25. 米との出会い
あれから3日ほど経ち、新王祝賀バブルの落ち着きに伴ってEランク依頼も落ち着いたのでランクDに昇級し、ギルドカードの更新も終わって、ギルドマスターの執務室に通されていた。
部屋にはグランドマスター、ギルドマスターが居て、あとは案内してくれたソフィアさんだった。ギルドマスターからの謝罪で話は始まった。
「今回、昇級を足止めした事、二人には迷惑を掛けてしまったな、すまなかった」
「いえ、お気になさらず。たまたまタイミングが悪かっただけです」
グランドマスターのルヴィアスはそれでも不思議だった、なんの為に仕事をするか? 勿論稼ぐ為だ。ギルドから上乗せがあったとしてもランクを上げる方が良いに決まっている。だからルヴィアスは率直に疑問を聞いた。
「それにしたって、随分あっさり今回のことを受け入れたみたいじゃねぇか」
「奈津希が、これはギルドへのご恩返しと言いましたので、そのとおりだなと思っただけです」
「ご恩返し?」
「はい、ギルドには異世界から召喚された、私達を受け入れて貰った恩があります、今回はその恩に報いただけですよ」
ルヴィアスは感心したような顔をして、しきりに頷いていた
「お前さん達はそんな考え方をするんだな。そんなお前さん達を怒らせた、前王や前宰相の馬鹿さ加減は兎も角、今上陛下や宰相もそんなお前さん達を理解できなかったんだな」
「あの人達は、最初からお互いの常識だとか価値観とかの認識の摺合せすらしませんでしたからね。それに私達は平民である前に人だという事に気付いていませんでしたし、話合い以前の問題ですよ」
「それにしてもだ、タテキはなんでそこまで丁寧に話すんだ? オレなんかよりよっぽど歳上じゃねぇか」
「私達の元の国では、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉がありまして。自分に対しては、歳を取り色んなことを知って、経験を積んで技量が上がっても、それを鼻に掛けず謙虚になりなさい」という戒めなんです。それと稲穂はラデスのような植物です」
「なんというか、お前さん達の世界は本当に文化が違うんだなと思わされるし、感心させられちまうよ」
「それで、タテキとナツキ宛に城からこれが届いている」
ギルドマスターに渡された茶色じゃなく、金のアラベスク様式が装飾された白い封筒を受け取り、中を確認すると勅令の写しだった。
[召喚者に関する勅
我が国の召喚魔法により、異世界より召喚せし者に対する不要、不法な接触を厳に禁ずる。
召喚者に接触した者に対して、召喚者が如何なる対応をしようとも我が国は一切関与しない。
ユグリダ王国 国王 シルヴァノ・ゼノ・ベルギュート]
「玉璽の鈐印もあるな、正式な文書だ、状態保存の魔法は使われているが、他に怪しいものはないな」
グランドマスターとギルドマスターに確認して貰うと、国璽が印された公文書として正式なものだと分かり、受け取った。
「なあギルマス、これほど理性的で礼儀正しいタテキとナツキを見ていると、この二人をあれだけ怒らせた、城の連中はどれだけの馬鹿をやったんだと思わずにはいられんな」
「全くですね、宰相も平民は貴族に従うものという貴族の常識からは抜け出せなかった。タテキとナツキを正しく理解したのは受付けとして接してきたソフィアだけだったのでしょう」
「確かにそうだな、切れ者と言われた宰相でさえ、タテキとナツキを理解できなかったんだからな」
そう言われてソフィアは居心地悪そうにしていたが、干城は正直そのとおりだと思った。召喚されて自分達を理解してくれようとしたのは、ギルドマスターとソフィアだった。だからこそソフィアの頼みごとを断ることはできないし、ギルドマスターに恩義も感じている。
「話は以上だ、今回二人に迷惑を掛けたが、ギルドとしては助かった、ありがとう」
「いえ、ギルドマスター。報酬上乗せもありましたので、大分稼げたのでこちらも助かりました」
「それでは、失礼します」
干城と奈津希は一礼して、ソフィアと共に退室した。
受付け前まできて、ニコニコと笑顔のソフィアさんにお祝いの言葉を言われた。
「遅くなりましたが、今回のランクD昇級おめでとうございます」
「ソフィアさんありがとうございます」
「ソフィアさんありがとう、アタシ達って昇級早いのかしら?」
ソフィアは少し考える風にして、にこやかに、だが少し呆れるように言った。
