2. 城での惨劇
王は騎士達に命じた、その指示により、近づいてきた騎士から抜き身の剣を突き付けられた干城と奈津希に、ローブを着た二人の男が隷属の首環を持って近付いて行く。
干城と奈津希は無我夢中で目の前の騎士を風の早さで蹴り倒し、剣を奪ってローブの男を切り捨てる、それは切っ掛けだった。
その瞬間パァっと初めて補助輪なしで自転車に乗れた時の様に、自転車の乗り方を頭と体が一瞬で理解した様に、剣の扱い方や立ち回り方、二人での連携の仕方が理解出来た。
干城は人の殺意や害意を感じる事が出来た、相手が何処を狙っているか、何をしようとしているかが読み取れた、奈津希がどう動こうとしているかが分かった、それは奈津希も同様のようだ、お互いをどうカバーしあい、どう次に繋げるかの連携が出来た。
矢庭に騎士達は鎧が擦れる音を立てて動き出す、二人は言葉もなくお互いを知り尽くした様な阿吽の連携で、干城が受け流したところを奈津希が斬る、奈津希が弾いたところを干城が斬る、謁見の間に剣と剣がぶつかり合う激しい音が響く、二人は無意識に身体強化魔法を行使して、次々と向かって来る騎士を斬り伏せていった。
二人の動きは徐々に洗練され、速度を増していく。それに伴い、謁見の間に漂う血の匂いも濃くなっていった。ふと干城は、王と王妃、王子、そして宰相がこの場から逃げ出そうとしていることに気付く。そんな干城の動きに奈津希が合わせ二人は即座に、倒した騎士の剣やハルバードを掴んで投げ放った。凄まじい風切り音と共に放たれた鉄塊は、逃亡を図った王族たちの身体を容赦なく大地を穿つかのような音と共に壁へと縫い止め、絶命させる。
干城は返り血すら浴びることなく、流れるような連撃で騎士たちを斬り伏せていく。奈津希も淡々と向かってくる騎士を斬り伏せている。干城の心は冷静に凪いでいた、思考は効率の良い排除しかなかった。干城が重厚なドアに向けて騎士の死体を投げつけると、すかさず奈津希が投擲した二本の剣は、落雷の如き音を立てその肉体をドアごと貫き、ドアの開閉を阻む強固な楔となった、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した貴族達の唯一の逃げ道が塞がれる。騎士たちも必死の反撃を試みた。しかし、この謁見の間に対して彼らの数は多すぎた。さらに半数の騎士は、威容を見せつけるために長いハルバードを装備していた。この体育館ほどの広さは、集団が機能的に戦うには空間が足りず、長い武器はそれが仇となり、集団戦の連携を乱す原因にしかならない。ローブの男達の魔法の流れ弾に当たる者、仲間の死体に足場を阻まれ隙を晒したところを、干城と奈津希の連携に断末魔を残して各個撃破されて、一人また一人と数を減らしていく。
脂で切れ味の鈍った剣を投げつけては数人の敵を壁に串刺しにし、足元に転がる武器を拾っては次へと繋ぐ。やがて干城は甲冑の隙間を狙わなくても敵を斬り伏せるようになり、排除する効率が更に上がった。逃げ場を失った明確な害意を向けていた貴族たちやローブの男達を容赦なく斬り伏せていった、奈津希も同様だった。生き残ったのは、初めから二人に対して殺意も敵意も抱かなかった、ただ怯えるだけの貴族だけだった。50分ほどの後、剣戟の音と阿鼻叫喚の叫び声のすべてが終息した時、謁見の間に水を打ったような静寂が訪れた、死者は騎士や貴族を含めて100を超えていた。
辺りは死体の山と血の海。むせるような悪臭が充満し、地獄絵図そのものの惨状が広がっている。静寂の中、身体強化魔法と先程の凪いだ心は霧散し干城は自分たちの所業に戦慄していた。
なぜ、絶対に逃がさないなどと思ったのか。なぜ、急にこれほどの立ち回りができたのか。なぜ、平然と人を殺し続けられたのか。前世の倫理観に照らせば、あり得ないことばかりだ。そして何より――この凄惨な光景を前にして、良心の呵責がまるで無い。自分が自分でないような感覚。変わり果ててしまった己への恐怖が、脳内で「なぜだ、どうしてだ」と際限なくリフレーンする。何が何だか分からない自分に恐怖した。
干城は一刻も早くこの場から離れたかった。こんな異常な空間には居たくない。だが、去るためにはそれ相応の「言い訳」が必要だった。生き残った貴族たちを牽制し、追撃を断念させ後顧の憂いを断つためのハッタリが。干城は平静を装う表情の機微に細心の注意気を払いながら生き残った貴族の中で、最も身なりが良い男へ近づいた。濃い茶髪に、モミアゲが白髪に染まった40代ほどの、意志の強そうな貴族だ。
男の射すくめるような視線を正面から受け止め、静寂の中、干城は全体に聞こえる声で言い放つ。
「信用できる者も居ない、一滴の水すら口にできない敵地には、これ以上居られない」
「賠償などと理由をつけた金を受け取れば、後で何を要求されるか分かったものじゃない。後で理由を付けて接触しようなどとするな」
最も身なりの良い貴族に向かって静かに警告する。
「今後も私達に関わろうとするなら、敵対したと見なして殺す」
警告した貴族から離れ、生き残った者たちを端から見回す。最後に死体の山と血の海に冷徹な視線を落とし、再び告げた。
「もうここに用はない。今後は関わろうとしない限り、こちらからは何もしない。だが、関わるのなら――そのときは必ず、徹底的に反撃する」
言い残し、干城は手にした武器を床へ投げ捨てた。地に落ちた剣の硬質な金属音を合図にするように、奈津希の手を引き、何も持たずに、地獄と化した謁見の間を後にした。
干城には人生を潰されたこの国との決別は避けられないだろう、追手が掛かれば抵抗する。少なくともあんな輩で国王が務まるこの国の為に何かを成そうとは思えなかった。




