛布団はとても心地良く眠れた。
翌日、街道の少し手前の位置を思い出しながらドアを開けた。ドアを開けたい場所周辺に人や魔物が居るとそれもドアを開ける前に感じ取れるようだが、いずれにしても人が居る場所では使わないのが無難だろう。
身体強化で街道を走って、渡し船でレワード川を渡りラエスタの街へ入ってギルドに終了報告をしてベリリュート8頭とリベルグリズリーを素材として提出した。 素材査定の間はギルドの食堂で果汁を飲みながら待っていたら、受付け付近がにわかに騒がしくなり、何やらこっちを指差されてるようだった。
「私は素材査定係のタルバ・アネアレスという者だが、リベルグリズリーとベリリュート8頭を納品したのは君達かい?」
「はい、そうです」
「買取について相談したい、来て貰えないだろうか?」
「承知しました」
干城と奈津希は果汁を飲み干して、カップを返却口に置き、アネアレスさんに付いていき素材査定課に到着した。開口一番に子供が討伐と解体をしたのかと驚かれたが、アネアレスさんがログマイヤ支部のタテキとナツキだと紹介すると素材査定課長まで納得した。
なぜ名前で納得するのかと干城は考えてみた。そういえば、以前この支部の受付嬢のアルメイリアさんがグランドマスターが何やら吹聴していると言っていたのを思い出した。おそらくそのせいだろう。名前だけで納得される状況に、干城は勘弁してくれと内心でため息をついた。
それで、なぜ呼ばれたのかを確認してみると、今回討伐したベリリュートとリベルグリズリーの状態が良すぎたということだった。何かマズいのかと思っていたら、ジュゼル・オリベルトと自己紹介された素材査定課長から、通常、空を飛び魔法を放つ魔物を討伐する際は素材として価値がないほどボロボロになっているものだと説明された。
だが、今回納品されたものは全て減点する点がないという。そのために依頼報酬が一頭あたり50レラ(銀貨5枚)に設定されていたが、魔石やワタ抜きの傷も最小限で剥製にすることも可能な状態でリベルグリズリーも同様ということで、リベルグリズリーを400レラ(金貨4枚)、ベリリュート1頭200レラ(金貨2枚)で8頭の計2000レラ(大金貨2枚)で買い取りたいという話だった。
4倍の報酬アップに驚いていると、ベリリュートの金色の尾羽根は状態がいいと尾羽根1本100レラ(金貨1枚)前後するらしく、そういえば金の尾羽根が4本あったと干城は思い出した。他にも風切羽や肉に爪なども素材になるし、一頭丸ごと剥製としてオークションに出品すれば、最低価格は600レラからセリが始まるだろうということで、今回の依頼者も尾羽根目的であり、ギルドとしては尾羽根を1〜2本依頼者に渡せば面目は立つと言われ、そういうことならと二人は買取額に同意した。
あっさりと買取額に同意したことに、課長のオリベルトさんとアネアレスさんは不思議そうにしていた。これだけ話せば普通は買取額交渉がもっと長引くと言われて、なるほどそりゃそうだと思っていると、その疑問には奈津希が笑顔で答えた。
「どれだけ値が付くといっても売れればという前提の話ですよね。尾羽根を依頼主に渡せば剥製としての価値は下がるし、それはバラして捌かないといけない。剥製にしても同じオークションに一遍に出品すれば値崩れするから、保管するか別の国に移すかしないといけない。どっちでも輸送や保管で経費は掛かる。それに私達みたいに討伐するより保管や売り捌くルートを維持する方が、遥かに人も経費も必要になる。だからその買取額ということではないですか?」
奈津希の答えにオリベルトさんとアネアレスさんは目を見開いた驚きの表情で固まった。先に気を取りなおしたオリベルトさんが聞いてきた。
「君たちは12歳と聞いているが。なぜ、そこまで深く考えることができるんだ? ランクCのベテランだってそんなギルドの事情は考えない」
「私も奈津希も商人の職業スキルを持っています。たまたまそういうことを知る機会があっただけです」
干城は笑顔でそう答えておいた。流石は奈津希、こういうときや初対面の人相手だと社会人口調になる。
それはそれとして、今回の報酬額はランクDとしてはあり得ない額になるだろうと干城は思った。
「今回の報酬額はランクDの稼ぎではなさそうですね」
アネアレスさんが報酬の相場として答えてくれた。