「そうですね、お二人はひと月ほどでランクDに昇級されてますが、標準的にはひと月でランクFがランクEに昇級するくらいですから、かなり早いですね」
「ああ、そう言えば前にそんな事を言ってましたね」
「それに、ランクEがランクDに昇級するのは、だいたい4〜6ヶ月くらい掛かります」
干城と奈津希は黙ってしまった、干城は日本人らしく微笑み返しで誤魔化し、奈津希は明後日の方を向いて誤魔化した。
「じゃあ、早速依頼の確認に行こうかな」
「そうね、そうしましょう」
依頼ボードへ逃げる干城と奈津希にソフィアのクスクスと微笑む声が聞こえた。
ランクDになって活動範囲は領内全域になった、貴族領なら分かるが、王領? と思ったら、王都のギルド所属の場合は王都領という概念の範囲があり、王の直轄領などを含めると王都のギルドで登録したら活動範囲が有利すぎるので、高位貴族領と同程度の王都領という範囲が決められていて、どの国のフリーランスギルドでも同じらしい。
「活動範囲が広がったのと、討伐依頼があって、報酬が標準的に銀貨になってるね」
「なるほどねぇ、ランクDから生活が安定しだす訳ね」
「でも、今までの日帰り圏内から活動範囲が広がった分出費も増えそうだよ、遠征費が必要になるから」
「それもそうね、ラノベで遠征中の食事が粗末なのは、荷物や匂いの問題もあるけど、食費を切り詰める為もあるのかしら?」
「贅沢三昧してたら、報酬が赤字になるかもね」
「荷物に関してはアタシ達は有利ね、久々に料理の腕を上げなきゃね」
「テントとか、遠征道具を揃えないといけないね」
「そうね、今日は買い物にしましょう」
野営用具を一通り取り扱っている商会に来た、今は予算に余裕があるので、全部揃えようとなった。
魔物皮を使った防水テント、魔道具ランタン、寝袋、マット、砥石などを買い、店を移して鍋や包丁、食器などを買った、ソロ活動する事があるかもと、それぞれで買うことにした。
「キャンプはした事ないけど一通りは買ったかな」
「そうね、一度は外で過不足がないか試してみましょう」
「それが良いね、あとはどうしようか?」
「市場に食料調達に行きましょう、インベントリで痛む心配はないから買い溜めしても大丈夫でしょう」
「分かった、そうしよう」
食材は空間収納からインベントリに移していた、今インベントリの格納物は殆ど食材だ。
ラエスタで買った魚介や野菜も十分あるが、インベントリを活用しない手はないので、肉や野菜を買っていく、他に小麦粉や塩、砂糖などの調味料も買い足しておく、市場を物色していると赤米が目に入った。
「赤米か、古代米を見掛けるとは思わなった」
「米に郷愁は……古代米は流石にないわね、身近なものではなかったし」
「炊き方が分からないしなぁ、それにあんまり美味しくないって聞くし」
「あら? そっちは白米じゃないの?」
奈津希が指差した先には白い長粒種の米があった。
「ホントだ、見た目はインディカ種みたいだね、香りは……余りないか」
「どっちが馴染みがあるかと言われれば、こっちね」
粳米ではないが、米には間違いない。干城は取り敢えず買っておこうと思った。
「すみません、この米……米か?……」
「どうした坊主? コメ? こいつは白ラデスで、そっちは赤ラデスだ」
「ラデスと言うんですね」
「ああ、南のトレクエニグ地方が産地でな、結構腹持ちが良いぞ、赤ラデスはそれだけじゃ美味くないが、白ラデスに少量混ぜて炊くと美味くなる」
「そうなんですね、それでは白ラデスを二袋下さい」
「二袋もか! 分かった、持ってくるから待ってろ」
目分量で一袋20キログラムほどの麻袋だった。
「今更だが坊主持てるのか?」
「大丈夫です、お幾らでしょう?」
「値段は二袋で17レラ60リギルだ」
「分かりました、はい、17レラ60リギルです」
銀貨1枚、白銅貨7枚、銅貨6枚を渡し、白ラデスの袋を空間収納に仕舞う。
「空間収納が使えるのか、羨ましいな。あ! 坊主、赤ラデスは買わなくて良いのか?」
干城は店をあとにしていた。干城は赤米を勘違いしていた、店主の説明に地球と同じか? と思っているが、赤ラデスを少量混ぜて炊く事で炊き上がりが粳米の様にふっくらするのだ。干城は当分パサパサのラデスを食べる事になる。
それからも市場を回り、そのあとは屋台広場で食事にした。食後に王都の外に出て、魔法練習地で野営の練習をしてみようと決まった。