「そうだな、これに更に魔石を提出すれば、その買取額も加わる、ランクA冒険者並の稼ぎになるだろう」
「そこまでとんでもない稼ぎですか」
「そうだ、だがそれが君達の実力だ、それにランクDは通過点であって限界点ではないだろう?」
「分かりました、それで買取をお願いします、魔石は考えて後日にします」
「解った、手続きを進めよう、報酬は口座に振り込んでおけばいいかね」
「口座とは?」
どうやらフリーランスギルドには口座があるらしいのだが、奈津希がラノベでは当然ねと言って一人納得して頷いていた。奈津希は世界中に支部を持つラノベの冒険者ギルドをフリーランスギルドに置き換えて話した。世界中を渡り歩けば通貨も変わる、そういうときはギルドは両替商のようにもなるし、高ランクなら報酬も高額になるから現金は持ち歩けない、だから銀行の代わりもするということだった。なるほどな、と干城は納得した。
それで、ギルドカードに口座を紐付けて、口座に報酬の入金ができるし、必要の都度引き出すこともできるようだ。今回は報酬が高額なので口座を作って入金した方がいいだろう。
「ギルドカードに口座を紐付けてないか?」
「今回がランクDになっての初依頼でした、これまで口座を必要とする程の報酬はありませんでしたので」
「そうだったんだな、口座はどこのギルドででも開設できて、ギルドカードに紐付けする事ができる、今回の報酬にしてもそうだが、今後を見据えれば口座は開設した方がいい、君達は将来間違いなく冒険者となるだろうからね」
「分かりました、口座開設の手続きはどちらで行えば良いでしょうか?」
「金銭出納の窓口があるから、そちらにギルドカードを提出して、手続きを申し出ればいい」
「わかりました、そうします」
話もひととおり終わったかと思ったとき、オリベルトさんとアネアレスさんがしみじみとした感じで話し始めた。
「しかし、これがランクDでの初依頼達成とは、噂とは尾鰭や背鰭が付きそうなものだが、噂の方が大人しいんじゃないか? ログマイヤ支部期待の新人というのも間違いないが」
「全くですね課長。ですが、グランドマスターの人を見る目は確かです、私も将来間違いなく冒険者になる逸材との評に同意します。実力もですが二人とも12歳と思えない落ち着きと礼儀作法もあります。ベテランフリーランサーにも見習って欲しいものです」
干城と奈津希はそれを聞いて居た堪れなくなった。実力はチート、礼儀作法は前世50代の賜物だ。義務教育もない国の正真正銘12歳と比べられるのは反則が過ぎる。二人は一礼してそそくさと事務所を退室した。
事務所を出て干城は息を吐いて脱力した。
「勘弁してくれ。ただの反則で大したもんじゃないんだけどなあ」
「仕方ないわね。前に言ったでしょ、アタシ達はチートを捨てない限りこうなるわよ。これが当然と傲慢になるのは論外だけど、多少の割り切りは必要よ。こうなるのはラノベの定番展開なんだし」
奈津希の言うことも分かる。だが、干城はこれに慣れることができるのだろうかとも思った。
受付けが並ぶ端に金銭出納の窓口があった。口座へ入出金する際やペナルティーを支払う場合に使うらしい。本来は報酬の受け取りもこちらだそうだが、大体は受付で一括処理するし、口座の入出金も申し出れば受付けで処理してくれる。なので、この窓口を利用するのは実質的には口座の開設かペナルティーの支払いのようだった。
席は空いていたがカウンターに立つと、手空きの受付嬢が対応してくれた。
「すみません、私と奈津希の口座開設をお願いします」
「はい、ギルドカードの提出をお願いします」
「はい、こちらです」
「こちらもお願いします」
「はい、タテキ・アリハラさんとナツキ・ユウガさんですね、暫くお待ちください」
……
「はい、手続き終了しました、ギルドカードをお返しします」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
口座も開設したし、依頼終了手続きを済ませることにする。報酬は干城と奈津希の口座に半分ずつ入金してもらえばいい。
依頼完了手続と共に口座に報酬を振り込んでもらい、今度こそ全ての手続きは終わった。二人はギルドの飲食コーナーで紅茶を頼み、一休みして心を落ち着かせることにした。
今回はとんでもなく稼ぐことができた。本来なら喜ぶべき宝くじに当たったような報酬額に、干城は些か複雑な思いを抱いていた。




